捧&貰

□邂逅する『夜桜』と居酒屋
1ページ/5ページ






快晴の空の下、飛び立っていく飛空艇を視界の端に納めながら、
紺色の髪を長く伸ばした彼女は、手元の小さな機械を押し始めた。

イヤホンを耳に掛け、ぽちぽちとボタンを押していく。

彼女の隣に立つ暗い赤の髪を左側でサイドテールにした女性は、
発着繰り返す飛空艇を見上げている。

発着場にあるシャッターが閉まった倉庫を背後に、
彼女は手元の機器を口元に寄せた。

イヤホンからは待機を機械音が絶え間なく響いている。

数秒ほどして機械音が途絶えた。


「あ。 もしもし、クロウ?」
「”ん、フユか。 どうした?”」
「今どの街居る?」
「”? アニティナ”」


呼びかけに応じてイヤホン越しに聞こえる男性の声。

通話開始直後に質問を1つ投げかけた彼女は答えを聞くなり、
隣に立っていたサイドテールの女性へと顔を向けた。


「アニティナだってさ」
「なんや、明日やん」
「明日そっち行くね」
「”は?”」


怪訝そうな声が機械越しに。

唐突な誘いであることを自覚してるのか、
通話相手の男性にフユと呼ばれた彼女はくす、と短く笑った。

イヤホンを嵌めていない女性が、
通信機器を持っているフユの手首を掴み、自分の方へと寄せる。


「時間いつでもええし! お酒飲も!」
「”・・飲みの誘いにわざわざ大陸超えてくる気か・・まぁ構わん”」
「オッケーだって」
「よっしゃ!」


承諾を報告すると、彼女は嬉しそうにガッツポーズをした。

そんな反応を見せた女性にフユは笑みを浮かべ、
改めて通話機器を口元に寄せる。


「それじゃ、また明日」
「”あぁ。 気を付けて”」
「はーい」


了承の返事と共に向こうからの声も途絶え、
繰り返す機械音を耳にフユは通話を終了し、イヤホンを外した。


「ふふ、気を付けてだって」
「はー、毎度律儀なやっちゃな」
「ね」

「そんならアニティナ行きチケット取ろか」
「ん。 クロウと会うの久しぶりだねー」
「ほんまな。 滅多に連絡寄越さんからなぁ、まぁ忙しいんやろけど」

「ぶっちゃけ私達より強いから誘いやすいよね」
「それな!!」







暗い赤色の髪を肩下ほどまで伸ばし、
その髪を左側でサイドテールにしている女性がアキ・カシュナータ。

青みがかった紺色の髪を長く伸ばし、
下の方で2つずつにくくった女性がフユ・ローゼミリアである。

2人は同じ高校、同じ大学へと進み特戦科累計7年の授業を受けきった、
親友と呼べるほど仲の良い旅団員である。

特戦科授業を7年受けている分、1人でも充分依頼を受けるに
不都合はほぼ無いはずだが、何故か2人で受けることが多い。

旅団特有の1人で気ままな放浪する者も少なくないが、
彼女達は1人で行動している方が珍しい。 ある意味イレギュラーだ。


その日はアルヴェイト王国、王都ラクナーベルに滞在していたが、
「なんか久しぶりにめっちゃ酒飲みたい」というアキの発案で。

そろそろ別の街にも行きたいねと会話していたこともあり、
その日の夕方、発着場まで移動した2名は同じクレールド大学を卒業した、
同級生であるクロウカシス・アーグルムに声を掛けた次第であった。

クロウが滞在するという海を超えたアニティナ行きのチケットを取り、
数十分ばかり発着場で待機して、飛空艇に乗り込む。

飛空艇の中をうろついたり、設置されている遊技場で遊んだりして。

到着はアニティナ時刻で朝だと知っていた2人は、
飛空艇内にある2人部屋の客室を借りて。

飛空艇から響く朝の放送の声を耳にしながら、
2人はそれぞれベッドの上で丸まっていた。


「アカン・・・時差ボケや・・・ねむ・・・」
「相変わらず大陸超えキッツイねー・・・」


世界的に気温も上がりだし、暑くなってきたこの季節。

掛け布団までかぶりはしていないようだが、タオルケットを頭までかぶり、
窓から差し込む眩しい光から自分の身を守っている。

タオルケット越しの声は若干くぐもっている。


「力尽きそう・・」
「でも起きないと乗り過ごしちゃうよ・・」
「それは・・端的に言って死やな・・この艇次どこ行くんやろ・・・」

「さぁー・・・便が世界一周してるなら、
 帝国超えた先はネージュとかじゃない・・?」
「あぁ・・それはそれで涼しーな・・雪国・・」

「まぁ起きないとなんだけどね」
「それな・・・」


もぞり、とタオルケットから這い出て、ベッドの上に座ったのはフユだった。
まだ若干眠そうに目尻に手を当てている。

未だにタオルケットに包まっているアキの様子を見て、
彼女はふ、と笑みを浮かべた。

タオルケットを完全に剥いでベッドから足を下ろし、アキとフユが
それぞれ寝転がっていた2つのベッドの間にあるチェストの引き出しから、
リモコンを取り出すと向かいの壁に向けて電源ボタンを押した。

客室の壁一面に現れる画面。
ニュースキャスターの声が客室に響いている。

世界で起きた事件を淡々と述べるキャスターの声に、
画面脇に表示された天気予報に視線を動かす。 アニティナは快晴らしい。

・・・ぴくりとも動作を見せない、
隣のベッドに鎮座するこんもりした山に目をやった。


「アキ、起きてる?」
「・・っう、 あ、あぁ・・・一瞬死んでた・・おはよ・・」
「おはよ。 起きてー、身体は時差ボケだけど朝だよー」
「あぁータオルケット剥がさんでぇー・・・めっちゃまぶいねん・・」





 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ