進撃の兵長

□この血は貴方にそそぐ
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突然、部屋の窓が開く音とともに、一陣の風が、乾いたばかりの私の髪を攫う。

靡いた髪が私の視界を遮った。

蝋燭の炎がゆらりと揺れたが…直ぐに勢いを取り戻す。


そして、風が止むと同時に、私の視界は回復し………

窓に信じられないものを発見する。






開いた出窓には黒いマント姿の兵長が立っていた。





………ここは4階。

立体起動装置無しでは到底登ることなどできない。

しかし兵長に立体起動装置を着けている様子はない。


「へ…兵長………??」


私が己が目を、信じきれずに問いかけると、兵長はひらりと出窓から飛び降り、白手を片方ずつ外しながらいつもの声で話をしてくる。


「窓に鍵をかけていないのは、不用心だな。」


兵長は、マントを着ていること以外に普段と違うところはない。
私が知っている兵長そのものだ。


「…不用心って……ここは4階ですよ?」
「普通なら誰も入ってなんてこれませんから!!」


兵長があたかも私が悪いかのような言い方するので、私が少しムキになって答える。

すると…。


「現に俺が入れただろうが。」
「こんな不用心じゃ、誰に何をされても文句は言えねぇな。」


と、手に持っていた白手をテーブルに起き、私の方にツカツカと歩み寄ってくる。


「ちょ……どういう理屈ですかそれは。」
「大体、普通の人間は4階の窓からそんなに易々と入って来ませんよ…。」


兵長特有の威圧感を前に、私は半歩足を下げ、口ごたえすることしかできない。

その間にも、兵長は私の目の前にやってきて、くいっと私の顎を持ち上げ、私の目をじっと見つめてくる。



この時始めて、兵長の瞳が、金色で縦に細くなっていることに気づいた。



「…………。」


すごく怖い筈なのに、何故かその瞳に吸い込まれそうな感覚に襲われる。


「兵………長…………??」


もっと言いたいことはあるのに、ろくな言葉が出てこない。


兵長は不意にマントの中からリンゴを一つ持ち出し、兵長の瞳に釘付けになっている私の目の前に差し出した。


「………。」


今度はそのリンゴに私の視線は奪われることになる。

そのリンゴはどこか、見る者の思考を奪うほどの美しさを秘めている。

目の前でゆっくりと移動するリンゴを、私は目で追わずにはいられない。

「そのリンゴは…??」


私がリンゴに視線を奪われながら兵長に尋ねると、兵長は


「毒リンゴだ。」


と眈々と答え…「毒」という言葉に危険を察知した私は、ようやく視線を兵長に戻し、我に帰る。


「毒……??」


私が再び少し後ずさりして警戒すると、兵長は目にも留まらぬ速さで私の真後ろに立ち、後ずさりした私の体を支える。


そしてその直後………部屋の灯りはなんの前触れもなく、突然全て消えた。


月明かりだけが部屋を照らしている。


兵長は再び、私に月明かりを反射して光るリンゴを見せると、耳元で甘く囁く。


「心配する必要はない…。」
「お前がたとえ眠りについても、俺の口づけで目を覚ましてやる。」


「な…にそれ………。」


そのささやきを耳元で聞いた瞬間、私は突然目眩に襲われる。


なぜだろう…。
後ろから抱かれるように支えられていることにしろ、毒リンゴを目の前に出されたことにしろ、口づけで目を覚ましてやるなどと言われたことにしろ…

本来もっと警戒を強めなくちゃいけないのに、なぜか体に力が入らない。

そして、ごく自然に兵長にその身を預けてしまっている。

まるで…兵長に魔法でもかけられているかのように…。


不意に視界に入る鏡………。

しかしそこには兵長の姿は映ってはいなかった。

この時、ようやく、兵長が人ではないことを確信する。


「やはり……お前の体は甘そうだ………。」


私を後ろから支えている兵長が、その鼻先を力の抜けた私の耳元から首筋にゆっくりと伝わせて…肩口まで移動して行く。


「や…………はぁ………。」


兵長の吐息を私の肌は敏感に感じ、その部分が熱を帯びていく。

…そう……私にはもう、兵長が人ではないことを認識できたとしても、何もできることはなかった…。

…兵長にその体を委ねる以外に選択肢がないのだ。


「今直ぐにでも……俺のものにしたいところだ…。」


兵長は私の頬をまるで品定めするかのように撫でる。


「や……め………んん!!」


少し触れられただけなのに体がピクリと敏感に反応する。


「だが、まだだ………。」
「お前が快感に堕ちたとき……。」
「その時が一番美味いからな…。」


「そ…んな………。」


拒絶を言葉にできても、行動では示すことができない。
体の力はすっかり抜け、私は支えられていてやっと立っていられる状態だ。


すると、兵長は手に持っていたリンゴを徐に一口かじった。

その実が割れる音とともにリンゴから雫が滴り落ちる。


そして、兵長はその実を口に含んだ後、そのまま私に口移してくる……。


「んくっ……むぐ…ん!!!」


こんなことで死にたくなどない。
毒リンゴを食べさせられるなんてゴメンだ。

そう思って私は抵抗を試みるが、私ごときが兵長の相手になる筈などない。

あっさりとリンゴは私の口の中に入ってくる。

そのリンゴは果物とは思えないほど甘くて…。

私の口いっぱいにリンゴを押し込められたので、私はそれを噛み砕かざるを得ない。

そして、その隙を見計らって兵長の舌が私の口内に侵入し…

兵長の舌が私の舌を絡め取る。

嫌な筈なのに……。
体の力が抜け、快感がこみ上げてくる。

その時、兵長の尖った八重歯が私の舌先を掠った…。

甘いリンゴの味と私の血の味が混じり合う。

それは甘美で…そしてなぜか、とても背徳的な味がした。

すると次の瞬間、兵長の舌がかなり強引に私の口内を執拗に弄り始めた。

仰け反る私を抱きかかえ、味わい尽くすようにキスは続けられる。


「んっ…ふぁっ………はぁ……あぁ……ん…!!!」


兵長のキスは、私がどんなに押し返して引き離そうとしても容赦無く続けられる。

私はもみくちゃにされながらも、兵長の激しいキスを受け入れることしかできない。

キスの合間からは甘い吐息とリンゴの甘い汁のみが漏れている。


毒リンゴ……そんなことはもう既に頭になどなかった。


ひたすら、兵長のキスを受け続け、私はそれに溺れていく。

兵長から触れられる度に私の体温はぐんぐん上昇し、もうそれは、自分の意思では制御できない。

心臓は激しく鳴り続け、他のことを考えている余裕もない。


ようやく唇が解放された時には、私は既に自分の力で立つことさえ出来なくなっていた。


「……。」


「悪いな。手加減してやれなかった。」


「…………。」


私は返事すらできず、完全に兵長にその身を預けている。


兵長はゆっくりと私をベットに横たえ、片腕をベットについて、私に覆いかぶさるように見下げる。
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