創作世界未来

□神はそれを「運命」と呼ぶ
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初戦、アリナを驚かせたミサージガルが、彼女の手にあるのは想定外だった。


微かながら動揺したグラシアは息を呑んだ後、
すぐに視線を真っ直ぐアリナへと向けると、右手の指を鳴らした。

合間無く胴体の前で右手をスライドさせると、彼の周辺に魔力で集まり
それぞれ色の違う8本の剣が、ゆっくりと彼の周りを浮遊している。

その様子を見つめていたアリナは、赤い瞳を細めてにっこりと笑った。


「思ったより動揺しないのね」
「無論驚きはしたが・・戦闘時は一瞬の隙が命取りなのでね」
「違いないわ」


グラシアは少しだけ目を伏せた後、手を動かし浮遊する8本の剣を操作した。

剣は意思があるかのようにグラシアの前で整列し、
8本はそれぞれ剣先をアリナに向ける。

それを見たアリナも再度斧を握り直し、白い床を蹴った。

彼は指を伸ばした左手を、アリナへと投げるように振るう。
左側にあった赤、黄、黒の剣が3本、角度を変えて迫る彼女へと向かった。

挟み撃ちのように斜めから1本ずつ向かう剣。
アリナは走っていた足を止め、一歩後ろに下がった。

先程彼女が立っていた場所の空中、剣2本が交差する。
剣と剣が重なったタイミングで、アリナは持っていた斧を振り上げる。

光を帯び、雷を纏った斧の刃は剣2本を難なく吹き飛ばした。

アリナに向かっていった剣は3本、今吹き飛ばしたのは2本。
剣が1本消えていることに気付いた瞬間、真後ろで風を切る音がした。

振り上げたままの斧の持つ場所を変え、そのまま真後ろへと斧を一閃。
ギンッ、と金属のぶつかる音と共に剣が、壁まで弾き飛ばされた。

惨敗した相手を前に手加減などするはずもない。
様子見といった気配は無く、最初から全開だ。

やはりどうしても美しいとは思えないが、あの赤い瞳は真剣そのものだ。


「(前回と同じ相手だと思わない方がいい。
 ミサージガルが相手というだけで、警戒する理由には充分すぎる)」


疑問点はあるが細かい考え事は後だ。
そんなことまで考えていられるほど、こちらにだって余裕は無い。

グラシアは軽く息を吸い込んだ後、指先を伸ばした右手を
先程左腕で同じ動作をしたように、投げるように右腕を振った。

右側に並んでいた水色、茶色、緑色の剣をアリナへと向かっていく。

そして合間なく、グラシアは少しだけ前に伸ばした左腕を、
引っ張るように動かした。

斧によって弾き飛ばされた剣が、改めて軌道を描き彼女へと向かう。

6本の剣先がアリナへと向けられ、真っ直ぐに彼女へと向かっていく。
彼女は斧の刃を床に預けるようにして、斧の柄を傾けた。

剣先が彼女に刺さる、と思われた瞬間。
アリナはその場から姿を消した。

何も無い場所に6本の剣が交差する。

正確には消えたのではない。
少し遠目から眺めていたグラシアは顔を上げていた。

翼の生えていないアリナは、斧にぶら下がるようにして空中を飛んでいた。


「(飛行可のミサージガルか、妥当だな)」


ミサージガルだって元々は宙に存在している魔力だ。

もっと突き詰めてしまえば天使悪魔の翼だって魔力のような物である。
厳密には少々違うのだが。

宙に浮いている魔力、空を飛ぶ翼が魔力。

グラシアの剣だって物理的に握る人が居なくとも浮いているのだ。
そう思えばミサージガルが刃である斧が飛べるのも不思議ではない。

彼は掬うように、右手を下ろしては上へと振り上げた。
手の動きにつられるようにして、剣6本は軌道を作っていく。

アリナは飛ぶ斧にぶら下がっていた状態から、
斧の柄に跨るように乗り上がると空中を飛んでいく。

剣はそれぞれアリナを追尾し始めた。


「剣を操作する貴方は、さながらオーケストラの指揮者みたいね」


追尾する剣から逃げながら、距離が縮まったアリナが声を投げかけた。
グラシアは数度の瞬きを繰り返すと、小さく口に笑みを浮かべた。


「そう言う君はまるで御伽噺の魔女のようだね」


言うだけ言ってそのまま彼女は宙を飛び去ったため、
彼女が聞き届けたかどうかは分からなかった。

剣から逃げ、時折立ち止まっては剣を弾き落としていく。

剣の軌道を脳内で組みながら、
グラシアは手前に残っていた青と白の剣を2つ両手に握った。


ミサージガルとは。
目に見えぬ有から、手に触れられぬ無を、物理的に有とする。

魔力は摩訶不思議な物であり、物質がどうだと解説すると長くなるが、
端的に言えばピリヴォート歴より以前にはこの世界に存在しなかった異物。

元々は人間世界と空間が絶たれていた天界魔界にだけ存在していた物質が、
世界異変を機にこの世界に流れ込んだだけに過ぎない。

自らの体内とそれを取り巻く環境、
それらに相応する詠唱を口にすれば『現象』が起こる。

やれ科学だやれ魔術学だと研究は進められているが、
神秘とも呼べるこの未知の現象に、
人が核心に辿り着ける日はまだまだ先だろうと思わせられる。

それはさておき、魔術の詠唱後に起きる現象は物理的に起きる事象と同義だ。

魔力と人以外何も無いその場所から、言葉1つで炎や氷をその場に出す。
この世界ではそれが当たり前で言及も少ないが、ふとした時に疑問に思う。

物理的に存在するものを生み出せるのは魔力と魔術ならではだが、
火や水、氷、雷と言った『自然』である物を起こす魔術に対し。

ミサージガルは驚くべきことをやってのける。

手で触れることも難しい火や雷が形を成し、
燃えず痺れずの武器を形作り、それらを手に握る。

ただ単に『出された魔術』に触れるのはそう難しくない。
氷の柱だって触れるのは簡単だ。 手は驚くほど冷えてしまうが。

ミサージガルは否だ。
火を握る、氷を握る、聖を、暗をその手に握る。

現象として成した時、決して握りしめることのないその自然を、
魔力が形を成してそれらを武器とする。

魔術学的観点で見れば、火そのものを握るに等しいのだ。 異様だ。

それは所有者が望む形を成し、武器によっては金属のような鋭さを帯びる。
グラシアの剣やアリナが携える斧の刃が良い例だ。





 
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