創作世界未来

□世はそれを「悪夢」と呼ぶ
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街中を歩き進み、古城が大分大きく見える位置まで来た。
このままもう2分も真っ直ぐ歩けば古城へと続く門へと辿り着く。

・・・化物城とまで呼ばれ、人々が近づかない城へ
真正面から乗り込むなどと目立つことはしないだろうが。

どうやって向かうつもりだろう、と考えていた矢先に
先を歩くアリナは「こっちよ」と建物と建物の隙間にある路地を指した。

人1人がかろうじて通れる隙間を、アリナは進んでいく。

建物と建物に挟まれた路地裏は薄暗く、見上げれば空は明るいが
真下の足元を確認するには光が少々物足りないように思う。


「随分と細道を通るんだね」
「ふふ、ここを抜けると人目に触れずに侵入できるの」


路地裏を通り街の一番端、街を囲う塀の傍、建物の裏を抜けていく。

数分ほどその通りを進めば、街を囲う塀とは別に城の敷地へと繋がる塀が。
すぐ右手には塀と建物が、人が通れないほどの隙間しか作っていない。


「・・・成程、建物の影でほとんど見つからないのか」
「そう。 真横から見るくらいじゃないと分からないのよ」


アリナはグラシアに、数歩下がるように伝えた後
側にある建物の一角にヒール靴を引っ掛け、2m近くある塀へ手を掛けた。

身軽に手を掛けた塀から身体を起こし、両足を塀の向こう側へと落とす。
塀が遮り彼女の姿は伺えないが、地の上に着地した音を耳にする。


「・・・」


塀を上っていったアリナの後ろ姿を思い出し、彼は一瞬瞼を伏せる。

そうして開いた水色の瞳は幾度かの瞬きを繰り返し、
背に出していた控えめな翼2枚で塀を超えた。







ここに来るまでに20分近く、随分と古びて
少々荒れた様子も見せた城内を歩き進んでいく。

歩きながら辺りを見渡すグラシアの長い髪が揺れる。
良く言えば落ち着いた、悪く言えば暗い色の古城に彼の赤い髪色は目立つ。

古びていながらも豪勢な装飾が施された、
大きな両開きの扉の前でアリナは立ち止まる。

彼女は手を掛けて、ゆっくりと片側の扉を押した。
重い音を鳴らして角度を変えていく大きな扉。

その先には、赤いカーペットが真っ直ぐ伸びた先にある階段、
この一室は壁が円を描くような構造になっており、
中央に伸びるカーペットを挟むように柱が3本ずつ向かい合っている。

カーペットはよれて捲れていたり、柱には傷が付いていたりと
多少なりと荒れた様子は見せるが、元は城だ。

グラシアは微かに感嘆の息を吐いた。

彼女は扉を90度まで開くと、扉はその位置で固定され
そのまま中央部まで歩き進んでいくアリナの後をグラシアが追う。


「先程の路地を通る時も思ったが、何度か来たのかい?」
「うん、下見に。 変なものは仕掛けてないけど、
 心配なら辺り捜索してもいいよ。 疲れない程度にね」


彼女は注意ついでにそう伝えると、一角にある柱に寄り掛かり
腰に挿していた棒をベルトから引き抜くと、弄ぶように棒を振り回し始めた。

これから本気で、命に関わるかどうかのような戦闘が始まるはずなのに。

殺気はあるし、多少なりともピリピリした空気はあるが
不自然なほどに「普通に会話」が進んでく。


「・・・殺気は随分だと思ったが、不意を突く気はないんだね」
「ん、」


カーペットの上で、そのアリナの様子を見つめたグラシアは本心を呟く。
手元で弄んでいた棒を、振り回すのをやめた後少しだけ目を伏せて。


「・・あんなに真正面から挑まれて惨敗だったんだもの。
 不意打ちで殺したって、リベンジできたって思えないじゃない?」


殺気を含んだ声色、見据える赤い瞳はグラシアの姿を映して。
口を噤んだ彼は少しだけ息を吐くと、辺りを見渡した。

アリナは瞳を細めて、歩き出す彼の背に声を投げる。


「それに、『不意打ちなんて美しくない』 ・・でしょ?」
「・・・違いない」


自らが実際に言いそうな言葉を交えて問われた言葉に、
グラシアは小さく肩を上げて同意を示した。

白い柱が6本、辺りをぐるっと見回して
街中では縮小していた翼を広げて空中へ。

カーペットから真っ直ぐ伸びていた階段は壁の手前で踊り場となり、
階段はそこから両サイドへと道を伸ばしていた。

分岐した階段の先には扉が1つずつ。
城内2階の廊下へと続くことは想像できる。

彼はある程度建物内を見渡した後、「ふむ」と一言呟き高度を落とした。


「ステージはここで異論無いかしら?」
「あぁ、問題ない」


カツン、とブーツの音を鳴らしカーペットの上へと着地するグラシア。
棒を右手に携え、十二使の姿を見据えるアリナ。

赤色と水色の瞳の視線が、宙で絡む。

・・・走る緊張感、
嗚呼、人と戦う前はいつだってこんな雰囲気だ。


「・・・原因である僕が言うのも皮肉のようだが・・
 飛べない状態で、僕と戦うつもりかい?」


先程から白い翼を出しっぱなしにしている彼は、誰が見ても天使だ。

対してアリナも堕天使とはいえ翼を持つ者・・だったが、
前回の戦闘で彼女は右翼をグラシアに斬り落とされている。

翼があるか無いかで問われれば、それはあった方が良い。
行動可能範囲は広いに越したことはない。

地面を駆けるだけでなく、空に逃げる選択肢だって増えるし、
相手を見失わずに上から狙うことだってできるようになるのだ。


「流石に堪えたわよ、中途半端に片翼だけ残されて。
 そんな在って無いようなもの、どうしようもないし」
「・・・」

「飛べない翼なんて要らないわ。
 それよりももっと、もっと、貴方を殺せるくらいの強さが欲しい」


静かに、殺意は鋭く。
棒を右手で器用に振り回し、棒を両手で大鎌を持つように握りしめる。


「だから貴方が残した翼を捧げたの」


片側、地面側へと向けられた棒の先端に、
目視できるほどの濃密な魔力が集まる。

先端に集まった魔力は、その形を表していく。
・・2枚の翼のような形に似た、『魔力で作られた』斧の刃。

グラシアの表情は驚愕の色で染まり、水色の瞳は大きく見開かれている。


「!! ミサージガル・・・!?」
「――さぁ。 戦おう、グラシア」





世はそれを「悪夢」と呼ぶ



(貴方が残していった傷跡は、貴方が思うよりもきっと重い)

(私も何故、ここまで貴方に殺意を抱くのかは分からない)
(私が今までで一番、惨敗した相手だったからかもしれないけど)

(ここまで尖った感情を自覚して)
(別のもので処理しようだなんて微塵も思えなかったの)

(貴方さえ殺せるなら、この身を捧げるのも厭わない)






ここまでがグラアリ2戦目、決着編導入部分と相成ります


グラシア・クウェイント
  周りが驚くくらい綺麗に割り切っているからそんな素振りは一切見せないが、
  記憶の中に幼馴染のアリナは残っているし覚えている。
  が、「敵のアリナ」と共に居るうちは思い出さない。
  そういった意識や迷いは、戦闘時の隙に直結するから。

アリナ・サリン
  それでまぁこっちがグラシアのことを一切覚えていないが、
  グラシアだけでなく幼少期全般飛んでる。 本人は気にしてない。
  明らかに「敵」である相手に、惨敗したのはきっと彼が初めてだった。
  様子こそ大人しく見えるが、彼への殺意は異常な物である





 

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