創作世界未来

□私はそれを「凶器」と呼ぶ
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十二使が死んだなんて情報は、組織に一切入っていなかったけれど、
もう一度戦う前にどうしてもこの目で貴方の姿を確かめておきたくて。

相手が十二使、乗船記録は一般とは別扱いな分、
記録がほとんど出てこなくて苦戦したけれど、足取りくらいは掴める。

朝ご飯もそこそこに旅団所有の飛空挺に偽名で一般乗船。

初戦のフラッシュバック。
青く広がる空に、8色の剣が映ったように見えた。


目的の街に飛空艇が到着したのは昼下がりのことだった。

飛空挺から降りる直前、貸し出された一室で
この間買ったばかりの白いコートに腕を通してフードを頭にかぶる。

足取りを掴んだからって現在位置まで特定するには
発信機でも付けていない限り不可能だ。

同じ街に居るからってすれ違うかどうかも危ういのだけれど。
1人の人物を、当てもなく探すのは少々骨が折れるだろうか。

だからってその程度で諦めたりはしないけど。

街並みを眺めながら歩く。 日差しに照らされ、買い物帰りらしい女性。
旅団支部に向かうらしい武器を携えた男性、大通りを駆けていく数人の子供達。

いろんな人が行き交う大通り。
店を、人を眺めながら、進んでいく。

・・・足がその場で留まった。

男女2人が大通りの端で立ち話をしていた。

対面したわけではないけれど、画面越しだったかで
見覚えのある海色の長い髪を揺らした25前後の女性。

その女性と話す、パッと見女性と間違えそうなほどの
赤い髪を長く、長く伸ばした彼の、姿。

・・嗚呼、なんだ。 苦戦なんてことは何もなかった。
だってこんなにもすんなり見つけられたんだもの。

唇が自然と釣り上がった。

色鮮やかなまでの赤い長髪は嫌でも視界に映ったけれど
見向きもしないまま、彼の隣を平然と通り過ぎた。


「(久しぶり、殺したい人)」







「・・!!」


会話の最中にも関わらず、話を突然やめばっと大通りヘと顔を向けた
十二使の同僚である彼へと疑問符付きで名を呼んだ。


「・・・グラシア?」
「・・・・・」
「・・・」


返答の無い同僚を見上げたまま口を噤む。
どうやら先程感じた、誤差範囲の殺気は私に向けたものではなかったらしい。

通行人の歩いていく姿を、彼は大層驚いたような表情で見続けていていた。

水色の瞳が揺らぐ。 数度の瞬きを繰り返し、
彼は大通りから目線を外し、再度私へと顔を見合わせた。


「いや、なんでもない・・気のせいだったようだ」
「・・あのね。 私にそういった嘘が通じるとでも思ってんの」
「・・・」


明らかに『何か』があった様子だった。
加えて向けられていないはずなのに察知した殺気。

反応からして彼に向けられたものだと推測できるのも自然だろう。

静かに告げる私に、彼は少し観念したように瞼を伏せた。


「・・定例会議の時に報告した、例の彼女だよ」
「あぁ、幼馴染だったっていう。 ・・今通ったの?」
「・・恐らくね」


もう姿も見えないだろう、相手が歩いていった先を
じっと見つめている彼の様子を見て小さく息を吐いた。

もう1年くらい前になるだろうか。
彼が定例会議で戦闘になったという報告をしたのは。

堕天使の女性と戦闘になり、彼はそれを平然と往なして。
その上で、グラシアは彼女の片翼を斬り去って。

当の会議では告げられはしなかったものの、
相手が彼の昔の幼馴染という事実は今や十二使が全員知っている。

この人にも厄介な相手が付いてしまったものだ。
・・・グラシアが負けるとは思わないけれど。

ただそれでも。 殺意は充分に凶器だし、立派な刃だ。
鋭い殺意は目に見えないにも関わらず、相手を怯ますことも可能だ。


「・・・メーゼ」
「ん」
「『自分に向けられた殺気は痛いほど分かる』と、君は言っていたな」
「言ったわ」

「・・・はは、成程。 今ならその言葉の意味が分かる気がするよ」


空笑い、自嘲にも似た笑みが浮かべられる。
少々険しい顔を浮かべた彼は人々行き交う大通りへと顔を向け。


「・・これは相当来るね。 殺気を痛いと感じたのは・・初めてだ」


眉を寄せ、細められた水色の瞳は見えぬ相手を睨むように。
その表情を見た私が彼に、何か言葉を掛けることはなかった。





私はそれを「凶器」と呼ぶ



(そうよ。 殺気って凄く痛いの)
(下手に斬られるよりも痛いもの)

(貴方は強いよ。 心配していないのも本心)

(だから、これは懸念)






初戦から1年弱の月日が流れて。


アリナ・サリン
  堕天使の女性。 堕ちた影響か、幼少期の記憶が無く、
  幼少時代のグラシアとの思い出を一切覚えていない。
  グラシアとの交戦時に右翼を斬られ、天使でありながら空が飛べない。
  自分を負かしたグラシアに並々ならぬ殺意を抱いている。

グラシア・クウェイント
  天使の男性。 旅団十二使の一角を担う『八駆』
  彼女が幼馴染であることを知るが、「敵としてのアリナは初対面」という
  割り切りをしたがゆえに、戦闘では遠慮も手加減もしなかった。
  この日、初めてアリナが自分に殺意を抱いていると知る。

メーゼ・グアルティエ
  グラシアとアリナのすれ違いに居合わせた十二使『夜桜』
  十二使の中では、比較的最初にグラシアとアリナが
  幼馴染だったという事実を知った人物でもある。
  戦闘に絡む、視線や殺気等の察知が得意である。





 

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