創作世界未来

□いつもと違う朝の宿にて
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「(・・・今日は遅いな・・)」


宿内に設置されたキッチンスペースの一角。

太陽が昇ったばかりの朝、窓からは日差しが入り込み
明かりがなくとも充分に作業ができる環境であった。

ダークブロンドの髪を右側だけ長めに伸ばしている彼、
クロウカシスは朝食の準備をしながら、スペースの入り口を横見にした。

彼は今、ある旅団員と行動を共にしている。

とは言っても最近は2週間に3日ほどの頻度だったが、
最近彼らに事件が起こり、行動を共にする日数が自然と少し伸びた。

互いが口にしたわけじゃない。 ただなんとなく、だ。

フィアナ・エグリシアが彼と行動した際、彼女がご飯の準備をすることが多い。

クロウの起床が遅い、準備をしないというわけではないのだが、
朝方に何かしら情報確認や連絡を取ることが多い彼が部屋から出てくる時には
大方フィアナが朝ご飯の準備を済ませた後である。

今日もクロウの生活はほとんど変わっていない。
本来ならとっくに起きていても可笑しくないフィアナが姿を見せないのだ。


「(・・冷めるな、)」


ほとんどの準備を終えて、後はトースターに入れるだけの
食パンを見つめながら懸念1つ。

小さく息を吐き出した彼は再度キッチンスペースの入り口を見やった。

相変わらず彼女は姿を見せない。
・・フィアナも寝坊はするらしいが、あまりにも遅いのでは・・・

・・・心配になってきた。

準備していた物をその場に置いたまま、
クロウはキッチンスペースから出ていった。







宿の階段を上り、クロウが借りた部屋から数部屋先。
フィアナが借りた部屋にノック3度。

・・・10秒ほど待ってみても返事は無いどころか
人気があるのかさえ不安なほどに、室内から物音がしない。

彼らが借りた宿は旅団員証の読み込みで鍵の開け閉めが可能なため、
フィアナがクロウの旅団員証分を登録していないと鍵は開かないのだが・・・

ドアノブを握り、下ろす。
そのまま扉を押すと、扉は難なく開いた。 鍵が掛かっていない。


「(・・・不用心な)」


呆れたように息を吐き出し、彼はそのまま扉を開けた。
室内を1周見渡すと、ベッドに毛布を被った膨らみが在った。

鍵が掛かってなかったことの呆れ半分、無事は確認できそうだと安堵半分。

室内に入って扉を閉め、ベッドの脇まで近づく。

ベッドに少しだけ散らばったオレンジ色の長い髪。
顔が視認できるほど近づいた際、クロウは少しぎょっとした。

微かに、ただ確かに驚いた表情はフィアナの顔を確認した時。
寝息は立てている。 彼女は眠っていた。 眠っていた、のだが。

クロウは少しだけ眉を寄せると、眠るフィアナの肩を掴んで揺すった。


「おい、フィアナ」


フィアナが瞼を開くのはそう難しくなかった。
程なくして彼女は翡翠色の瞳を見せる。


「・・あれ・・・クロウさん、?」


彼女は寝起きであるようだが、寝起き特有の眠さはあまり感じられない。
普段より少々長く寝ていた影響だろうか?

フィアナは首を傾げたさそうに、室内に居るクロウの存在に驚いている。


「どうかしたのか?」
「え?」
「泣いている」
「え」


彼女の翡翠色の瞳、目尻からは水らしいものが残っている。
涙は流れ落ちたばかりらしく、フィアナのこめかみ部分には水の伝った跡が。

驚いた様子で手を伸ばし、指先で涙を拭う。


「わ、ほんとだ」
「夢でも見たか?」
「うーん、何も見てなかったように思うんですけど・・・」
「・・・・」


ゆっくりと身体を起こし、顔周りに伝った涙を指先で拭うフィアナ。
彼女の返答に、クロウは悩んだ表情を微かに見せる。


「・・・驚いた、起きたら泣いていたなんて、初めてで」
「・・俺も驚いた」


この短期間にそう何度も見るものではない。
・・・特に、彼女みたいな人は。


「すみません、起こしてもらって」
「それは構わないが。 飯の準備ほとんど終わってるぞ」
「え、うわ っわ、そ、そんな時間ですか・・!?」

「ふ。 支度して下りてこい」
「はーい!」





いつもと違う朝の宿にて



(それといくら旅団提供の宿とはいえ、鍵は閉めるようにしておけ)
(え、開いて・・・あっ、)
(・・ま、今日は開いているおかげで助かったが)
(鍵閉めてたらクロウさん入ってこれてなかったですもんね・・
 ・・・変なとこ見せちゃったな、 なんでだろう)






フィアナ寝坊回。

クロウカシス・アーグルム
  旅団十二使の一角を担う『氷軌』 ということを知る人物は少ない。
  朝はある程度早いが、たまに時差でやられているかもしれない。
  時差にやられないように調整していそうだけど。

フィアナ・エグリシア
  弓使い一般旅団員。 朝起きる時間はブレ気味だが早い方。
  突然離れたところに飛ぶ、ということが少ないため時差ボケ自体少ないが
  稀に遠いところに飛ぶとモロに食らう。





 

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