創作世界未来

□花束抱えて墓参りへと
1ページ/1ページ






クロウの実家案内を終え、一息付いた2人は彼の家を出た。

清閑の街、カルムで主要とする店をいくつか跨ぎ、
最終的に目的とし辿り着いたのは花屋だった。

店先に並ぶ花は色とりどりで、
フィアナが生まれ育ったツァイトでは見かけない花も多様にある。

花屋の店主と挨拶をするクロウの脇で、フィアナは花を見比べていた。


「いやぁ、クロウ君もマメだねぇ」
「・・まぁ旅人の身なので。 近場来た時に寄るようにしてるだけですよ」
「ご両親ですら命日しか行かないって聞くよ?」
「いや、あれはあれで、考えてるとは思うが・・」


店主と会話しながら、彼も花を見繕う。

あまり花に詳しくないらしい彼は、いくつか選んでは店主に
使っていい花なのかを聞いている。

店主が行う花言葉の説明を耳にしながら、店の奥から出てきたフィアナへと
目を向ければ彼女は胸元に淡い黄色の花を持っていて。


「おや、木香薔薇だね」
「木香薔薇、」
「よければ花束の一角に、と思って・・どうでしょう?」


薔薇特有の枝にあるはすの棘は無く、
2、3cmほどの小さな淡い黄色の花をいくつも咲かせている。

薔薇らしく花弁は多いが、この花を花束として見かけることは少ないだろう。


「綺麗だな、 ・・これも組み込めるのか?」
「勿論」
「なら頼む」

「はいよ。 嬢ちゃん、花預かるね」
「お願い致します」


店主はフィアナが抱えていた木香薔薇を受け取ると、クロウに
「もう少し選んでていいよ」と声を掛けるとカウンターの方へと向かった。

声に頷いたクロウは、傍らに立つフィアナへと視線を向ける。


「花に詳しいのか?」
「気に入ったものは、という感じでしょうか」
「・・初めて見る花だった」
「本来は庭園やアーチに使う花なんですよ。 剪定要らずで、
 もっと花が付いているんだけど・・店先の物は控えめですね」


木香薔薇の解説をしながら、カウンターに持って行かれて
姿の見えぬ花に向けて笑みを浮かべるフィアナ。


「何故あの花を?」
「・・・かつての時間が、少しでも幸せだったように、」


瞼を伏せ、祈るようにそう呟く。


「少々独善的かもしれませんが」


彼女は少し申し訳なさそうに、眉を下げて笑った。







クロウカシスの妹、カミネ・アーグルムの墓は町外れにあるという。

花束を抱えたフィアナと他の荷物を手にしたクロウが街を歩く。
人が住んでいる気配と、人とすれ違う頻度は比例しないように思う。

白や黄色と落ち着いた色の多い花束。
クロウが言うには、花は妹が好みそうなものを選んでいるらしい。

街外れ、街中よりも人の在住気配が無くなり閑散としている。
妹の分もあるという墓地には墓標が等間隔に置かれいる。

[Camine Agullum]

そう書かれた墓標の前で、彼は足を止める。
少しだけ墓を見つめ呟くように。


「定期的に戻っているから、さして汚れてはいないと思うが」


彼の言葉どおり、墓標含め周辺は比較的綺麗だ。

墓に水を掛け、周りの落ち葉を軽く掃き、墓の前に買ったばかりの花束を。
墓の前で手を合わせ、瞼を閉じ黙祷を順に捧げる。


「・・・」


仲が悪かったわけじゃなかった。
寧ろ兄妹にしては良かった方、だろうと思う。

いくら旅団に属する身だとしても、嫌いであれば
頻繁に地元に戻ってくることもないだろう。

・・・現場に居合わせなかった。 ここからは離れた地に居た。
自分の責任じゃない、それどころか負えるような責任もない。

ただ、運が悪かった。 それだけだ。

伏せた瞼、視界は暗闇が覆う。
微かに吹き付けてくる冷たい風は頬を撫でていく。

ふとクロウの左手に温かい手が重なった。

瞼を開けばフィアナが心配そうにこちらを見つめており、
彼の手の甲に細い指先を重ねている。

綺麗だと思う翡翠色が、今は切なげに瞳を細められる。

幾度か瞬きを繰り返したクロウは、表情を和らげて小さく笑みを浮かべた。


「そんな顔をするな」
「・・・でも、クロウさん 辛そうです」


心配げな表情、いや、それだけじゃない。
辛そうだと心配するフィアナの方が、クロウよりも辛そうな表情をしている。

彼女の表情を視認したクロウは小さく息を吐き出すと、
フィアナが触れていた左手を上げ、彼女のオレンジ色の髪をすくった。


「・・負える責任も無ければ、後悔する理由も無い」
「・・・」
「良くも悪くも随分と影響を与えられたさ」


夕日のような色をした髪を、指と指の間に通す。
柔らかい髪はその手からするりと抜けていった。


「残る理由が無いことも、戻らないことも解っている。
 手の届かない過去よりも目の前にある今の方が大事に決まっている。
 ・・・本心でそうは思っていても、どうしてもな」


小さく笑みを浮かべ、再度フィアナの髪をすくう。
少しだけ眉を寄せ、心配げに見上げる表情は変わらず。

翡翠は真っ直ぐクロウを見つめている。

息を吐き出しながら彼は一瞬目を逸らし、
空いていた右手の指先を彼女の頬に触れた。


「お前が優しいのは知っているが、その表情はやめておけ」
「・・・そうは、言われても」
「俺のそばに居るつもりなら、とでも言おうか?」
「・・! ・・・あの、」


驚いた表情を浮かべたフィアナが、ゆっくりと俯いていく。


「知ってて、それは 卑怯だと思います・・・」


俯いた彼女の微かに赤い顔は、気の所為ではないのだろう。





花束抱えて墓参りへと



(もー・・・もう・・クロウさんのこと好きですけど、
 それを分かってて、みたいな発言 ほんと、ずるいです・・)
(今日は珍しい表情がよく見れるな)

(・・・・どれくらい本気で言ってるんですか・・・?)
(・・どれならば聞きたい?)
(・・・わ、私が、 これ以上照れない程度で、?)
(く、 その注文は難しいな。 どう答えたものか)






墓参り編

クロウカシス・アーグルム
  現場に居合わせなかった彼に責任は何も無い。 ただ残っている。
  妹、カミネを亡くしたのは設定が変わらなければ高校2年の時。

フィアナ・エグリシア
  気に入ったものであれば花にも詳しい。
  木香薔薇の花言葉は「幼い日の幸せな時間」 初恋という花言葉もある

カミネ・アーグルム
  クロウの妹。 当時中学生だったと予想される。
  父に似ている兄に比べ、どちらかと言うと母に似ている。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ