創作世界未来

□清閑の街の穏やかな朝
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・・・よく知った匂いに包まれて目が覚めた。

ゆっくりと重い瞼を持ち上げ、ぼんやりとした頭で
そういえば昨夜はクロウの実家に泊まらせてもらったことを思い出す。

柔らかい毛布の肌触りが良い。
あぁ、でもまだ少し眠い。 膝を曲げて身体を丸める。

あれ、でも昨夜は男部屋の方で本を読んでいたはずだけど
結局クロウさんが戻ってくる前に寝落ちた気がする。

右肩を下にしていた体の向きを変え背後、
もう片側にあるベッドの様子を伺う。 誰も居ない。

しん、とした室内は自分以外に人が居ないことを悟る。

荷物は女部屋の方に置きっぱなしだけど、
その荷物らしいものも周囲には見当たらない。

寝てる間に女性部屋に移動されたわけではないようだ。

・・・そこまで考えて、今自分が左右に1つずつあるベッドの
右側を使って眠っていた事実を顧みて。

昨日の話を振り返れば男部屋の右手側ベッドは彼の寝具だったはずだ。
占領してしまったかもしれない、申し訳ない。

身体を起こして欠伸を1つ。

サイドテーブルの上に寝る直前まで読んでいたはずの本が置いてあった。
本の隣に置かれた時計を見ると7時。 まぁ普段と変わらない起床時間か。

・・・彼の姿が見えないけど、探しに行くよりも先にまずは身支度ですね。
ベッドから脚を下ろし、隣室の女部屋へと向かった。







女部屋に置きっぱなしだった荷物から服を取り出して着替えて、
昨日案内を受けた時に教えられた洗面台で顔を洗い歯を磨く。

鏡で自分の顔を見て「よし」と頷いて笑み1つ。

広い家に人の気配のないフローリングの廊下をひたひたと歩き、
キッチンへ続く扉をゆっくりと押す。

人の気配と物音がする、 ニュースキャスターの声も聞こえる。

覗くようにして扉から顔を出すと、
珍しく髪を括った彼がキッチンの前に立っていた。


「あ、」
「ん、おはよう」
「おはようございます」


ダークブロンドの髪は右側が肩に付くほど伸びているが、
下の方でまとめて括られているようだった。 珍しい。 新鮮だ。

ニュースキャスターの声がする方に顔を向けると、
キッチンの塀の上に画面が現れてニュースが映像付きで流れていた。

空中に浮いている映像は半透明で、ダイニングが少し透けて映っている。


「お早いですね、」
「ふ、一応客人だからな」


コーヒーを沸かすのに視線を落としたクロウに瞬きを数度。

それにしても今日はお早い、ような。
彼が遅起きでないことは知っている、寧ろ起きるのは自分より早い人だ。

ただ十二使である彼はその日の最初に連絡事項等の確認を行ってると聞いた。

それらが終わった頃にはフィアナが朝食の準備を終えた後、のはずなのだが。


「・・普段、連絡確認とかされている時間なのでは・・・」
「今日は後回しにした」
「え、えぇ・・っ」

「よく眠れたか?」
「え、あ、おかげさまで。 あ、ベッド占領しちゃったかも、」
「いや、気にしないさ」


ブーン、と機械音響く方へと視線を向ければトースターが稼働しているそう。

数分で焼き上がるはずのトースターがまだ稼働していることに、
スイッチ入れてからそう時間が経ってないことは察しが付いた。

トースターをしばらくじっと見つめて、彼へと視線を向ける。


「・・・タイミング見越してました?」
「物音がしていたからそろそろ来る頃だろうと」


・・・このキッチンは寝室からも洗面室からも、
そこそこ距離があるというのに随分と耳が良い。

ぱちくりと瞬きを繰り返して小さく笑み1つ。


「準備ありがとうございます。 お手伝いできることありますか?」
「そうだな・・食器出してもらえるか。
 パン乗せるの2枚。 そろそろ焼き上がる頃だ」
「はーい」


右手側にあった食器棚の扉を開け、腕を伸ばし食器を取り出す。

食パンを乗せれそうな平たい皿を探して手に取り、
表面を見ると花柄の淡い色をした随分と可愛らしい食器だった。


「あら、可愛らしい食器・・・」
「母の趣味だな」
「成程。 ふふ、」


笑った気配と共にあった回答に頷く。

彼が自ら選んで買った品ではないことは一目見た瞬間理解したけれど、
この可愛らしい食器を使って食事をしていたのかと思うと微笑ましくなる。

口に笑みが浮かぶ。 可愛らしい。


「あ、昨日果物オマケしてもらいましたよね」
「あぁ、剥くか?」
「せっかくなので剥きましょう。 包丁は、と」


昨晩使用して洗ったから置いた場所が変わってなければ
ここらだと思うのだけれど、と辺りを見回す。

クロウは冷蔵庫から昨日購入した林檎を2つ取り出し、
シンクの上に置いてあったまな板の上に乗せた。

それと同時にトースターからチーンという軽快な音が響く。


「剥くの任せていいか?」
「はーい」
「後包丁はそこだ。 1本はサラダ作るのに使った」
「あっ、2本目がある・・・!」







テーブルの上に並んだ食パン、冷蔵庫から取り出したジャム。
フィアナが来る前に盛られたサラダと、皮が綺麗に剥かれた林檎。

後はクロウが淹れた苦い香りのするコーヒーと、
家に置きっぱなしらしい母上の紅茶。

2人はテーブルを挟んで向かい合い、
並んだ朝食に向かって手を合わせる。


「いただきます」
「頂きます」


スプーンを手に取り、パンにジャムを塗るフィアナ。

クロウは朝食に手を付ける前に、テーブルに入れてあったリモコンを弄り
ニュース映像の表示位置を変えた。

それぞれ朝食を摂りながら、時折ニュースに関して感想のように言及をする。

お互いパンを食べ終えた後は今日の予定を伝える。

クロウは少しだけ実家を漁った後は旅団支部に、
フィアナは街の様子を見にしばらく散歩するそうだ。

話が一区切り付きコーヒーが入っているカップを傾けて飲むクロウが、
ふと向かいの席に座っているフィアナへと視線を向ける。


「・・・昨日、家に来たばかりのフィアナは緊張すると言ったが」
「はい」
「俺も、実家にお前の姿があるのは不思議な気分だ」





清閑の街の穏やかな朝



(不思議な気分、ですか)
(なんと形容すればいいか・・そうだな、日常生活の干渉・・・
 昨日の話が人生を垣間見てるのだとしたら人生に介入されている、か?)
(・・・・あ、クロウさんがツァイトに来た時の感情、きっとそれだ・・)
(・・ふ、3ヶ月越しの答え合わせだな?)






カルム2日目の朝


フィアナ・エグリシア
  人の傍だと寝付きやすい自覚があるけど1人でも意外と寝落ちる19歳。
  本読みにクロウの部屋来て結局寝落ちて、度々クロウに運ばれてる。

クロウカシス・アーグルム
  フィアナがベッド占領してたので隣の父が使ってる布団に潜り込んだ。
  彼女の寝顔を見るのはそう珍しくない。 最近は増えた気がする。





 

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