進撃の兵長

□バレンタインの夜は
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バレンタインデーの夜…。

恋人たちが愛を囁き合う夜に、私は兵長の部屋のドアを叩く。



返事はない。

兵長が来いというから来たのに…。




ドアを開けると、見慣れた兵長の部屋の中はチョコレートの箱の山になっている…。

部屋の中は暖炉の灯りだけ。

むせ返るような甘い匂いが部屋全体にたちこめている。



「兵長?」



奥で微かな布ずれの音がするので入って行くと…。




兵長は上半身裸でベッド仰向けに寝て、今まさにチョコレートを一つ、口に放り込むところだった。


ベッドサイドには開けられたチョコレートの箱とウイスキー……。


そして、兵長の体には………赤いリボンがかかっている。



その光景を見て、私は心を鷲掴みにされてしまう。

何気ない仕草なのに、匂い立つような妖艶さを帯びたその様子は…さながら絵画のようで………惹き込まれてしまう…。





「兵………長?」


「遅い。」


兵長は、指についたチョコレートを舐めとりながら、私に視線を向けることなく言い放つ。



「すいません…。」
「お呼びですか?」

「あぁ。」


兵長はうつ伏せに体位を変え、ウイスキーグラスを手に取り、口へと運ぶ。

かけられていたリボンが兵長の体に絡みつくように巻かれる。


「それにしても…このチョコの山は何なんですか?」

「お前はバレンタインを知らないのか?」

「し……知ってますよ!!」
「…それにしても、この量は…。」

私が周囲を見渡すと、四方の壁際という壁際に、私の背より高くチョコレートが積み重なっている。

そして、そのチョコレートの影に等身大の兵長のチョコレートまで…。

「なんですか?アレ。」

私が目配せして言う。

「俺が知りたい。」

よく見ると、ハンジ班長の名前が書いてある。

……………あの採寸は………。
一瞬私の脳裏をある仮説がよぎるが…。
よそう……。
今考えちゃダメな気がする。


無理やり話題を変える。

「このチョコたち……これからどうするんですか?」

「さぁな…。捨てるしかないだろ。」
「毎年そうしてる。」

そう言っている合間にも、兵長は一粒チョコレートをつまみ、チョコを頬張っている。

「え!!?」
「もったいない!!」

「お前は俺に全部食えっつーのか?」

「そ…それは………。」

まぁ…無理なことくらい、考えなくてもわかる。
それくらいあり得ない量なのだ。

「これ全部食ってたら、俺は立体起動出来なくなるだろうな。」

「……でしょうね…………。」

しかし、贈られた物を捨てるのは心が痛む。
物を送る側の立場とすれば、それほど切ないことはない。

「だ……だったらちゃんと断ればいいじゃないですか!?」

「断るのがめんどくせぇ…。」

「め……めんどくさいって…。」
「…気持ちを受ける気もなにのに、受け取るのは……かわいそうですよ…。」

「じゃあ、もらうたびに俺は全員を相手にするべきなのか?」

「…それは……。」

兵長はうつ伏せの体制のまま、上半身だけを起こし、ぐいと腕を伸ばして、ベッドの脇に立つ私の手首を掴んで強引にベッドへと引き寄せる。

私はよろけてベッドへと腰掛ける。

私は、寝たままの兵長に、腰に腕を回されて引き寄せられ、下から見上げられながら尋ねられる。

「俺がそんなことをしても、おまえはいいのか?」

「よ…よくはないですけど………。」

「まぁ、そんなことをしたらエルヴィンとハンジに何を言われるかわかんねーがな。」

今度は、兵長は腰に回していた手で私の頬に触れてくる。

「嫌って言えよ。」

「へ?」

私も、兵長に触れられた感触が心地よくて…。
そのまま触れられたまま話を続ける。

「へ?じゃねーよ。」
「俺が他の女を相手にするのは嫌だって言えばいい。」


兵長が少し真面目な顔で私を見つめてそう言う。

私の顔が急激に熱を帯びる。

「だ…だったらやっぱり貰わないでください!!」

私は、兵長の色気たっぷりの表情に耐えかねて近くにあった枕を兵長に押し付ける。

「ったく可愛くねーな。」

あてがわれた枕を除けて、兵長が起き上がり、私の隣に座る。

兵長にかかっていたリボンがはらりと兵長の膝に落ちる。

兵長は、そのリボンを手に取ると…
リボンをぴんと貼り、シワを直し、そのリボンを私の頭に結ぶ。

「今日は……バレンタインなんだが?」

「………そうですね…。」

「女が男に告白を許される日だよな?」

「まぁ……そうですね…。」

「…………。」
「お前は、私をあげます。とか気の利いたこと言えねーのか?」

「…それは気が利かして言う言葉なんですか??」

「お前……。」
「頭にリボンで私をあげますって言うのと、全部ひん剥いて裸にリボンだけ巻かれるのとどっちがいい??」

「ど……どっちも嫌なんですけど…。」

「ったく……。」
「相変わらず思い通りにならねー女だ。」

兵長は少し呆れ加減にベッドサイドに置かれたチョコレートの箱を手に取る。

何処かで見たことある箱…??

「あ。」

「なんだ………?」

「それ。」

「これがどうかしたのか??」

「それ私があげたの。」

「………そうなのか??」

「直接渡すと何されるかわからないから、こっそり部屋に置いといたんです。」

「………お前…俺を何だと思ってんだ?」

兵長は若干呆れ顔だが、真実なので訂正する気はない。

「兵長…知らないで開けたんですか??」

「あぁ…。目についたやつを適当に手にとったからな。」

少し心がほっこりとなる。
山積みにされたチョコレートの中から、私があげたものを見つけてくれた…。

「それなら…お前も変な期待してるようだし……。」
「送り主から直接貰うことにするか…。」

すると兵長は、チョコレートを一粒取り、私の口に強引に放り込んで…。
ウイスキーを自分の口に含むと、すぐさま強引に口づけしてくる。



私の口の中のチョコレートと、兵長の口の中のウイスキーが混ざり合い……



そして、兵長の舌の感触が合いまって…



全身の力が抜け、蕩けるような甘さが全身を襲う。



口の中のチョコレートがなくなっても、お互いの甘さは消えることはない…。

求め求められ、お互いを味わい、ようやく唇が解放されると、兵長は私の口元からこぼれたウイスキーを伝い、首元へとキスを移動させる。


兵長の逞しい体が、暖炉の明かりに照らされ、一層色気を帯びる。

キスの余韻に、私の感覚も麻痺しているのか…兵長の肩に掛けられた私の手が、小刻みに震える。

全身を駆け抜けた快感を、体が再び求めているのだ。


私は、掛けていた手にキュッと力を入れると、意を決し、兵長を見つめて言ってみる。


「バレンタインに…………私もあげます…!!」


兵長はほんの一瞬、私を見つめていたが…。
突然私の両肩を抑え、ベッドへと押し倒す。

「そんなことはもう決まってることだ…。」

兵長は私の両手首を掴み、覆いかぶさるような体勢で私を見下げている。

「だ…だって兵長が言えって言ったんじゃないですか。」

「それだけじゃ足りねぇ…。」

「な……何がですか!」

兵長は、拘束した私の手に自分の手を重ね、私の耳元に顔を寄せて囁く。

「俺はまだ、お前の気持ちを聞いていない…。」

「……………………。」


そういえばそうだった…。


いつも、こうなる時は兵長が強引に私を求めてくるから忘れていた……。

でも、改めてとなると…。

恥ずかしくて言えない……。

「い…言えませんよ。」
「そんなこと……。」

「なら………。」
「言わされたいのか??」

兵長の目が怪しく光る。

………今までの少ない経験でわかる。
兵長がそう言う時は、大概意地悪されて言わされる羽目になる…。

「ちょっ……ずるい。」

「ずるいのはお前だろ。」
「………俺にこれだけさせといて、自分からは何も言わねーんだからな。」

「………。」

それもそうだ……。
言い返す言葉もない。

しかし、それよりも何よりも…。
兵長が私の言葉を欲していることが嬉しかった。

私は拘束が緩んだ手でチョコを一粒取り、兵長の口に入れる。


「愛してます。」
「兵長。」


私はちゃんと笑顔でいられただろうか…。

恥ずかしいのを必死で我慢して笑顔を作ってそう言う。


すると、兵長は再び私の手を空で掴み取り、チョコを掴んだ私の指先を舐める……。

指先で感じる兵長の舌の感触が、私の欲望をくすぐる。

舐められているうちに、耐え難い感情が沸き起こる。


「兵長………私も食べて…くれますか??」


兵長は指を舐めるのをやめ、私の手を自分の頬に寄せると、私を横目で見下げながら言う。


「お前…そんなこと言っても大丈夫なのか??」

「………。」


兵長の表情が一層色気を帯びている。
あまり普段感情を顕にしない兵長だか、感情が昂ぶっているのが一目でわかる。

「嫌って言ってもやめられねーぞ?」

「………。」

思考を鈍らせるほどの甘い香りが原因なのか…。

はたまた、チョコレートの甘さとウイスキーのアルコールが原因なのか…。

それとも、私の潜在的な欲望がそうさせているのか…。


私は…


「いいから……兵長の好きにして下さい。」


と、口走る。


次の瞬間………兵長の体が私の体に重なり、それと同時に貪るように唇を奪われる。

兵長の手が私の服の裾から侵入し……。
指先が私の肌を刺激する。


「はぁ……や…ぁ……んん!!」


キスの合間から零れる声すら奪われそうなほど、兵長は私を求めてくる。

私は兵長の腕の中で甘く溶け、兵長に全てを食されていった。

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