進撃の兵長

□見惚れる体
1ページ/1ページ

「兵長。失礼します。」


私は、兵長に書類を届けるため、兵長の部屋のドアを3回ノックする。


………返事がない。


あれ??
さっき部屋に戻ったのを確認したのに…。


私が試しにドアノブを回してみると………


カチャリ


ドアが開く。


鍵はかけられていない。


兵長の几帳面すぎる性格からすれば、部屋に居ないのに鍵をかけ忘れるなんていうことはあり得ないのだが…


まぁ…仮に兵長が部屋に居なかったとしても、ただ届ければいいだけの書類だ。


居れば手渡すし、いなければ机に置いて行こう。


そう思ってそっと部屋の中を覗くと…
やはり、真ん中に置かれた机には兵長はいない。


何処かに出かけたのか……。


そう思い、私は部屋へと入り、兵長の机に持ってきた書類を並べる。


すると、突然背後に気配を感じ、私が驚いて振り向くと……。


「ーーーーー兵長!!!!」


兵長は、シャツの前がはだけた状態で私の背後に腕組みしながら立っていた。


「兵長!!」
「いるならいると仰ってください!!!」


「不法侵入者が生意気な口をきく。」


「ふ…ふほ……?!」
「ち……違いますよ!!!」
「ちゃんとノックはしました!!」
「急ぎの書類があったのでお届けしただけです。」




「お前、俺が着替えをしているかもしれないとかは考えたこと無いのか??」



「………。」



そう言われてみれば、兵長………
スカーフは解かれ、両肩にかかった状態で、シャツの前が全開だ。


ズボンは…ベルトのみ外れている……。



………私の頭の中で何かが爆発したのがわかった。



「あ……あああ…あのっ………その…っ……。」



兵長の格好を意識し始めると、突然それを見ている自分が恥ずかしくなってくる。


私は半分パニックだ。


兵長のはだけたシャツの隙間からは、程よく引き締まった肉体がちらりと見えている。


正直、この職場は男性社会で、職場内でも割と普通に男の人は服を脱ぐ。

だから、男の人の裸を見たからと言って、全裸でさえなければ、さほど驚くものでもない。


しかし……。

はだけたシャツの効果なのか、兵長の完璧すぎる肉体美のせいなのか……。


私はそんな兵長の姿を見て、その部分に気を取られ、完全に舞い上がってしまっている。


私は、気付けば赤面しながら、


「兵長の腹筋…凄いですよね……。」


と、思っていたことをそのまま口走ってしまっていた。



「…………。」
「不法侵入の次はセクハラか??」



「いや…っ…あの……………。」
「違くて…ですね………。」


自分の失言へのフォローすらもまともにできない。


顔が熱い……。
思考もままならず、目が回る。


兵長の顔など直視できるはずも無く、視線は自然と開いた胸元へ………。


そんな私の様子を無表情で見据える兵長は突然…


私の腕を掴むと、壁際に置かれたベッドに投げ飛ばしてくる。


そして……。


すかさず、仰向けでベッドに倒れた私に覆いかぶさるように、兵長もベッドに乗ってきた。


私の肩に兵長のほどけたスカーフがフワリとかかる。


「どこ見てんだ?」
「変態。」


「どこって……。」
「だって……。」
「どこも見れなくて。」
「困ってしまって…。」


兵長の顔が近い……。

まともな会話が成り立たない。

息も止まりそうな距離で見つめられ、恥ずかしすぎて、兵長と視線を合わせることができず、私は顔を背けて兵長から視線を逸らすが…

兵長の顔との距離は依然として変わることはない。

緊張は尚も続く。


「俺の体に興味あるのか??」


「興味あるとか…そう言うんじゃなくて……。」
「あったとしても言えないっていうか…。」


もう、自分が言っている意味がわからない。



兵長は背けた私の顔の顎先に触れ、私の顔を兵長の方に向けさせる。


そして、私の目の前で人差し指を立てると、その指を自分の体に這わせて下へと下ろして行く。


私の視線は、自然とその指先に導かれる。


逞しい筋肉の上を指がなぞり…。


外れたベルトまで差し掛かると…。



「俺が下を履き替えてる時だったらどうしてたんだ?お前………。」


と、尋ねられる。

その指先はズボンのボタンに触れている。


そのままそのボタンを外したら……


私のパニック状態の脳裏でも、そういう想像は逞しく働くらしく……。

口では言えないような状況を思い浮かべて、再び顔から火が出るように赤面する。


完全に自滅だ。


私にはこんな状況に耐えられそうになく…。


「どうもこうも……ないです。」


そう言いながら兵長の身体を押し戻すために兵長の肩に触れる。


すると、小柄な兵長の意外な逞しさを直に手で感じてしまい……余計に変な意識をしてしまう。


当然、私が抵抗したところで、兵長はびくともしない。

圧倒的な力の差まで見せつけられてしまう。


私の心臓は、壊れるんじゃないかと思うくらい鼓動が早まっている。


恥ずかしさは極限に達し、全身が燃えるように熱い。
兵長から視線を逸らすために俯いた私の目もまた、熱を帯び、涙が浮かんでいた。


しかし………。
俯いても、視界に入るのは兵長の体……。


事態は一向に解決する様子はない。


そして、兵長は俯いた私の顎を指先で上に上げると、


俺の身体だけじゃなくて顔も見ろ。


と、言って、無理やり私に視線を合わせてきた。


見つめあった恥ずかしさに感極まり、持ちこたえていた涙が一筋零れる。


そんな私に、兵長はそのままゆっくりと唇を寄せ…。

私の唇に自分の唇を重ねる。


私には、この期に及んで抵抗するなどという選択肢は用意できていない。

初めはゆっくりと……しかし、次第に激しく…唇を求められていく。


兵長の裸のことで、もう既に私の思考は限界になっていたのに…キスなんかされたらもう………。
頭は真っ白で、私は求められるまま…兵長のキスを受け入れる。


そして、甘く痺れる感覚だけを残して兵長の唇がゆっくりと離れて………。


私はさっきまであんなに恥ずかしくて見つめることができなかった兵長の顔を、ようやく見つめることができた。


…とは言っても、ただ単に、頭がぼーっとして顔を背けることも、視線を外すことも、出来ないだけであるが…。


「お前が俺の顔を見ないと、俺もこうやってお前の顔が見れねぇだろ。」




兵長に見つめられながらそう言われて、私の心に一つの疑念がよぎる。



「………んで?」


しかし緊張のせいか、私の思いは直ぐには声に出来ない。


兵長は変わらず私を見つめている。


私はもう一度声にしてみる。


「…なんで私なの?」


兵長は少し考えた後、


「不満なのか?」


と、無表情で尋ね返してきた。


兵長とのこのやりとりで、ようやく動き始めた私の思考回路からは、次から次へと堰を切ったように言葉が溢れ出る。


「不満も何も……。」
「何でこんなこと………。」
「遊びなら…他の人にしてくださ
い!!」


今度は悔しい思いで涙がこみ上げてきた。



「遊び?」


兵長は若干表情を強張らせて問いかけてくる。


「……だって…………。」
「こんなことするのに、他に理由なんてないじゃないですか。」

「突然こんな…。」


兵長にその気が無くても、私は兵長に憧れを抱いていた。
だから……。
何の理由もなく、口づけされたことがひどく悔しかった…。

憧れに付け入られて唇を奪われて……。
おまけに大切な気持ちまで持って行かれそうになる…。

そんなの酷過ぎる。

しかし、兵長から返ってきた言葉は意外なものだった。


「それは、俺が本気ならお前は構わないってことか?」


だが、感極まっている私の耳には兵長の言葉がまともに入ってこない。


「…そう言うことじゃなくて……。」

とにかく、兵長の言葉など受け付けられずに否定をするが…


「いや、そう言うことだろ。」


もう一度兵長にそう問われて、少し前の自分の発言を思い返してみる。


あ………。
本当だ……。


私が言った言葉は、まさに、その通りだった。


「…………。」


突然私には言い返す言葉がなくなった。


「俺が本気ならお前が俺を受け入れるということであれば……問題はないな。」


兵長は指の背で私の頬に触れてくる。

それを受けながら、私は

「問題ないって……そんなの勝手すぎます。」

と、訴えるが…。


「勝手なのはどっちだ?」
「俺が許可していないのにもかかわらず、好きな女が勝手に部屋に入ってきて、俺の体をジロジロ見た上、赤面してる様子を見れば……。」
「こうなるのも無理はない。」


などと……
兵長から話の中でさらっと告白を受け………私は何て答えればいいかわからなくなってしまった。


「嫌なのか?」


「…………。」


正直、今この体制でいることにしろ、キスされたことにしろ、私に嫌な思いはない。

私は、憧れの兵長に、何の感情も無く勝手なことをされたことが、ショックだったのだ。



「嫌なら今のうちに言えよ。」


「…………。」



そんなの答えられるわけ無い。


だって、本当は兵長の体に見惚れ、強引さに惹かれ、とどめに告白までされて…。

もうどうしょうもないくらい、兵長が好きになってしまったから…。


「まぁ…この体勢で今さらダメだって言われても、辞める保証なんてどこにも無いがな。」

兵長はそう言って無言の私に再び唇を寄せてくる。

私にはもう、キスを拒絶する理由が何一つ無い。


ただただ、為されるがままに、キスを受け入れる。


何度も角度を変えながら求めるように重ねられるキスは、私の思考を全て奪っていく。


そして、私の右手に兵長の左手が重なり…恋人むすびの状態でベッドへと押し付けられ…。


兵長の右手は、私の肩から鎖骨、鎖骨から服の下へと滑り込んでいく。


そして、存分に肌を優しく撫でた後、貪るような手つきで胸をもみあげてきた……。


「ん……!!!んん!!!!!」


唇で塞がれた私の口からは、甘く、篭った鳴き声だけが漏れる。

そして、ようやく唇が解放されると…絶えず重ねられる愛撫に、吐息と鳴き声が部屋に響いてしまい…私は、それを必死で堪えようと、私の上に重なる兵長の体に触れた指先に力が入る。


私の爪が、兵長の筋肉質な体に食い込む。


「もう俺をお前の物だと印をつけるつもりか??」


「やっ……ちがっ………ん!」


兵長の愛撫は止まらない。


「お前が望むなら、印でも何でもつければいい。」
「しかし……俺もお前に俺を刻みこんでやる。」
「覚悟は出来てるな?」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ