創作世界未来

□ココアが甘酸っぱかった。
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季節も巡り風が冷たくなり、流石に寒いと感じ始める外気温。

先日ツァイトの実家に戻り回収した冬物コートは寒さを凌ぐには充分だけど、
戦闘時はと考えると少々分厚くて動きづらいような気がする。

まだ1年にも満たない旅団員生活だが、そんな自分が戦闘要員らしい
思考をしていることに気付くと、なんだか不思議で笑ってしまう。

合わせた両手を口元に寄せてはー、と息を吐き出した。
白い息が指先に絡まって外気に消えて行く。

私の一歩先を歩いていたクロウさんが足を止めて振り向いた。


「寒いか?」
「指先がどうも冷えちゃって。 冷え性なんですかね」


笑いながら、再度指先に息を吐き出す。
じんわりと温かくなった指先を包むように握った。

辺りを見回したクロウさんが何かを見つけたのか、
私に手招きした後、大通りの道から少し逸れる。

後を追い、彼が足を止めたのは自販機の前。

彼はコインを何枚か入れた後、ココアとコーヒーを1つずつ選び、
程なくして吐き出されたココア缶が私の前に差し出された。

数度の瞬きの後、ゆっくりと手を伸ばして缶を受け取る。


「あ、りがとうございます。
 いつも平然と振舞われるのでなんだか申し訳ないです」
「毎度言うが金は受け取らんぞ」
「流石にもう受け取っていただけないなと思いました」


自販機の前で缶を冷え切った両手で包むと、指先がじんわりと熱くなる。

コーヒー缶の蓋を開き、一口飲んだクロウさんの動作を眺めていると、
視線に気付いたのか、ふとこちらに視線を戻した。


「適当にココアを選んだがそれでよかったか?」
「はい、私このココア好きなんです」
「それならよかった」

「ふふ、今日のお代は冬料理ですか?」
「・・悪くないが、対価にしては流石にそれは高いだろう」
「クロウさんのお時間取らせてるから釣り合ってるはずなんだけどな」


笑いながら缶の蓋を開けようと指を引っ掛ける。
カシュッ、と音と共に缶の中に入ってるココアが見えた。

両手で挟んだ缶に口を付け缶を傾けると、
飲み慣れた好きな甘いココアが口内に広がった。 ちょっと熱い。

缶を傾けて飲むクロウさんを見ていると既に半分くらいは飲んだみたいだ。


「そもそも連絡するのは俺からだろう」
「そうなんですよね、だから正直不思議なんです」
「不思議?」

「最初の方は一人旅に対しての心配かなー、って思ってたんですけど。
 制限取れてしばらく経った今でも連絡頻度が落ちないので」
「確かに戦闘の腕は見違えるほど上達したな」
「わ、お褒めの言葉」


素直な褒め言葉に、ココア缶を握ったまま顔を綻ばせた。
風は冷たいが、缶が温かいおかげで指先も熱を帯びている。


「腕も信用しているし、何よりお前の人柄だ。
 放っておいても大事は起きないと思ってはいるんだが」
「はい」

「それでも放っておけない節があるというか・・」
「私そんな危なっかしいですかね・・?」
「・・・というのはどちらかというと口実だが」
「あれ?」


最近になって稀に彼の口から飛び出てくる「口実」に首を傾げる。
その単語1つで脳内で記憶してた今までの発言が突然崩れるのだ。

クロウさんはコーヒー缶を片手に持ったまま、
疑問符が浮かんであるであろう私を見ては、ふ、と笑みを見せた。


「フィアナが傍に居るとどうも落ち着くようでな。
 ・・居心地が良いと言うのか」


半年以上の時を、片想いしていた相手からのこの言葉。

彼の発言を理解した瞬間、自らの目が見開くのを感じたし、
口の中が一気に酸っぱくなった気がした。

彼は冗談こそ言えど、嘘は付かない人だ。

まだ1年にも満たない時間しか過ごしてない私相手でも、
飾った言葉は言わない、真っ直ぐな人だ。

嬉しくない、わけがない。 嬉しいに決まってる。
でもそれ以上に。


「・・・それ、私の気持ちを知ってて言ってるんです・・?」
「忘れるわけがないだろう」
「なんていうか・・確信犯というか、思わせぶりですよね・・・」
「・・・」


最近、殊更こう思うことが増えたのだ。
私の発言に、無言の彼は缶に入っていたコーヒーを飲み干す。

冷えていた指先はココア缶を通して、熱と感覚をある程度取り戻していた。

外気に触れ少しだけ冷えたココアを数口飲んだ後、
空になったコーヒー缶を持ったまま、私を見つめる彼を見上げる。


「知ってるならあまり意地悪しないでください、ね?」


声が震えていないことを願った。





ココアが甘酸っぱかった。



(もー・・クロウさんこういうとこある・・)


(・・・割りと本気なのだがな、)
(・・まだ黙っておこうか)






冬の日。 自販機が・・あるんだよなぁ・・・この世界・・


フィアナ・エグリシア
  相変わらず片想い中。 冬の飲み物はココアかコンポタ。
  なんだか最近クロウから「口実」って単語が飛び出てくるのが不思議。

クロウカシス・アーグルム
  「それでよかったか」とは聞いたが以前彼女が飲んでた物を選んでた。
  ココアが好きだろうことは知ってる。 季節問わずコーヒーがデフォ。





 

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