創作世界未来

□遭遇4度目と特定の理由
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夕日のようなオレンジ色の長い髪をした若い女性が、
ふと店先のショーウィンドウで足を止めた。

ガラス越し、並んでいる品は装飾ばかりで綺麗な石が嵌ったペンダントや、
ネックレス、ベルトチェーンなどが整理されて並べられてある。

透き通らんばかりの翡翠色の瞳が興味深げにそれらをじっと見つめていた。


「はい、発見」


ふと自らに投げかけられたような聞き覚えのある声に、
ショーウィンドウを見ていたフィアナが顔を上げた。

少し前から1人知り合いが増えた。

増えたきっかけはある理由で顔を知っていたから、
その人を街中で偶然見かけ声を掛けてみたという些細なことで。

エルフ種族らしい彼の耳からは白い髪を掻き分けて種族特有の長い耳。
彼愛用だという大剣は鞘に入っており背負われているようだった。

普段の黒い手袋を付けていないらしい白い指先がひらりと振られる。
白髪の男性とは幾度かの遭遇を果たし、今では充分顔馴染みだ。


「よ。 わっかりやすいとこ居るなー、おかげで探しやすいわ」
「・・なんでいつもピンポイントで私の居る街を当てられるんですか・・・」


驚いた様子が半分、不思議そうな様子を半分見せながら、
フィアナは自身へ話しかけてきた彼へと瞬きを繰り返した。


「もー、いつもアインさん急に来るので驚きます」
「ごめんって。 俺も半分くらい思いつきで動いてっからさ」


ショーウィンドウの前に立っていた彼女に近付くアインと呼ばれた男性は、
フィアナが先程まで見ていたところに一目視線をやった。

フィアナは肩を上げて小さく笑い、
「でもどうして私を見つけられるのかは知りたいです」と続けた。

2人は顔馴染みであったがまだお互いの連絡先を交換していなかった。
加えてフィアナは旅団員だ。 街移動や大陸移動もさして珍しくない。

にも関わらず彼は既に2度ほど、
今回を含んで3度目と彼女の居場所を特定していたのだ。

彼はんー、と軽く口角を上げた後に金眼を軽く細めた。


「旅団員とは言え一般の乗船記録はセキュリティ弱いかんね。
 簡単に盗めるんだよなー、これが」


彼は右手をパチンッと鳴らすと、宙にいくつもの映像がずらりと並んだ。

・・・乗船記録らしいそれは、
搭乗した者の名前、搭乗の乗降の日時や場所が明記されていた。

よくよく見てみれば横に1行だけ項目の色が違う。

搭乗者名として『Fiana Egurishea』と綴られていた字に、
それが自分の名前だと気付くのは難しくなかった。

口元に手を添えて、声量小さいながら思わず呟く。


「つまり・・ハッキング」
「アタリ。 酷いほどの悪用はしてないから見逃してな。
 せっかくバレないようにやってんだから」


悪戯っ子のように笑みを浮かべるアインに、彼女は瞬きを繰り返した。

人に会いに来るためだけに旅団ともあろう世界規模組織のデータを盗むのか。
そしてそれを平然と行ってしまう、この人こういうところある。

アインは右手の指を再度鳴らし搭乗記録の画面を全て落とす。
画面が全て落ちたことを確認した彼は上着のポケットへと手を突っ込んだ。


「そんな、わざわざ毎回しなくても・・あ、連絡先要ります?」
「時差あるじゃん。 俺外れんの嫌でさ」


フィアナは25センチほどか、背の高い彼にちょいちょいと手招きをした。
ポケットに手を突っ込んだままのアインが少しだけ屈む。

口元に手を添えて、それはまるで内緒話のように。


「それって、ハッキングの手間よりも?」
「そういうことになるね」


街中で人通りがあることを気にかけたのか、小さい声で問いかけた内容。
彼はなんともないように頷いた。

一番伏せたかった単語は伏せ終わったらしく、
フィアナは口元に寄せていた手を離してまた幾度かの瞬きを。

彼はまだ若干、猫背のように屈んだままだった。


「・・そんな簡単にできるもんなんですか?」
「知りたい?」
「手順が知りたいわけでは」
「知ってる」


フィアナの否定を予想していたかのように、
面白そうにくっくっと笑みを堪えていたアインは
猫背のように屈んでた上体を起こし、ぐっと背を伸ばした。


「さて、ところでこの後のご予定は?」
「どうしましょう。 支部に寄って依頼受けるつもりだったんですけど・・」
「大型の魔物討伐依頼とか出てねーの?」
「あるにはあると思いますけど・・私が後衛で大丈夫ですか?」

「フィアナ名義で俺が片付けてもいーよ?」
「あ、流石にそれはやめておきます」
「拒否るなぁ」
「だってそれ私の力じゃないですもん」





遭遇4度目と特定の理由



(ところで今日『氷軌』は? 姿見ねーけど)
(隣町にまで。 十二使の許可が必要な書類が溜まってたとかで)
(あー、成程な。 十二使ちゃんと仕事してんだなぁ)
(あ、 そうだ、アインさん)

(んー?)
(依頼じゃないんですけど行ってみたい場所があって。
 魔物の量が多いとかで諦めてた場所があるんですけど・・)
(ん、護衛? いいぜ)
(わ、ありがとうございます! ・・あっ、支度してきていいですか?)






初回はフィアナが、それ以降はアインが声を掛ける形だった。


フィアナ・エグリシア
  未来軸でアインと接点ができる旅団員。 多分誕生日は迎えてて20歳。
  戦闘力は充分だけど武器が弓なもんで、状況はある程度限られる。

アイン・フェルツェールング
  多分この時にはもう誕生日迎えてて30歳。
  話しかけに行っていいと言われたから気が向いた時に彼女を探してる。





 

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