努力すれば報われると思っていた。
そうして大抵のことはそうだった。
なのにどうして。

「大丈夫よ、クリス!美味しいわよ。これ!」

シーダ様がそうおっしゃるのでそうでしょうか、と
自分の焼いた
前回同様見た目はとても美味しそうなお化けやカボチャや猫の形をしたクッキーを手に取る。
口に運んで項垂れる。
鋼味ではないけれどなぜかそれは
普段使う蜂蜜ではなくて滅多と手に入らない砂糖を使って焼いたはずなのに
ブルーチーズのような味がする。
チーズを入れた覚えは、ない。

「それに、ジョルジュさんって甘いものが苦手だとクリス、言ってなかったかしら。
これならチーズ味にしたのって言えば誤魔化せると思うの」

セシルのは…ともごもごと口にして気まずそうにシーダ様が目線をあちこちさ迷わせる。
私もそっと横を伺う。
同じように並べられたクッキーだけれどセシルのものは最早原型が何であったかすら判別できない。
そそくさと原因不明のチーズ味のクッキーを包んでお礼を告げて調理場を後にする。



「ジョルジュ殿、これハロウィンだからみんなに作ったので良ければどうぞ」

手の中のレースが縁についた包み紙を弄びながら口にする。

「…今日はいつもより上手に焼けた、気がするのでどうぞ」

少し歪んだ薄い紫とオレンジのリボンを結び直す。
言い訳みたい。

「はああ…言葉にするのって難しい…」

「何がだ」

突然声をかけられて手の物を落としそうになって慌ててストールを上にかけてそれを隠す。

「ジョルジュ殿!」

背後から覗き込むようにしていたジョルジュ殿が隣に座っていいかと問うように
私の隣を指で示すので横へとずれる、とその開けた方ではなく反対側にすとりと収まられた。
風が彼で遮られて笑みが零れる。
お礼を言おうと顔を上げるとニヤリと笑みを浮かべて整った秀麗な顔がすぐ近くにきて。

「トリックオアトリート」

とんとんと私の膝にある、隠したお菓子をノックする。

「聞いて…気付いていらしたんですか」

柔らかな金の糸がさらりと揺れて縦に首が振れる。

「どこから…?」

「最初から」

気まずい。
目を逸らそうとして顎先を掴まれて固定される。
これは不味い。
多分経験上これは多分される。
何かされる多分。
身の危機を感じて身体全体に緊張が走る。

「言葉にするのが難しいのは…それが本心でないからというのもあると思うが」

顔が近い!

「あの!美味しくはできたんです!!なぜか解りませんがでもどうぞ!!」

クッキーをあと数センチまで迫っていた唇へと押し付ける。
ありがとうと笑顔を浮かべて
丁寧に包みをほどきクッキーを一掴み。
十分彼も私の料理の腕前を了承されているため一瞬怯んだようにも見えたけど
意を決したように口へと運ぶ。
彼は決して悪食というわけでもないのに何か私が作ると必ずこうして食べてくれる、それは嬉しいのだけど。
強奪の仕方が毎度毎度心臓に悪い。

「へえ、チーズ味か」

「…はあ、ええまあ…」

煮え切らない返事の私を怪訝そうな顔でまた見たあと気に入ってくださったのか
もう一口手にする。

「美味いじゃないか」

「…ありがとうございます」

言葉にするのが難しいと感じるのはそれが本心でないから。
そうかも知れない。

「クリス」

俯いていると名前を呼ばれて顔を上げると頬に柔らかくて暖かいものが触れて
それが彼の唇だと理解するまで訳10秒。

「ジョルジュ殿!」

「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞと言っただろう」

触れたところが熱くて顔が熱くて間違いなく今自分は真っ赤でそれを自覚してまた恥ずかしくて。

「渡しました!」

「正直に言わないからだ。
ただ菓子は美味かった。
だから頬へキス程度で我慢しただろう。
最も話したら話したで御礼と称してキスするつもりだが」


いうことはお菓子をあげなかったら何をされていたのだろうか。
恐ろしくて聞く気にもなれない。

「どう転んでもキスはされるんじゃないですか…」

膝に顔を伏せもごもごと呟くとそうだなと悪びれない声。

「クリス」

耳朶を冷たい指先がくすぐる。

「…。
ジョルジュ殿に、差し上げたかったのです。
美味しく出来るかわからないけどあなたが喜ぶ顔が
ただ見たかっただけなんです」

苦手だ。こういう事を言うのは。








『伝えてくれなきゃ
       悪戯するぞ』









「聞き取れなかった。もう一回言ってくれ」

「…意地悪!」






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