創作世界未来

□僕はそれを「執念」と呼ぶ
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夕暮れ、オレンジから青へと色づいていく空。
秋も中頃、風も冷たく比較的過ごしやすい気候だ。

街中を歩く、一目だけ見れば女性かと見間違うほどの長い赤髪。
背中からは本来より少々小さいであろう白い翼が2つ。

日焼けをしているというほどでもないが、血色の良い肌。

ビー玉のような透き通るほどの水色の瞳は、この街の景色を映している。

高い建物が並ぶ街並み、街の西側には高い丘の上に古城が聳えている。

古く少々廃れた城であるがこの国は王国じゃない、元王国だ。
この国に王様は存在しない、その上であの城は無人である。

人気も無く、近づく者も居ない、数十年の時を掛けて
城の庭から伸びた植物は城を半分ほど覆っている。

ブーツを履いている彼の足音。
腰ほどまでの長い赤髪が風に揺られて。

彼の向かいからカツン、と 高く響いたヒールの音に足を止めた。

対峙するように向かいあった、彼よりも一回り低い女性相応であろう背。
深緑色のセミロングを揺らして、伏せられていた赤色をゆっくりと開く。


「この日を、この時を、あの日からずっと・・待っていた」
「・・・・」


落ち着いた深緑の髪に似合わぬ、狂気に満ちたような赤い瞳。

彼が『彼女』と会うのは2回目であったが、
彼女の赤い瞳は当時よりも酷く、歪んでいるように見える。


「・・・アリナ」
「覚えててくれて嬉しいよ、グラシア」


少し緊張したような面持ちをしたのは、グラシアと呼ばれた彼で。
上がる口角、声に込められた殺意を表したのはアリナと呼ばれた女性だった。


「ね、今宵はアリナのリベンジマッチ。 勿論、受けてくれるよね?」


細められた赤い瞳、美麗ながらも歪んだ微笑みに、彼は少しだけ息を呑んだ。







グラシア・クウェイント

長く赤い髪を揺らしたサファリ旅団十二使の一角を担う『八駆』である。

旅団と言えば世界的に活動し、貢献する組織だが
一般旅団員は十二使である彼らを「知らない」。

幹部的立ち位置に居る十二使、そして旅団の最高機密とも言える彼らは
旅団と敵対する組織メンバーとの対人戦を行う。

一旅団員では太刀打ちできないほどの強さを兼ねた組織メンバーとの戦闘。

基本的に旅団員は理由と合意無くしては対人戦が許されないが、
十二使は特定条件下において、許可無しに本気の戦闘が許された立場である。


対してアリナ・サリン

深緑色のセミロングほどの髪を揺らした彼女こそ、
旅団と敵対する組織のメンバーのうちの1人である。

その組織に属する者の相手こそ、『特定条件下』である。

彼女は天使でありながら堕ち、瞳は赤く染まり、
真っ白であるはずの翼が濁る、所謂堕天使と呼ばれる種族だ。

去年組織の任務中、旅団長の命で現場に向かったグラシアと戦闘になり、
アリナは彼に一撃も与えられず、自らの右翼を斬り落とされて完敗した。

とてつもない執念と、彼への殺意をその胸に抱いた1年間。

彼女は今日が、1年前のリベンジマッチなのだと口にした。


街中を歩む人々とは違う、緊迫とした雰囲気を纏い対峙する2人。

笑みを崩さないアリナの腰のベルトには、
棒術に使うような長い棒が1本挿されている。

戦闘には不向きであろうヒールの靴に、膝上のワンピース。
首元には黒薔薇のチョーカーも付けられている。

前回と同じ衣装、前回とは違う武器。
グラシアは辺りを一瞬見回した後、再度彼女へと視線を戻した。


「・・・・こんな街中で戦うのかい?」
「ううん。 流石にこんな邪魔の多い場所ではね」


笑みを浮かべたまま、肩を上げて否定を見せるアリナ。

その返答で、一般人を巻き込む可能性が潰せたことに
あまり表情が変わらないながらも彼は安堵する。


「私が貴方との再戦に、再開を鉢合う場所をここに選んだのも理由があって」
「・・この街である理由?」
「邪魔をされない、うってつけの場所があるの」


そう言って笑みを浮かべたアリナは、彼女の背後にある古城を指した。
グラシアへと背を向け、少し歩いては振り返った。


「付いてきて」


今や化物城と呼ばれ、誰も近づきやしない無人の城へと
歩を進める彼女の後ろ姿を見つめながら、グラシアも歩き始めた。

・・・以前戦った彼女がそう言うならば、言葉通りであれば再戦なのだろう。

再戦だと口では言いつつ、罠だという可能性もあるが、
それならば初戦から1年も期間を開けた理由が分からない。

しかもその1年で1度だけ、グラシアは彼女の存在を感知したことがあった。

・・彼女の側に居るだけで肌が引き裂かれそうだ。
それほどまでに鋭い殺気は、直接的にぶつけられている。

挑まれたものから逃げるつもりはないが、
ここで彼女と鉢合わせたことへの連絡は入れたい。

「何かあれば連絡を」 幹部の所在確認とし、優先すべき事項ではあるが、
彼女の目の前で連絡をすべきかどうかも悩ましい。

どうしたものか・・ 彼は少し悩んだ素振りを見せた。


「援軍呼ばないなら、向こうに連絡入れてもいいよ」


グラシアよりも数歩先を歩く彼女が、背を向けたままそう口にした。
瞬きを繰り返しながら、彼は微かに俯く。


「・・・いいのかい? 連絡を入れただけに見せて、
 本当は他の十二使を呼んでしまうかもしれないよ?」
「敵とは言え人を騙すのは、貴方風に言うなら 美しくないんじゃない?」


アリナは肩越しに振り向いてクス、と薄く笑みを浮かべる。
彼は少しだけ目を見開き、次第に困ったように笑って頬を掻いた。


「・・参ったね、そう返されるとできるものもできないな」
「ふふふ。 貴方がよく口にしていたのが印象的だったの」


夕日も随分と傾き、後は暗くなっていく一方の街中。
着々と化物城と呼ばれる場所に近づいていく。


「グラシア、私はね」


歩きながら、彼女は呟くように短く語る。


「貴方との再戦を、真剣に望んでいるの」



戦いの時が、近づいている。





僕はそれを「執念」と呼ぶ



(・・・あの日、すれ違った瞬間から
 全く想定していなかったわけではなかった、が)

(正直、前回よりも怖いと感じるのは 気のせいでは無いと思う)






グラアリ、2戦目。 もうしばらく続きます。


グラシア・クウェイント
  天使の十二使『八駆』 彼は武器を携えていない。
  「彼女」と出会うのは2度目であるが、アリナとは幼馴染であった。

アリナ・サリン
  組織に属する堕天使。 堕ちた影響もあり、瞳の色が変わったり、
  味覚が変わったりと昔といろいろ変わった。 子供時代の記憶が無い。





 

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