進撃の兵長

□黒の魅惑
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コンコンコン

「失礼します。兵長。」



私は3回ノックの後、返事を待たず、すぐさまドアを開ける。



今日は慰霊祭。


「9時にはご用意して会場にいらしてください。」

と、言ったはずなのに……。

今、既に9時半。
開始は10時からだが、式典の段取りや予行練習のため、早めに集合する必要があるのだ。



「兵長ーーー!!!」


私は許可も得ずにズカズカと兵長の部屋に入っていく。


「何だ。」


部屋の奥から声が聞こえる。


私は怒りを足音に乗せてツカツカと部屋の奥へと向かうと………。





壁掛けの鏡の前で服装チェックしている兵長の後ろ姿を見つける。







う………わ…………。








付き合い始めてから、仕事中は絶対見惚れないように注意してきたのに……。


一撃で撃墜されてしまった…。


そう。今日は慰霊祭。
滅多に着ない、正装での参列となる。


全身黒でまとめられた、兵団の正装時の制服………。

官帽にサイドベント(後ろの切れ込みが両脇にある)のスーツジャケット、短めのグローブに、ピッタリしたズボンをインした膝丈のブーツ……。

スーツジャケットは適度にウエストが絞られているので、体のラインが綺麗に見える………。

肩と腰で支える負革がそのラインを一層引き立てていて……肩幅とか、広い背中の中央を走るステッチのヨレ等の絶妙感を作り出している。

そして…前かがみで鏡を覗き込んだ時にチラリと見せる見事なヒップライン……。


服装の全てが兵長の魅力を200%引き出している。



後ろ姿だけなのに、声を失うほど魅入られる。




「ようやく来たか。」


「よ…ようやくって…………。」
「私は会場にいらっしゃるようにお伝えした筈です!!!」


「そんなことは知っている。」


兵長はネクタイの結び目を直しながらしれっとして会話している。


「知ってるなら何で……。」


私は怒りを隠せない。


すると、服装を正し終えた兵長がこっちに振り向いた。


それに合わせて、銀色のモールと勲章が揺れ…。

負革に吊るされた革の装備品同士がぶつかり合い、兵長が動くたびに独特の音がする。


………………。


ダメだ…。


どうしてもトキメキが抑えられず、言葉も思考も停止してしまう。


兵長がコツコツとブーツのヒールの音を鳴らしながらこちらに歩み寄って来るが、魅入られた私は身動きすらできなくなっていた。


あっという間にこの反則過ぎる姿の兵長が目の前に立つ。


深くかぶった官帽のつばが、兵長の顔に影を落としていて、その影の奥で、目だけが怪しく光って見える。




そして……




官帽を片手で軽く抑え、顔に角度を付け…………


……身動き出来ない私の唇に覗き込むようにしてそっと口づけを落とした。





ただ触れただけのキスなのに、心臓が暴れだす。



気を抜けば、そのまま卒倒しそうだ。



「公の場でこの姿を始めて見ると危険なのはお前の方じゃないのか?」



…………この人…確信犯………。
私がこの姿に見惚れることわかってたんだ……。



「それから………。」


兵長はさらに続ける。


「お前のこの姿をまず独り占めするためだと言ったら…お前はどうする?」


兵長は私の正装の襟を軽く摘みながらそう言う。


ドキン。


私の心臓が高鳴る。


私は、髪をタイトに纏め、ギャリソンキャップを被り、ジャケットに金のモール、タイトスカートといった格好だ。


久々の兵長からの甘いセリフに、私は仕事を忘れそうになる。


仕事…………!?


あ。そうだ!
仕事。


私は我に還る。


そして、冷静になって、目の前で甘い雰囲気を醸し出す兵長を見て、この行動の全ての意味を悟った。



「兵長………。」



私の顔がトキメキの顔から一瞬にして疑惑の顔へと変わる。


「そんなこと言って、単に、慰霊祭の説明聞くのめんどくさかっただけですよね?」

私が尋ねると、


「…………ちっ……。」



舌打ちと同時に明らかに兵長の態度が変わった。


やっぱり………。


そして、私がチラリと時計を見ると、もうすでに開始10分前になっている。


「あーーーーもう!!!!」
「兵長!!」
「時間です!」
「早く行きますよ!!」

私は兵長を先導して部屋を出、移動の時間を使って、兵長に式典の段取りを説明した。







………式典が始まる。


楽隊による音楽が流れ、周囲が厳かな雰囲気を纏う…。


でも私は……。

こうして目の前に兵長の正装した姿を見てしまうと……そのことで頭がいっぱいになってしまっていた。


式典など完全にそっち抜けだ。



もう………その姿は…ずるいよ…。



私はその式典中、ずっと、必死に兵長の姿との誘惑と戦っていたのだった。







約1日がかりの式典終了後、私は兵長と共に部屋へと向かう。


慣れてきたとは言え、ついついソワソワしてしまうのはもう、どうしようもないようだ。


兵長は式典が終わるとすぐに、ジャケットの袖を軽く捲っていた。

どうも、袖があると邪魔らしい。


捲られた袖口から見える兵長の腕は、適度な肉付きで美しく、手首がはっきり見える長さのグローブとの間隔が何とも言えない。


また、グローブとの境目にちらりと見える、手の甲の筋張った感じもたまらない…。


私は目のやり場に困り、歩いている間も、おちおち兵長を視界に入れることができない。
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