創作世界未来

□人生を垣間見る彼女
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差し出されたティーカップに入った紅茶を一口。
紅茶独特の味が喉を通っていく。

2、3人座れそうなソファの左端に座るフィアナは、
同ソファの右側に座るクロウを見上げた。

カップから上がる湯気、微かにコーヒーの匂いがするから
彼は紅茶ではなくコーヒーを淹れたのだろう。

フィアナの視線に気づいたか、彼は視線を返した。


「まだ緊張しているのか」


少々面白げに返されたクロウの反応に、フィアナは口を噤む。
少しして若干眉を寄せて観念したように笑みを浮かべる。


「うーん、なんでですかね。 人の家に行くのは初めてではないんだけどな」
「相手が俺だからではなく?」
「その影響がない、と言われたら多分違うんですけど・・・」


笑いながらどうしてだろう、と手に持つティーカップに翡翠色が落とされる。

クロウはコーヒーを一口飲むと、少しだけ悩んだ表情をした。


「・・なら、それは相手の人生をその目で見た影響じゃないか」
「・・・人生を?」


聞き返すフィアナに彼は頷く。
コーヒーを淹れたカップを少し離し、隣に座る彼女へと目を向ける。


「元々俺が地元の話をしなかったのもあるだろうが、
 仮に事前に話を聞いていたとして結局は口頭だ」
「・・・」
「言葉伝いと現実で見るのとは違った印象を受ける。
 他の人生の一部を垣間見たのだと思えば、お前の反応は自然かもな」


クロウの言葉に、彼女は瞬きを繰り返す。
小さく「人生を、」と呟いた声は室内に溶けていって。

彼女のその様子を伺い、クロウは再度口を開く。


「夏に、フィアナの故郷を案内してもらっただろう」
「はい」
「そこで過ごすお前を見て、『成程な』と思ったさ」

「・・・緊張はしました?」
「してなかったように思う、が」
「が?」
「・・不思議な感覚ではあった」


彼はそれだけ告げると、飲みかけだったコーヒーに再度口を付けた。
フィアナは彼のその様子を見、少しだけ俯いた。


「・・回答は参考になったか?」
「ふふ、とても。 納得しちゃいました」
「それなら何より」

「クロウさんの解説聞くのなんだか心地いいんですよね。
 腑に落ちるというか、納得するというか。 『それなんだ』って感じ、」
「・・・お前に影響与えるのは、少々プレッシャーを感じるな」
「え、 な、何故?」
「個人的に」


クツクツと笑みを浮かべるクロウに、
少々不服そうな彼女が小さく口を尖らせる。

この流れで聞いて答える人じゃない、と判断したらしい彼女は
消化不足のように頬を掻いた。


「・・・クロウさんの、ご家族の話を聞いてもいいですか?」
「構わないが」
「ご家族さんは家を空けることが多いんですか?」
「実家に戻った時に両親が居る確率は半々くらいだろうか。
 家が留守でもさして驚きやしない、くらいには居ないな」

「・・旅団員でもないのにその頻度はなかなか・・・」
「思い立ったが吉日というか、良くも悪くも放任主義というか・・・
 俺が旅団に入ったのはそんな親の遺伝かもな」


そう答えきると彼は残り少なかったコーヒーを飲み干し、
テーブルの上に空のカップを置く。

クロウの話に相槌をしたり頷いていたフィアナが、
黙り込んだままクロウの横顔を見つめる。


「・・・・」
「まだ何か聞きたさそうだな」
「・・聞いていいのか悩んでることが1つ、あって」
「聞くだけ聞こうか」


答えは質問の内容による、という奴だ。
フィアナは少し言いづらそうに、一瞬目線を落とした。


「クロウさんに、姉妹さんが居ると 予想したのですけど」
「・・・どこで気づいた?」
「玄関先で。 女の子物の靴が置いてあったわりに、
 クロウさんに家族の話を振っても両親のことしか返ってこないから」
「相変わらず信じられんほど鋭いな・・・」


唸ったように額に手を当てたクロウを、申し訳なさそうに見上げる。

観念したかのような反応を見せたのは彼の方で、
ゆっくりと息が吐き出された。


「・・妹の方。 もう10年も前になる」
「それは・・・随分と若くして、」

「フィアナ、1つ聞きたい」
「はい?」
「先程の質問、本当に最初は『玄関先』か?」
「・・・・」


クロウの問いに彼女は表情を変えないまま彼を見上げる。
翡翠は揺らがず真っ直ぐに、彼を捉えている。


「・・何も気付かなかった、と答えれば 嘘になります。
 誰かを亡くしているような雰囲気は感じていました」
「・・・」

「ふとした時に、クロウさんの目が後悔の色に染まるんです。
 その時の雰囲気でなんとなくは・・・それと、癖が」
「癖?」


フィアナの言葉に彼が疑問符を投げる。
彼女はクロウを見上げたまま、目線を少しズラした。

彼のダークブロンドの髪は左側がすっきりしている。
比較的見る機会の多い左耳には、シルバーのリングピアスが付けられている。


「癖とは言っても意識した動作だとは思うんですけど、
 左耳のピアスに、貴方が祈るように触れるから」
「・・・よく見てるな」
「まぁ、相手が相手なので目が追っちゃうというか」


小さく笑むフィアナに、彼は再度息を吐き出す。

特別隠していたわけではなかったが、
言う必要も無いだろうと伏せていたのは事実だった。


「全く・・常々感じてはいたがお前に隠し事はできんな」
「・・・ 今回は実家帰りと妹さんへの挨拶、どちらがメインでしょう?」
「両方。 後で付き合ってくれるか?」
「もちろん。 私がご一緒でも良いなら」





人生を垣間見る彼女



(察し良すぎるのも考え物だな・・・
 余計なことまで知りかねない点だけが懸念だ)
(自分は余計だと思っていないのですけどね)
(・・・・・、いや・・これは俺が気に掛けるだけ無駄かもしれんな)
(? え?)

((フィアナを信じると言うならば))






彼の妹が亡くなってるという話に触れるのは2度目だと思う。

フィアナ・エグリシア
  洞察力凄すぎてクロウですら舌を巻く一旅団員。
  クロウの家族に『4人目』の存在を感じた彼女は、
  「ご両親は」ではなく意図的に「ご家族さんは」という言葉を選んでる。

クロウカシス・アーグルム
  10年ほど前に妹を亡くしている十二使『氷軌』
  家族との仲は悪くなかった。 寧ろ多分良い方ではある。
  妹が死んだ理由は現在構想中。 因みに妹の名前はカミネ





 

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