創作世界未来

□潜ってまで爪痕残す気か
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・・・まさか目の前に居たにも関わらず撒かれるとは思わなかったな。
先程までのやり取りを思い返すほど、それしか感想が出てこなかった。

木々の多い森の中、敵である彼の姿を追っていた。
ある一瞬で姿を見失ってしまった。

その気になれば撒かれなどしなかったのに、不覚の余り溜息を付く。

周囲に誰も居ない空中、地上よりも酸素は薄く風が強い。

半透明で展開された結界に座り脚を組んでいた彼女は、
手にしていたタブレットを鞄の中にしまい、結界から不意に飛び降りた。

重力に従って落ちる彼女の足元に更に結界が張られる。

片足で着地した彼女はその結界を蹴り、
次々に結界を張ってはそれを蹴り、ある場所へと向かった。

海を連想させる蒼い髪は波のように靡く。
有翼族でもないのに空中を移動する彼女は誰の目にも止まらない。

不意に彼女がぱちんと指を鳴らすと、
彼女の姿はたちまち見えなくなってしまった。


目的地は山脈の木々の隙間から1つだけ飛び出したアンテナ付きの屋根。
逃がした標的はアイン・フェルツェールング。

いくら彼が強いと言えど瞬間移動は不可能だ。
だから、まだ近くに居るはず。

そうして空中から周囲を探れば魔力の流れが妙な建物を見つけた。
・・・拠点であれば万々歳だけれど、そうでなくてもこの建物は妙だな。

そう感じ取った彼女、メーゼ・グアルティエはその建物へ向かうことにした。


姿を視認できない状態で建物にまで近寄ったメーゼは、
まずは玄関と思しき周囲を確認した。

・・誰かが通った形跡がある、それも複数。

それらをタブレットで写真に収めた後、風結界で足場を作りながら、
建物の周りをぐるりと一周確認した。

5階建てで大して見通しは良くなさそうなバルコニー。
魔物避けと思しき結界も張られており魔物に荒らされた様子もない。

ほとんどの窓はカーテンで閉じられていたが、
いくつかはカーテンの間に隙間があって部屋の様子が覗けそうだった。

室内に人は居ないようだが埃を被ってるわけでもなく、
誰かが居住してる形跡がある。

窓の位置、建物の広さ、全てを記憶した上でバルコニーに降り立った彼女は
静かに扉を開けて建物内へと侵入した。

建物の周囲が木々に覆われ日差しが入りづらく薄暗い印象を受ける。
掃除の手もある程度行き届いており人知れず存在する建物にしては綺麗だ。

・・・いよいよ拠点っぽいな。

姿が見えぬように魔術を施しているとはいえ少々緊張が走る。
足音と気配を殺して、廊下を一歩ずつ踏み進めた。







ぐっ、と背伸びをして息を深く1つ吐き出した。
黒い手袋を嵌めたその手は眠そうに金色の瞳を伏せる瞼に向かった。

戻るなりボスの元に直接向かったものだから、
鞘に入ったままといえど大剣も背負ったままで、
口頭での報告を終えて一息付いたところだった。

廊下を歩き進み自室へと帰ろうとする意思に沿い道を辿る。
・・・不意に数十分前までのことが脳裏に過る。

戦闘の度に強くなっているな。 『底』にはまだまだ遠いのだろうけれど。
黒い手袋で白い頭をがしがしと掻いた。

エルフ種族の耳は横に長いからこういう時耳が手に掛かる。

・・・・不意に鼻が利いた。
思わず顔を上げる。

明らかに魔力の違う空気がすれ違った。
その瞬間に彼は悟る。

彼は不意に大剣のグリップを掴んでは然程広くもない廊下、
自分の周囲へと大剣を一閃薙いだ。

振り回したからといい大剣が何かにぶつかった手応えは感じないが、
一閃の直後、本当に、本当に微かな靴の音を彼の耳は聞き逃さなかった。

・・・・やはり『居る』、


「流石に驚いたな・・・突き止められたのも侵入されたのもお前が初めてだ」


彼は何も見えぬ空間に語りかける。
視覚にこそ見えないが、そこに居る絶対的な自信があった。

しかも彼が想像した人物は、少し前に戦闘になり撒いたばかりだった。
確信となる要素しかない。


「姿見せてみ」


静かに告げた彼の言葉から数秒、廊下の角に幾度か見た蒼い髪が揺らめいた。
彼女の周囲を覆っていた魔術は桜の花弁のように変化しては溶けていく。

足元からゆっくりとその姿が視覚化される。

ブーツ、ズボン、腰のベルトに携えた剣身の長い剣。
腰まである蒼い髪が揺らめいて凛と佇んでいた。

普段と変わりなく、感情の読みづらい表情で藍色の瞳が彼を見据えている。


「どうして分かったの?」


驚いた様子もなく彼女、メーゼはそう口にした。

彼女は姿を消していた、気配も足音も一切無かった。
ぶつかりもしなかったから触感もなかっただろう。

彼、アインは口元を少し緩めて笑みを浮かべた。


「魔力のブレは勘付きやすい体質でね」
「・・・・相当ね」
「お褒めにお預かり光栄」

「凄いとは思ったけど褒めていないわ」
「いや褒めてんじゃん」


不服そうに眉を寄せて重い溜息を付く彼女を見ては、アインは喉の奥で笑う。

・・にしても本当に驚いたな。
ここまでバレんなら一撃くらいちゃんとダメージ与えておきゃよかった。

いくらメーゼでも単身で敵陣に乗り込みはしないだろうと踏み、
拠点の付近で彼女を撒いたのは確かに俺のミスだ。


「で?」
「何?」
「俺が居るだろうことも理解して乗り込んで、見つかってその後は?」

「とりあえずは貴方を撒こうかしらね」
「へぇ、俺が目の前に居るのに?」
「私もさっき貴方を目の前で逃がしたわ」


だからやり返してみせる。
・・彼女の発言はそういう意図の発言のように見える。

とんだ挑戦状だな、 ・・・おもしれーけど。


「地の利はこっちなのに」
「地図ならそうだろうけど、貴方の大剣は室内向きじゃないわ」
「お前の愛剣はどうなんだよ。 人のこた言えねーだろ」


メーゼの左側のベルトに挟まれた鞘付きの長剣に視線をやる。

この剣に幾度怪我負わされたか。
同じだけ自分の大剣のメーゼに怪我負わせているけれど。

彼女は長剣に視線をやった後、目を伏せて「・・・私ね、」と口を開いた。

刹那、銃声が響いた。
エルフ種族特有の耳を掠めていった銃弾に顔を歪める。

彼女の右手は腰に当てていたはずだがあまりにも速い。
・・でも何もなかったかのように右手は腰のベルトに指が引っかかっている。

そしてベルトのホルダーに銃が収まってるのを視界に捉えた瞬間、
目の前に居る剣士の女が早撃ちできるのだと知った。


「悪いわね、銃も扱えるの」


彼女はその場から軽快に数歩下がる。

後を追う、とアインが足を一歩踏み出した瞬間、
青い魔術陣が発動した。 ・・・陣が広い、

一歩後退した瞬間、魔術が発動され廊下を隙間なく覆うほどの氷が現れる。
・・・障害物にしては少々上等すぎる。


「入り組んだ地の方が撒きやすいものね」


氷越し、笑みを含んだ発言の後、駆けていく足音を耳にした。

相手を目の前にしてみすみす逃してしまった彼はと言うと、
残された氷を見つめ一言「・・・ちっくしょ、」と笑いながら零した。

ぽたりと耳から垂れる血に眉を寄せる。

・・・血は鬱陶しいが手をこまねくわけにはいかねーな。
地図の分からない彼女が向かうのははたしてどこだろうか。





潜ってまで爪痕残す気か



(・・・まさか大剣振ってくるとは思わなかったな、)
(魔力のブレに勘付きやすい、 ・・魔力感知か)
(・・今までの戦闘の違和感はこれか、厄介ね・・)






時間軸安定してないけど一旦未来軸と仮定する。


メーゼ・グアルティエ
  彼女は無詠唱が得意。 逆に彼女がわざわざ詠唱するのはやばい。
  ついでに複数属性の同時発動も平然とするし、
  苦手属性もないので彼女に属性で有利取ることは不可能。

アイン・フェルツェールング
  彼は魔力感知が得意。 魔術の前兆は当然、人の魔力も感じやすい。
  尚全て感覚的なものであり、環境であるか人であるかの特定は消去法。
  障害物の氷はその気になれば叩き割れるけど建物壊しそう。





 

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