創作世界2

□テラスでの錬金一幕
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誘う涙が落ち着いてきた頃、ソブラスは不意に小さく謝罪の言葉を述べた。

彼を落ち着かせるように隣に席を移動して宥めていたミザキは、
ソブラスの嗚咽がなくなったのに気づき「大丈夫よ」と再度告げた。

落ち着いた様子を確認してから、ミザキはソブラスの隣に座った口を開く。


「錬金術師の観点で旅団の依頼を受けることが多いって言ってたでしょう?」
「はい」
「そのおかげか、わりと顔が通るの。 アタシが旅団に直接お願いしたら、
 ちょっっとは旅団が抱えてる情報も確認できるわ、ちょっっっとね!!」
「ふふ、凄く溜めますね」


数秒に渡る発言の溜めに、久々にソブラスの顔に笑みが浮かぶ。
ミザキは片手を頬に当て憂うように目を伏せてため息混じりに呟いた。


「流石に制限があるのよねぇ、こんだけ人数抱えている大きな組織だと。
 誠心誠意お願いしても見せてくれないもんは見せてくれないしね!」


笑いながら話すミザキに釣られ、ソブラスも表情を柔らかくして相槌を打つ。
「後はそうねぇ」と呟いて顎に指を当てたミザキは少し考える様子を見せた。


「ここまで大規模だと第三者が関わってる可能性も大いにあるから、
 アタシは主にそういう根本的な調査ね。 人探しもお手伝いできるかも。
 ソブラスの記憶の件でアタシが関われそうなのはこの辺りかしら」
「あ、凄く助かります。 ありがとうございます」


ソブラスも過去に旅団に相談はしてみたものの、
一般旅団員には情報制限が掛かるからとのことで断られたことがあった。

自分が調べられなかった箇所に切り込める人が居てくれるのは心強い。

それと同時にやはり彼は一般旅団員ではなく、
また少し違った立場なんだろうなという想像が付いた。

アタシからはこんなところかしらねぇ、と締めくくるように告げたミザキ。

話が一区切り付いたことを察し、ふと思い返してみれば、
ソブラスはこの街に到着したばかりであることを思い出す。

そういえば。 宿取ってないぞ。

ソファの隣に座るミザキに視線を向け、
「あの」と声を掛けると彼は首を傾げた。


「一息付いて早々なんですけど、宿取ってきます。
 到着したばかりでまだ部屋取ってなくて」
「あらそうなの? あんまり遅くなると取れなくなるものねぇ。
 ・・・あっ、ちょっと待って! 連絡先だけいい!?」
「あっ、そうですね!」


立ち上がりかけたソブラスはソファに逆戻りし、
鞄の中から通信機器を取り出した。

ミザキも腰に下げていた袋から機器を取り出すとポチポチと操作を続けた。


「これで登録しといてちょうだい!」
「はい。 ・・・これ読みは・・ミーザ、ですか?」
「そうそう、愛称なの」
「あ、成程」


互いの連絡先を登録し終え、今度こそとソブラスはソファから立ち上がる。
ミザキは見送るように機器を握っていない空いた手をひらひらと振った。


「それじゃ行ってきます」
「はい、いってらっしゃい!」
「・・・あの、すみませんでした・・・」
「いいのよ全然! なんのためにアタシが来たと思ってるのよ!」


陽気に笑うミザキだがそれでも少し申し訳なさそうな表情を見せ、
ソブラスは会釈を1つするとテーブルから離れ1階へと続く階段に向かった。

階段を下りていく足音を耳にしながらミザキは1つ溜息をつき、
座っていたソファの背もたれに背中を預け、天井に視線を向ける。

階段の足音は完全に消えて、確実に気配が薄くなっていく。


「・・随分と酷な仕事任せてくれたわねぇ、あのコ」







陽がとっくに暮れ、それぞれ晩御飯などを終わらせただろう時刻に、
鼻歌を口ずさみながらミザキは取った宿の玄関扉を開けた。

受付の人物に一言挨拶を交わし、取った自分の部屋に戻る。

荷物の整理、連絡、風呂と粗方用事を済ませてから時計を見ても、
まだ普段の就寝時間より早い時刻を指していた。

時間があるな、という判断をしたミザキが行うとすれば本職の錬金だ。
錬金用の素材や道具が入った鞄を提げて、借りた部屋から出る。

今日は天気も良かった。
宿にあるデッキテラスで作業するのも素敵だろう。

光源が少なめな廊下を歩いていくと、
ある扉が開き室内から見覚えのある人物が部屋から出てきた。


「あら?」
「あ、ミザキ・・さん?」


昼間出会ったばかりだ、早々忘れはしない。
旅団で宿を取りに行くと別れたソブラスと廊下で遭遇を果たす。

昼とは違ってラフな格好をした彼は一応部屋着というものなのだろう。
ミザキは小さく笑いながら、部屋の鍵をかけている彼の傍まで近づいた。


「やっぱりソブラスね。 なんだか見覚えのある姿だなぁって思ってたの」
「あはは、同じ宿だったんですね。 ・・そのお荷物は?」
「寝るまでちょっと時間あるから外で錬金しようと思ったところなの」

「あぁ、良いですね。 デッキの方ですか?」
「そうそう」
「後で見に行こうかな」
「あら、ふふふ。 待ってるわぁ〜」


笑いながら2人は手を振りながらすれ違い、ソブラスは玄関方面へと進む。

あの辺りには好きな飲料を選択できる自販機と、
ひと休憩付ける談話室のようなスペースがあるな。

彼の行動を予想しながら、ミザキはデッキテラスへと到着する。
就寝時間が早い者はとっくに眠っているのか、誰も居ないようだった。

手すり越しに見える街の様子は静かで、ほとんどの店も閉まったようだ。
住宅の明かりがところどころ漏れているだろうか。

木製テーブルの上に提げていた錬金用の鞄を置き、トランクの口を開ける。

魔力で稼働するランタンをテーブル中央に据え、
その他作業予定の素材と道具を順番に並べる。

粗方必要な物を並べ終わるとミザキはようやく椅子に腰を下ろした。

まずは左に置いていた細長い薬草を手に取り、
右手で葉先を支えるように手を添える。


「『アブストラ』」


ミザキの詠唱の後に薬草がじわじわと萎れ、
空中に淡い緑色をした半透明の謎の球体が浮かぶ。

萎れた薬草をトランクの傍に置いていた籠の中に放り、
次は左から2番目に置いていた白い棒状の物を手に取る。

先程と同じように詠唱、白い棒は砕け塩のように細やかなものになると、
空中に浮かびっぱなしの半透明の球体に吸われていく。

そしてまた同じような手順を数度繰り返し、
淡い緑色をした謎の球体は透明感が減り、少々濃くなっていた。

浮遊する球体をじっと見つめたミザキは満足そうに頷く。
トランクの中から空っぽの瓶を取り出して蓋を開けた。


「『ヴィーデン』」


詠唱されると半透明の球体は瓶の中に吸い込まれていき、
瓶の中に収まり切るとミザキは素早く瓶に蓋をした。

外側から透明のガラス越しに覗けば緑色をした液体が瓶の中で波を打つ。

完成に満足そうに笑みを見せるミザキと同時にすぐテラスの扉が開く。
振り向けば「改めてこんばんは」という声と共にソブラスが姿を見せた。


「あら、いらっしゃーい」
「一部始終覗き見ちゃった・・・」
「ふふふ、いいのよ」

「俺、錬金の瞬間って初めて見ました」
「あら、そうなの?」
「だからちょっと驚いた、錬金って詠唱有りなんですね」
「そうね・・なんだかんだ魔力を使用して作ってるからかしらねぇ」


完成した瓶をトランクの中に置くとミザキは一旦作業の手を止めた。

もうすぐ夏も本格的になると感じさせる生温い風が2人の間を吹き抜ける。

扉の前で立ちっぱなしのソブラスに手招きすると、
彼はおずおずと近くの椅子を引いて腰を下ろした。


「まぁ割合で考えると錬金術師って案外居ないかもねぇ・・
 錬金以外でも7割くらいは何かしら他の手段があるもの」
「そうなんだ・・・ 旅団からの依頼が無かった時は普段何されるんです?」
「うーん、錬金してるか露店開いてることが多いかしら?」

「あ、露店開いてるんですか?」
「そう! 自分の作品で開く露店が昔から夢だったのよ!」
「売られてるのは・・・」
「雑貨系と戦闘に使えるアレコレね。 回復とか効果とかそういうものよ」


錬金術師か珍しいのか、初対面であるミザキに興味があるのか、
ソブラスからの質問は度々続いて彼は「ふむふむ」と頷く。

ニコニコと応対するミザキだったが、
不意に作業の手が止まってることに気付いたソブラスが一瞬硬直した。


「・・・俺錬金の邪魔していません・・?」
「あらいいのよ全然、どうせ今やってるの友人の依頼品だし」
「どうせ・・!? いやいやまずいのでは・・・!?」
「半分くらい押し付けられてるからねぇ」

「おや?」
「?」
「すみません、出会って数時間の印象だったんですけど」


ソブラスは申し訳なさそうに眉を下げて一拍空ける。


「ミザキさん、頼られるのが嬉しい人かなって、思ってたみたい」
「何言ってるの嬉しいに決まってるじゃない!?」
「あ、嬉しいんだ」

「合ってるわ!!」
「合ってた」





テラスでの錬金一幕



(外だからあまり難度高いのはできないんだけどね〜)
(やっぱり錬金用の部屋とかあるんですか?)
(作業場あるわよ〜。 いつか見に来る?)
(えっ、立ち入って大丈夫な奴なんですか。 錬金は、こう、繊細なのでは)

(大丈夫大丈夫。 でも散らかってるのは許してね! ご愛嬌って奴よ!)
(ふふ、分かりました。 ミザキさんちゃんとしてそうだから、
 整ってそうなイメージあったや)
(錬金をしない部屋は整ってるんだけどねぇ。
 錬金作業はどうしても散らかるのよねぇ・・・)
(いろいろ使いますもんね。 今テーブルの上も・・素材だけで6つ?)







ソブラス・ヘリッヌ
  ミザキにいろいろ聞いてもらったから、スッキリしてミザキのことを
  聞く余裕ができた、と思うことにします。 部屋はまぁ人並み。

ミザキ・セレジェイラ
  錬金作業に携わると一瞬で部屋が散らかる。 どうして。
  本人も疑問に思っている。 確かに素材多いしレシピ確認もしたいけど。





 

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