めぐいせ

□黒い本
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聖華とフードの男は森から出て、男の家まで歩いた。
その男の家は、ヴェール村の中にあるそうだ。
ヴェール村はそれほど大きな村じゃないが、自然が美しい村だった。

「ついたよ、ここが僕の家」

男が指差したその家は、一番村の端に立っている一階建ての家。そんなに大きな家じゃない。
男はドアを開け、中に入った。それに続いて聖華もドアを開ける。

「失礼します・・・」

聖華は申し訳なさそうに呟いて中に入る。
家の中で目に付いたのは大量の本。
大きめの本棚にぎっしりと入っている。

「汚い家で悪いけどとりあえず座って」

男は既に椅子に座っていて、聖華も男と机をはさんで向かい合うように座る。

「じゃあ、君があの森に武器も持たず居た理由を教えてもらえる?」
「でも私の話、突拍子もない事ばかりで信じないと思いますけど・・・」
「いいから、話を信じるか信じないは僕自身だ」

男の紫の瞳がまっすぐ聖華を見ている。
その鋭い視線を浴びた聖華は、少しずつ話し出した。

「・・・図書館に友達といたんですけど、そこで黒くて題名のない本が落ちてるのを友達と見つけたんです。拾い上げて友達と一緒に本を見ていたら、その本が急に光ったんです。そこで意識がとんで、気づいたらあの森の中に居たんです」
「ふーん、なるほどね・・・」

男は否定もせずに聖華の話を聞いている。そして少し難しそうな顔をして聞いた。

「一応確認するけど、君は武器を知らない、魔法も知らない、ソレイユ国も知らないんだよね」

聖華は大きく頷いた。男はまた聞いてくる。

「あと、その君が見つけた黒い本・・・他に特徴は無かった?」
「特徴ですか? うーん・・・」

聖華はあの黒い本の事を思い出す。
少し考えてから聖華はそうだと呟いて軽く手を叩く。

「表紙に『Reue』・・・『ロイエ』と書いてました。もしかしたらそれが題名だったかもしれませんけど」
「・・・分かった、確信したよ。その本は普通の本じゃない、魔道書だという事。そして君のいた世界とここの世界は別次元だという事も」
「別次元!?」

そう言ったあと、男は立ち上がり本棚から1冊の青い本を持ってきた。
その本を聖華の前に置いた。そして男は説明し始めた。

「これが魔道書。魔道書は魔法の原理や魔力の減少の量、使い方とかが書かれた本のこと。君が見たその黒い本も魔道書だよ。『ロイエ』っていうのは、その魔道書の作者の名前。そしてその黒い魔道書のせいで君はこの世界に来た」
「なんでその魔道書のせいなんですか?」
「ちょっと難しい話になるんけど・・・」

男は少し迷った末、丁寧に説明を始めた。

「えっとね、君が見た黒い本・・・魔道書にはフォンセっていう名前が付いてるんだけど、そのフォンセには闇魔法と時魔法が中心に書かれた魔道書なんだ。魔法についてはまた説明するけど、今は闇魔法と時魔法はとても珍しく強い力を持っている事を覚えておいて。その珍しい魔法を2つも使える人が、魔道書を書いたんだ。するとその書いた人の気持ちと魔力と・・・そして闇魔法と時魔法という強力な魔法2つの力によって魔道書のフォンセは生きる本となった。フォンセは命を持ち、喋るようになった。その時はまだフォンセには良心が合ったかな。でもついには魔法の力を使い出すようになり、悪質な悪さをするようになった。その悪さというのが・・・闇魔法と時魔法で人を別次元に飛ばすことだ」

男はここで一旦話を区切る。
緊張が漂う部屋は少し居心地が悪い。
男はその緊張感をかき消すように、また話し出した。

「ここまで来たら少し分かるかな。君は魔法の無い向こうの世界にいたが、その黒い本がフォンセだった。君はフォンセのせいで次元を飛ばされ、魔法があるこの世界に来た。たぶんその君の友達って言うのもこっちに来ていると思うよ。そして君と君の友達が元の世界に戻るためにはもう一度フォンセを探し出して、無理やりにでも戻してもらうしかない。・・・分かった?」
「全部は分からなかったけど半分くらいは理解できました。でもなぜそんなに詳しいんですか?」
「ん? ああ、それは僕もあの魔道書を探しているんだ。人の運命を変えるなんて事止めさせたいと思ったから・・・。まあ、それはいいとして君はこれからどうするつもりなの?」

男の鋭い視線が聖華に突き刺さる。聖華は一瞬迷ったすえ、

「あなたの魔道書を探すのについていってもいいですか?」

と言った。男の鋭い目線を聖華はまっすぐ見つめ返した。
男は小さく笑い、言った。

「君ならそう言う気がしたよ。いいよ、ついてきても。ただ、フォンセはとても強い力を持ってる。だからそのために君には戦うための練習をしてもらう必要があるけど」
「ありがとうございます! あと・・・名前まだ聞いてないので教えてもらっていいですか?」
「そういえば、そうだね。僕は・・・ライ。君の名前は?」
「ライさんですね。私は聖華です。よろしくお願いしますね!」

2人は少し笑いあう。お互いの名前を知れて、同じ目標を持った2人。どこか落着かなかった雰囲気は無くなったようだった。





*新しい登場人物*

ライ:狼に襲われそうになっていた聖華を助けた青年。黒い魔道書を追っている。
   耳が隠れるくらいの青い髪。紫の瞳。優しく、潔い性格。

フォンセ:黒い時と闇の魔道書。命を持った喋る本。表紙に『Reue』と書かれている。





 

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