創作世界2

□貴方は沈んでしまいそうだ
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あまりに突然で咄嗟のことだったから、
何が起こったか全体像を把握できるほど余裕はなかったけど。

私が彼に守られたということだけは理解した。

攻撃を捌ききれず左側から襲われそうになったのを、
ネオルカは舌打ちと同時に私の左肩を引き寄せ、その攻撃を彼は剣で防いだ。

思えば、常に剣を持ち歩いている彼が
鞘から剣を抜いたのを見たのは初めてだったかもしれない。

彼は投げ捨てるように手にしていた剣を地に落とし、
もう1本、黒い刃を纏った剣を鞘から抜いて応戦した。

剣の腕が充分にあったようで、1分にも満たず相手は地に伏せる。

そこまでは良かった。

助けてもらった礼をネオルカに述べようとしたら、
彼は異常なほど息が乱れていた。

肩で息をするように短い呼吸を繰り返す。
彼が戦ったのは2分も満たないのにこの疲労、あまりにも異様だった。

どこか怪我でも負ったのかと聞いても、
彼は乱れた息を繰り返しながら「平気」としか答えない。

極めつけに居住スペースに戻ってくるなり彼はしばらく休むと自室に篭った。

とはいえ、その疲労はどこから来るもの?
体力、が、ないように見えるか、あの男が?


ネオルカは自室に引きこもったままであるが、一応3人分の夕食を作る。

料理をテーブルに並べてメンバーを呼んだはいいが、
上の階の居住スペースから下りてきたのはミラーだけだった。

ご飯時はいつも姿を見せるだけあって珍しい。
ミラーも不思議そうな顔をして「ネオ来ないな?」と呟いた。


「2人で先食べとく?」
「そうですね・・いただきましょうか」


ミラーの促しにルーエは頷き、
いつものように手を合わせてから料理を食した。

「相変わらずルゥの飯美味いなー」と笑いながら
もりもり食べる彼女を見ると作りがいがあるなと思う。

彼女のことを微笑ましく思う一方、
異様な疲労を見せたネオルカのことがずっと頭に引っかかっていた。

食事も半ば頃、ルーエは浮かない顔をしたまま
「あの、ミラーさん」と対面に座る彼女に声を掛けた。

長い銀髪の髪を揺らして顔を上げたミラーは、
料理をもぐもぐと口に含みながら首を傾げる。


「ネオルカの、様子が可笑しくて」
「体調が悪そうってこと?」
「そう、ですね」
「いつもじゃん」


何を今更、と言わんばかりに首を傾げたミラーにルーエは言葉を詰まらせた。


「・・・・え、」
「あいつはいつも体調悪いよ」
「え、え・・・? でも、普段はもっと・・・」


普段から元気そうかと問われれば、
彼は表情が出てこない人なので、頷けはしないのだけど。

少なくとも普段は普通に、人並みに動いている。

傭兵業の事務仕事は粗方ネオルカが担当している。
それが重荷じゃないかと心配になる時もあるが本人が事務を希望したらしい。

でも今回の件はそれ、じゃなくて。
え、でも普段から体調悪かったのは知らなかった。

考えがぐるぐると巡って言い淀むルーエに、
ミラーは数秒考えた反応を見せた後、思い当たったように口を開いた。


「あー、体調悪いって戦闘後の話?」
「! それです!」
「あー・・・・」


急に話が核心に近付き頷くルーエに、納得したように目を伏せるミラー。

少なくとも明るい表情ではなかった。
彼があんな様子だからかもしれないけれど。


「ルゥ知らないんだ、そっかそっか・・・」
「・・? あの、」
「聞きたい?」
「え」

「まぁいずれにせよ遅かれ早かれどうせバレるんだし、
 さっさと知ってた方がいいだろうから、知りたくなくても教えとくね」


ミラーはそれだけ言うと残ってた料理をかき込むように、
普段より速い速度で食べだした。

そこまで急がなくても、と思いはしたが、
長くなるのだろうかと思うと料理が冷える懸念はあった。

早食いとまでは行かずともルーエも食べるペースを上げる。

皿に投げ入れるようにからんと金属音がぶつかり、
ぱちん、と乾いた音に両手を合わすミラー。


「ごちそうさま!」


普段からルーエよりミラーの方が完食早いが、今日は一段と早い。

説明を受けるのに自分が遅いというのも。
ルーエが食べるのに急いでいるのを察したのかミラーは「あ」と呟いた。


「ルゥは急がなくてもー・・・あー、ゆっくり聞きたい?」
「た、食べます・・少々お待ちを、」
「あっはは、いーよいーよ。 ゆっくりして」
「すみません、」


それから数分した頃にルーエも全て食べきり、
空になった皿を前に手を合わせた。

その様子を見、テーブルの上に皿が乗ったままミラーは1つ息を吐く。


「じゃぁ話すけど。 ルゥって『悪魔の六剣』は分かる?」
「いえ・・・」

「魔武器は分かるよな?」
「はい、武器に魔力が宿った・・」
「そうそう」


質問に解答付きで返せばミラーは相槌を打った。

武器は基本的に魔力を宿さずして作られており、
使用者が魔力を流し込むことで武器が属性を纏う。

だが中には人1人では賄いきれぬほどの膨大な魔力を宿した武器が存在する。

それらは魔武器、もしくは神の手が加わっていることから神器と呼ばれ、
非常に貴重な武器として扱われる。

あまりに貴重なため中には武器として扱わられず、
研究の対象になったり保管されることもあるらしい。


「『悪魔の六剣』ってのが魔武器なんだよね。
 悪魔の、なんて言うくらいで悪魔種族限定で継承される呪われた品」
「・・・呪われた品、」
「そんで六剣なんて言うくらいだから当然6本あって」


そこまで語ると不意にミラーは自分が腰のベルトに挿していた剣を取り出す。
美しく白い鞘に収まったそれは剣にしては随分と美しいと思った記憶がある。


「これがその内の1本」
「! これが・・!?」


呪われた品なんて紹介されながら今向かいにいる人物がその使い手。
思わず目を見開くルーエに、ミラーは少し笑みを浮かべた。

彼女が鞘から剣を引き抜くと鏡のように反射する刃が姿を見せる。
呪われた品とは思えないほどの美しい銀色だった。


「悪魔の六剣、ルヴァンシュ。 『破』の特性を持ってる」
「特性・・・『破』?」
「いかなるものも打ち破る反射の剣」


そこまで喋るとミラーはルヴァンシュと呼んだ、
悪魔の六剣を鞘に戻しテーブルに立てかけた。


「まぁここまで話せば予想は付いていると思うんだけど、
 ネオも六剣の継承者でね。 でも私のよりずっとエグいんだよな」


彼女の言葉にルーエは恐る恐る頷いた。

ミラーが戦闘するシーンは幾度か見覚えがあるけれど、
彼女はネオルカほど息せき切っていなかった。

ミラーは椅子の背もたれに寄りかかった後、説明の前に1つ息を吐く。


「ネオの剣はシュクリスっつってさ、コイツがクセもんなんだよね。
 私はルヴァンシュをここに置いてアベリア散策も国渡ることも可能だけど、
 シュクリスは使い手への依存が凄く強くて一定距離を離れられないの」


ミラーの言葉に思い返してみれば、確かにネオルカは
今日まで戦闘する姿を見たことがなかったわりに、いつも剣が傍にあった。

ご飯の時も、事務作業している時も、
・・・思えば、レーシュテアの学院長室で初めて対面した時も。

彼女の解説に今までのネオルカの様子に納得が行く。


「更にそのシュクリスの特性が『壊』で、
 壊れるという概念のものであれば全部壊せちゃってさぁ」


腕を組んで目を伏せるミラーの説明の続きを待つ。
不意にミラーは向かいに座るルーエに視線を向けた。


「ここで聞いてみたいんだけど、人が壊れると言う場合何思い浮かべる?」
「ひ、人が壊れる? ・・・人を対象に壊れるなんて言います・・・?」


すぐに答えが出てこない質問に思わず頭をひねる。
スポーツなんかでは肩を壊した、とは度々聞くけれど。

でもそういう意図の質問でないことは分かっている。
それは戦闘での破壊じゃない。


「物理的に人を壊すというならまぁせいぜい骨かなぁとは思うけど」
「・・・・精神、的」
「・・・まぁそうなるよな」


物理的でないならば精神的。
確かに、心なら壊れると言う。

それ以外ないよな、と口を噤むミラーに
戦闘明けのネオルカが息をあげてた理由を察した。


「なら、その・・剣による侵食、ってことになるんですか?」
「そうなる、んだろうね。 短い時間でも結構参るみたい。
 だからあいつは事務希望して戦闘を避けてんだよ」


メジストの特戦科を卒業していて、
弱いわけではないのに戦わないのを不思議に思っていた。

戦闘の一切から離れられる事務作業、
ルーエは「だから、」と小さく呟いた。


「・・・その様子だと短時間の戦闘だったから知らないだろうけど」
「?」
「一定時間戦うと彼、人が変わったようになるしね」
「・・・!」

「見ていて気が良いもんじゃないよ。 だから、ネオには極力戦わせない。
 ・・・まぁそれも時間の問題なんだろうけど。 一時しのぎでも、ね」


・・彼が普段から体調が悪いだなんて知らなかった。
肌が妙に白いのは外に出ないからだとか種族柄だとか思っていた。

戦闘に携わらない時でも常に体調が悪いということは、
その六剣が傍にあるだけで影響を及ぼすもの? それとも年月的なもの?

思えば、 私は意外と彼のことを知らない。


「あ、言っとくけどネオに剣抜かせたことに怒ってるんじゃないよ!?
 アイツは自分の状況状態を理解してるし、それ承知で剣抜いたってことは
 そんだけ状況がまずかったってことでしょ!?」


ルーエのことを庇うように慌ててフォローを入れるミラーに、
彼女は浮かない顔を上げて、自嘲気味に薄く笑った。


「・・・危ないところを彼に守ってもらいました。 私のせいかも」
「・・あー・・・まぁまずい状況だね」
「・・・・」
「めちゃくちゃ重要なのに自分のことだからっつって
 ろくに喋んないんだもんなぁ、伏せられた側は参るよな」


彼の性格を理解しているのなら、彼の行動の意図も測れるのだろうか。

・・・少なくとも今回の件は、自分への危機を感知しきれずに
ネオルカの手を煩わせた自分に非があることは理解した。

ルーエは重く息を吐き出すと、
テーブルに手をついてゆっくりと席から立ち上がる。


「・・スープくらいなら食べれるか伺ってきます。
 ミラーさん、お話ありがとうございました」
「ん。 あ、ルゥ待った」
「?」

「『片割れだから』って理由はそりゃ勿論あるかもしんないけどさ。
 あいつは自分にとってどうでもいい奴まで守んないよ」
「・・・」
「だからってわけじゃないけど、気に病むなよ」
「・・・ありがとうございます」



それは枷か、鎖か?

重圧なんてものじゃないと知った。
不運は重なるし連なるものだと言う。





貴方は沈んでしまいそうだ



(ネオルカ、起きてますか?)
(・・・あー・・? 起きてる、 なに)
(スープ持ってきたんですけど・・これくらいなら食べれますか?)
(・・・・あー、貰う。 いいよ、入って)

(具合どうですか?)
(概ね、まぁ。 ・・・今日って担当ルーエだっけ)
(代わってもらいました。 気を紛らわせたくて、)
(へぇ、 ・・・ルーエの料理は美味いけど、考え事しながらはやめときな)






ネオルカはかなりやるせないキャラになるし、
ルーエはこの時ようやくネオルカの見る目が変わる。


ルーエ・ディ・ティエル
  ネオルカがしんどすぎてルーエにも何かあった方がいいのかなって思う。
  けど現時点で充分アレなのでもう。 これ以上はいいだろう。

ミラー・カーリック
  ミラーが居てよかったと本気で思った回。
  ネオルカだと絶対六剣の説明しなかったなって思った。

ネオルカ・ジーヴェ
  ルーエは彼のことがよく分かっていないけど、
  ネオルカは彼女の性格を結構把握している。 最後の発言。





 

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