二課のお姫さま
□金曜日のメロディ
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「♪〜」
とある金曜日。
愛奈の机の上に忘れられた携帯電話から小さく着信音が鳴り出した。
それを耳を澄ましてチェックしている男性が6人。
持ち主は雑用を頼まれて先ほどから資料室。
「♪〜」
また同じ着信音。
今日もう4度目だったか。
男たちは思った。そして「ずいぶんとマメですよね」と八千草がそれを声に出す。
彼らは知っていた。
この中の誰かから、つまり同僚からメールや電話があった時の着信音とは違うことを。
彼女にとっての「特別な存在」を周囲に意識させるメロディ――。
「ただいま戻りました」
明るい声が二課に響いた。
彼女にしては珍しく身に付けている白いワンピースの裾が、動きにあわせて軽やかに揺れる。
「桐沢さん、これで間違いないでしょうか?」
頼まれた用事について確認しに二課のボスの元へと彼女は進む。
「ああ、ありがとう。……ところで、携帯が」
早速話を振る桐沢に、男たちは黙ったまま心の中で親指を立てた。
「あっ。すみません持って出るの忘れてましたね。今日金曜日だし、もしかしてうるさかった……ですよね」
彼女は申し訳なさそうに俯いた。
「いや、いいんだが。同じ着信音が何度も聞こえたから気になってな。もしかして今日の夜楽しみなことでもあるのか?」
そう直球で尋ねるボスの顔は真剣そのものだった。
あまりにも真っ直ぐすぎると男たちは思ったが、彼女もかなり正直で、その質問に動揺した様子が窺えた。
「え。そ、そんなこと聞いちゃうんですか〜」
「おい藤岡。それでうまくごまかしたつもりか?」
花井が自席から口を挟んだのを引き金に。
「愛奈ちゃんそのワンピース似合ってて、なんかずるい」
八千草は口を尖らせている。
「相手は私だと遠慮なくおっしゃって下さい」
京橋はいつもの調子で勝手なことを言っている。
「今日は朝からそわそわしてる」
そっぽ向いた浅野も独り言のようにぽつり。
「……は、……は、……ハックション」
…………。
「いやいや天王寺さん空気読みましょうよ!」
「生理現象や!しゃーないやん。……で、どうなん?」
みんなの視線が愛奈に集中する。取調べを受けている被疑者はこんな気持ちになるのかもしれないと彼女は思った。