創作世界未来

□束の間の邂逅と残った鍵
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ソブラス・ヘリッヌの記憶が偽りだと気づいてから。

どこまでが本物で、どこまでが偽物だったのか。
片っ端からソブラスが関わった物の全てを調べた。

その理由を目的とした旅も落ち着きを見せつつあり、
記憶の境目は大体把握できたが、何故こうも偽の記憶がハッキリしてるのか。

原因を特定できずに、きっかけから2年が経とうとしていた。

生きているであろう幼馴染、フィークらしい人物も見つからず、
両親を知る人物も居なければ、あるはずの墓も無かった。

・・・両親の存在まで否定されたようで、

完全に記憶探しは難航を極めていた。

諦めたわけではないが、最早この状況でできることも見つからない。
最近に至っては旅団員の本質である観光と旅を満喫してるレベルだ。


この日は東方にあるトリメス王国、王都のエンドレという場所に来ていた。

トリメス王国と言えば各地で気候が変わるという稀有な国であり、
桜の街フリジエや紅葉の街メイチェと、各街で風景に特色が出る国だ。

他の国では特定の期間しか咲かない花や草木も、
満開時期こそあれど、9割くらいは桜も紅葉も咲き続けているのだ。

王都エンドレは、そういった美しい風景の多いトリメス王国の中央にある。
トリメス王国の各街で見かける美しい風景を、季節ごとに繰り返すエンドレ。

満開時期である街にこそ劣るが、時期によって移り変わる景色を
1つの街で楽しめる、王都エンドレは変化の街なのだ。

最近は気候も良く温かい時期が続いていて、それに合わせるかのように
エンドレの街は明るい色をした花があちこちで色付いていた。

王都を歩き進み、中心部まで来た彼はこれからどこに向かおうか、
寄る店を探しながら足を止め、辺りを見渡していた。

行き交う人々の隙間から、後ろに1つに髪をくくった男の横顔を見た。
ソブラスの目が見る見るうちに開かれる。


「フィーク・・っ!」


何かを考えるわけでもなく、自然と足が動いた。

見間違えるわけがない、生まれた時から高校まで、
ずっと一緒だった幼馴染だ。


「待っ、フィーク!」


名を呼びながら近づくも、向こうが振り返る気配はない。
すれ違う人を交わしながら、自分とは真反対の方向へ行く彼を追う。

・・あれ、でもどうして連絡先交換しなかったんだっけ?
どっちかが言い出しても不思議じゃない仲だったのに。

伸ばした腕が届くまで、もう少し。


「フィーク!!」


名を呼ぶのと同時に後ろを向いていた彼の左腕を掴んだ。
腕を掴まれた男性は振り返り、「え」と驚いた声を上げる。

振り返った彼の顔は、自分の記憶では、幼馴染。

ただ相手方から感じ取った2秒ほどの混乱で人違いだと察した彼は
「あ、」と呟いた後、掴んでいた腕から手を離した。

・・・微妙な空気が流れ始めた時に、
ソブラスは申し訳なさそうに手の平を彼へと向けた。


「えっと、 ごめん、その ずっと探していた人にそっくりだったから、」
「いや、平気だが・・」


未だに相手方からは多少の混乱を感じ取れる。
ソブラスは申し訳なさそうな表情をしたまま、捕まえた人の顔を見上げた。

顔立ちが似てる、 昔はこんなに髪長くなかったけど分け目そっくりだし、
・・・世界に3人はそっくりが居る、って話は案外真実なのかもしれない。

筋肉の付き方を見れば戦闘する人のように見えるけど、
それにしては薄着だった。 今日は完全オフな日だったのかも。

首からは鍵型のチャームが付いたネックレスがぶら下げられていた。

相手方の様子を伺うついでに容姿の確認をしてると、
向こうから気まずそうに、「あー、」と言いながら口が開いた。


「そいつは、俺に似てんのか?」
「見た目の面影と、雰囲気が・・すごく、 ほんとごめん」


申し訳無さそうに眉を寄せたソブラスを見た青年は、
少しだけ考えたような表情を浮かべ、再度悩ましい声を出した。


「なんつーか・・・人探してる、とかいうのって ワケアリ?」
「うーん、ワケアリ かな」
「聞いてもいい?」


真剣な表情での返事に、彼は一瞬口を閉ざす。
そしてしばらくして悩んだように少し目を逸らした。


「あー・・うん、 変な奴だと思ってくれるなよ?」
「おう」


釘を刺すように念押しの一言。
平然と、でも真面目な表情での返答に、ソブラスはゆっくりと口を開いた。

1年ほど前、久しぶりに故郷に戻ったら明らかに記憶違いが起こったこと。
自分の住んでいた家が無く、建て直しが行われた形跡も無いこと。

その後住民票を調べてもらったら自分の生まれた記録が無いこと、
卒業校での在席記録も無いことを、ゆっくりと。 彼は語った。

話を聞いていた青年はというと、疑いの眼差しではないものの、
しばらく考え込む表情を浮かべている。


「・・・信じられない?」
「・・や、信じられないっつーより 衝撃、だったかもな」


頬を爪でカリカリと掻き「記憶が、」と小さく呟く青年。
心地いい静寂、とは呼べない微妙な間。


「あー・・あのさ」
「? はい」
「今はもう解決したんだけど、俺もこの間まで人探ししててさ」


そこまで言いかけた彼は不意に首に下げていた、
鍵のような形をしたチャームの付いたネックレスのチェーンを解くと、
チェーン部分を握り、それをソブラスへと突きつけるように手を伸ばした。

彼の突拍子な行動にソブラスの瞬きが止まらない。


「そいつ探すための願掛け、だった奴。 やるよ」
「・・・えっ、 でも、え?」
「いいよ、やる。 こっち解決してるし、願掛けだと思って」


ずいっ、とネックレスを握った手が突きつけられる。
困惑の中、偽りかもしれない思い出が脳裏を過ぎる。

・・・フィークも理不尽に強引なところあったな。
そんでそういうとこに限って頑固発動するから譲らねーんだ、これが。

ふ、と思い出し笑いをした際に肩が上がる。
その様子を見た青年は不思議な表情をして首を傾げた。


「あぁ、いや、なんでもない。 ありがとう、受け取るよ」


彼の突き出した手から重力に従って地に垂れ下がっているネックレスを、
すくうようにして手の平を差し出す。

青年は満足した表情を浮かべると、ソブラスの手にネックレスを下ろした。

シルバーの鍵チャームはメッキが剥がれることもなく綺麗だ。
最近の物・・にしてはチャームの方は少々削れてすぎているかもしれない。

見かけより長い月日が経っているのかもしれない。


「あ、でも探し人見つけたらお返ししますね」
「え、完全に譲渡のつもりだったんだけど」
「流石に見つけた暁には返却させてください・・」


申し訳なさそうに頭が下がっていくソブラスを見た青年は、
折れたように「あああ、分かったから!」と声を上げた。


「そんじゃ、返しに来てくれる日待ってる。 俺そろそろ行くな」
「ありがとう。 あ、後その 最初人間違いしたのごめん!」
「いいよ、気にしてない」


青年はソブラスへ向けて手をひらりと振ると、
王都エンドレの中心部から、北門方面へと歩き出した。

束の間、見送るように青年の背を眺めていた彼から「っあ!?」と声があがる。


「あのっ! まだ名前聞いてないんだけど・・!」


数歩進んで青年の背中に問い掛け、少しの距離は開いてたが
彼は問いかけに気付き、肩越しに意地悪そうに笑みを1つ浮かべた。


「返しに来てくれた時に教えるよ」


それ以上紡ぐことなく、後ろで括られた髪を揺らめかせ、
青年は人混みの中へと紛れて消えていった。

右手に残された鍵チャーム付きのネックレスを見つめ小さくぼやいた。


「・・・名前分からないと探す時困難なんだけど・・・・」





束の間の邂逅と残った鍵



(フィーク、)

(思い出すように、彼は1人呟いた)






進めた。


ソブラス・ファクト
  偽りの記憶の理由を、本当の記憶を探すための旅を続けて早2年。
  やっと見つけた幼馴染だと思って捕まえた人物が人違いだった。

???
  王都エンドレにてソブラスが出会った幼馴染フィークにそっくりな青年。
  首から下げていた鍵型のチャームが付いたネックレスを彼に預けた。





 

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