ドフラミンゴトリップ

□人でなし桃鳥VS寝起きの悪いヒロイン
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息苦しい

その一言に尽きる。いや一言ではない、加えて不快だ。名前は謎の息苦しさと不快さによって強制的に目覚めを余儀なくされた



(何かが尋常じゃないくらい近い)



そしてやはり息苦しくて不快だ。まだ半分程しか開けていない目に映るのはぼやけた肌色と黒。ぼやけて見えるのは多分、近過ぎるせいだろうと名前は考えた。寝起きが悪すぎる彼女にしてはよくここまで思考が動いたものだと、仮に今彼女をよく知る者が彼女の思考を読み取っていたとしたら驚いていただろう。それから言うのだ

問題はそこじゃない、と

いや厳密に言えばそこも問題なのだが、まず真っ先に気にすべき場所は違うはずだ。そもそもの目覚めの原因をよく思い返してほしい。彼女は息苦しさと不快さを感じていたのだ。主に口元から。それから、寝起きの彼女の耳にはまだ届いていないのだが湿っぽい音もする。口元に限り

まあお察しの通り、彼女は現在進行形でキスされているのだが寝起きの悪すぎる彼女はまだ頭が回らない









安らかに。この表現がぴったりな寝顔を惜し気も無く晒す女を見下ろしながらドフラミンゴは特徴的な笑い声を喉の奥に押し込んだ。それに合わせて三日月を造っていた口元も少し緩む

女を覆っていた肌触りの良いシーツはドフラミンゴにより足下まで下げられているが、女が寒そうに身をよじる素振りは無い。それもそのはず、ドフラミンゴの船は現在春島の初夏辺りの気候を保つ海原を進んでいるのだ、温度も空気も快適そのものだった。そしてなにより、女は上下グレーのスウェットを乱すことなくきっちりと着用していた。寒がる要素は皆無に等しい

ドフラミンゴは女の頭の天辺から足の先までを舐めるように見る。そして思う



(なんだこいつァ)



昨晩、女を抱いた記憶は無い。酒はザルだ、記憶を飛ばすなど有り得ないし昨晩は酒もそこそこに寝入ったはずだ。何より今は船の上。何処かのバーで女が擦り寄ってきた、だなんてそれこそ有り得ない。だがしかし、現状は見知らぬ女が隣で…距離は若干離れていたがそれでも眠っているのだ。きっとそういう事なのだろう。いやでもだったら何故、女はこうもきっちり服を着ているのだろうか。しかもスウェット。そしてグレー。行きずりで一夜だけを共にするにしたって…いや行きずりで一夜だけを共にするからこそ、これは酷いとしか言えないだろう。フォローの余地無し。萎える

ドフラミンゴは考える。見る限り他に服を持っているわけでは無さそうだ、ということはスタートから女はこの格好ということになる。果たして自分は未だかつて例えば顔や身体の良しを差し引いてもこんなふざけた格好をした女を抱いたことがあっただろうか。いやもう萎える

それにだ。彼は未だかつて自分と情事をした女が事後にこうもきっちり服を着込んで眠りにつく様は見たことが無い。体力もテクニックも十二分に備わっていると自負している。そんな自分と夜を過ごした女のほとんどが途中で気を失うか、まったくと言っていい程動けなくなっていた。それをこの女はいったい…。いやそれ以前にドフラミンゴは抱いた女をそのままベッドで寝かすなど一度もしたことが無かった。朝を一緒に迎えるなんてもってのほかだ。気絶した女にしろ動けなくなった女にしろ、必ずクルーやボーイを呼んで部屋から追い出していたしドフラミンゴが機嫌を損ねた時には殺すこともあった。それをこの女はいったい…

もう何もかもが謎である。さすが偉大なる航路。それに加えてドフラミンゴは気付いていた。初めて一緒に朝を迎えたかもしれない見知らぬ女に、不愉快は抱かずむしろ興味を抱いた自身に。そして思い至るのだ



(まずは起こしてやらねェとな)



胸中でごちながら彼は嬉々としてスウェット姿の女に口付けた

気分は萎えるどころか上がる一方だ



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