創作世界2

□形無き捜し物に解答何処へ
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水上都市アベリアに拠点を置いている傭兵業『シクザール』に、
ルーエ・ディ・ティエルが居住することが決まり、
荷物の準備やら手続きやらがてんやわんやしたここ数日。

ようやくシクザールで日常生活の9割を過ごすことが可能になった。

『シクザール』にはルーエの他にメンバーが2人居るとの話だ。
ネオルカ・ジーヴェとミラー・カーリック。

2人は高校時代の同級生らしく、ルーエの学年1つ上であった。

しかし2人はどちらも料理に関しては明るくないため、
3回に1回はルーエが1人で、残り2回はネオルカとミラーが相談して作る。

多少前後変動もするだろうが交代制でやろうという話にまとまった。


冷蔵庫の中身を確認した後、街で足りない食材を買い出しに行く。

ルーエは高校を寮で過ごし1日3度の食事はバイキングだったが、
希望者にはキッチンも解放されるため料理は度々作った。

だから料理は好きだし得意な方、だと思う。

というのもその自分が作る料理を、
2人に振る舞うのは今日が初めてだったからだ。

ぐつぐつと煮込む鍋の様子を見つめ、小さく息を吐く。


「(ミラーさんはさておきネオルカ、さんに食べられるのは緊張するな)」


得意な方、だとは思う。 というのは自己評価と友人の判定だった。

その友人が味覚音痴だったわけではないはずだけど、
自分の料理を他人に食べてもらう機会というのは早々ない。

味の好みや舌に合う合わないもある。
そもそも振る舞う相手への食の好みや好き嫌いを一切把握していないのだ。

考えれば考えるほど何を作るべきかで迷った。
おかげで予定より作り出すのが遅れてしまった。

好みはさておき食べれないものくらい聞いておけばよかった。

かつて料理をするだけでこんなに憂鬱になったことがあっただろうか。

気が重い。 ネオルカとは人としてどこか合わない気がするし。
同じ組織のメンバーなのに食でごたつくのは避けたい。

鍋の底が焦げないようにかき混ぜながら、思わず溜息を吐く。


「はぁ・・・」
「それが飯作る時に吐く溜息かよ」
「!!?」


思ったより近距離で響いた男の声にギクッとして肩が跳ねる。
この建物に居る男性なんてネオルカくらいしか居ない、けれど。

鍋をかき混ぜる手が止まり、ばっと振り向いて顔を上げれば、
ルーエの肩越しに鍋を覗き込むネオルカの整った顔があった。

頬に掛かる漆黒の髪は彼の薄白い肌とは対照的だ。

いつの間に、考え事で気付かなかった?

今まさに貴方のことを考えていたなどと口が裂けても言えない。
少なくともそれが彼にとって『良い考え事』でなかった自覚はあった。


「な、な・・・っ」
「どれくらいでできる?」
「え、あ、後20分・・くらい・・?」
「そう」


ネオルカは短くそれだけ伝えると、キッチンから少し離れた
ソファのスペースに腰を下ろしタブレットを起動させた。

・・まさかご飯できるまでそこで待つつもりか。
・・・緊張する。 あまり仲が良いとは言えないものだから。

鍋の火を弱め、煮込み以外の準備を整えようと食器棚を開く。

食器を出しキッチンに並べて不意に思い出す。
彼は事務作業していた自室から下りてきたようだが、もう1人は。


「あの、ミラーさんは・・?」
「寝てる」
「寝てる・・」
「あいつ体内時計可笑しいから」

「ならミラーさんの分は別に保存しておいた方が」
「いいだろうね」


起動させたタブレットに文字入力を行いながら短く解答するネオルカ。
彼女体内時計ズレているのか・・・また今後詳しく聞いておきたい話だ。

食器に煮込みスープを注ぎ、他に準備していた料理も更に盛っていく。

「ネオ? あー、アイツ時々すっげー言葉足らずだからなぁ」
ミラーが先日放った言葉がルーエの記憶に蘇る。

言葉足らずなだけでは、ここまでギクシャクしないような気もする。
悪い人ではない、それは付き合い浅いながらもなんとなく分かる。

・・・でもどこか合わない。
定められたものであるとは言え相方なのに、この関係でいいのだろうか。

まだ『その時』まで若干の猶予はある。
・・でもそれまでに仲良くなれる未来が見えない。

ダイニングのテーブルにそれぞれ料理を並べて、
「できました」と告げると彼は短く「ん」と反応し、少しして席を立った。

ソファのあるスペースから、ダイニングテーブルまで歩き、
彼はルーエの向かいの席に腰を下ろす。

ネオルカが席に付いたのを確認した後、ルーエは食事の前に手を合わせた。


「・・いただきます」


手を合わせてそう口にする彼女に倣うように、
ネオルカも目を伏せて静かに手を合わせた。

・・こういう点は、彼が悪い人ではないだろうなと思う要因。

スプーンを手に握り、それぞれ料理に口を付ける。
ルーエは食しながらも対面に座るネオルカの様子を伺った。

普通に食べていらっしゃるけれど。
黙々と食べる彼に耐えきれず、恐る恐る口を開く。


「・・・お味はどうですか・・」
「うめぇよ」


特に間もなく返ってきた言葉に目をぱちくりと瞬かせる。
きょとんした表情は次第に崩れ、安堵した顔になった。

一先ずは安心した。 改めて自分の食事と向き直る。


「・・ふ」


そのまま無言で食事が進むかと思いきや、
半分ほど食べたところでネオルカが不意に口元に笑みを浮かべた。

不思議なタイミング、珍しい彼の笑みにルーエは思わず顔を上げる。

彼女が気にしなかったのであれば、
ネオルカは笑った理由を口にしなかったかもしれない。

自分の表情の変化にルーエが反応したことに
気付いた様子を見せた後、彼は目を伏せた。


「飯が美味いとミラーが喜ぶだろうな」


・・・こういうところは、彼を嫌いになれない要因、なのだと思う。





形無き捜し物に解答何処へ



(うおーっ飯が美味い!!)
(うるせぇな、黙って食え)
(えっ美味い・・・うちのキッチンでこんな美味いの作れるんだ・・)
(腕のなさをキッチンのせいにするのはどうかと思うけど)

(私はネオより料理できるよ多分!
 ルゥにお礼言お・・・え、まだ起きてるかな?)
(寝てそうだけど。 明日にしとけば)
(そうすっかぁ。 こりゃ、んむ 他のもんも、ずー・・ 食いたくなんね)
(・・・食いながら喋るな)






最近の作品料理作ったり食べたりしてるところばかりだな。


ルーエ・ディ・ティエル
  ギクシャクした関係は私のキャラとしては珍しい。
  珍しいわりには意外と書ける。 ここ2人はこんな関係になったかぁ。

ネオルカ・ジーヴェ
  書いてて思うけど育ちは良さそう。 意外と端正な顔立ちしてるけど、
  基本無表情だし顔色も良い方ではない。

ミラー・カーリック
  シクザールトリオの中で一番私が好きな性格と見た目をしてる。
  男勝りな箇所があるけど髪が長いから普通に女性に見える。





 

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