ドフラミンゴトリップ

□目的地ができました
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「ぷるっぷるっぷるっ!」

『……』

「ぷるっぷるっぷるっ!」

『……』

「ぷるっぷるっぷるっ!」

『……ねえ…』

「なんだ?」

「ぷるっぷるっぷるっ!」

『……この、子…?…どうにかしてあげなよ…』







天気が良いからと言ってお昼ご飯を甲板で食べていたけど、航海士が遠くに見える黒い雲を見て嵐が来ると言ったので素早く部屋へ戻った。部屋だと一羽と一人っきりになってせっかくのご飯の美味しさが激減するから嫌なのに…はぁ…

食べ終わる頃には嵐が直撃して船が揺れた。何か手伝いたいけど、はっきり言って足手まといにしかならないのであたしは大人しく部屋に居る…けど、この馬鹿は外に出るべきだと思う。船長だからってコイツは働かなさすぎだ。人を膝に乗せてダラダラしてる場合じゃない。なんか指示とかないのかよ。なに、海賊船の船長ってみんなこんな何もしないものなの?

あたしが此処に来てからコイツが何か仕事らしきことをする姿を見たことがない。仕事相手と話す為に島に行ってたけどそれも直ぐ帰ってきてたし。というか、そもそも海賊の仕事ってなんだ…。…アレか、略奪。うわ最低。てかコイツの略奪の仕方とかえげつなさそう。そしてコイツに略奪なんてされたら一気に血管破裂しそう。すんごいイラつく。あたしだったら人生の汚点だな

なんてことを考えてたら(決して口には出さない。ヘタに鳥に対しての何かを尋ねたらいつも以上に喋り狂ってウザさ極まれり、だ)一度も使われてるところを見たことがなく、部屋のど真ん中にあるにも関わらず存在感が薄々だった執務机…の上に置かれてた…飼われてた…?バカデカイかたつむりらしき物体が、突然必死な顔してぷるぷる言い出した。えぇー…

実は此処に来た当初からずっと気にはなってた…。いやだって、見た目は9割かたつむりだけど妙にデカイしボディは電話機そのものだし常に寝てるしたまにイビキ聞こえるし…。気にならないほうがおかしいだろ。そんなかたつむりが勢いよく目をかっ開いたかと思えば必死な形相でぷるぷるって…。それを完全にスルーして私の読んでる本を覗き込んでるコイツのスルースキルはレベルMAXなんだろう。なんて憎たらしい



「相手が誰か予想つくからめんどくせぇなァ」

「ぷるっぷるっぷるっ!」

『……電話なの…?』

「電伝虫だ」

「ぷるっぷるっぷるっ!」

『……ふーん…』

「気になるか?」

「ぷるっぷるっぷるっ!」

『…そりゃこんだけ必死な顔されれば…』

「フッフッフ…そうか、名前チャンが気になってんなら仕方ねェ。出てやるか」



一々恩着せがましくてイライラするな。鳥は例のごとく(…って認識してる自分消えたい)あたしを抱えたまま立ち上がり、執務机へ向かう。と言ってもソファは執務机の前に置かれてるんだけど。鳥が机の上に座ろうとしたので行儀悪いマネすんなと言えば椅子のサイズが合わなくて座れないと返された。お尻ハマって一生そのまま生きればいいじゃん…てかベッドもソファもクッションでさえも怪鳥サイズなのに執務用の椅子だけ標準サイズなの?なにゆえ?用意した人絶対コイツのこと嫌いだろ。グッジョブ

鳥が受話器(らしき物)を取る様子を見ながらあたしは内心で少しだけ(米粒ひとつ分くらい)スッキリした気持ちでいた



「はいよー、もしも、」

〈ドフラミンゴ貴様なにをしてる!!さっさと出んか!!〉

『お、おぉう…』



鳥が受話器(らしき物)に向かって話し掛けるとそれを遮るように電伝虫なるかたつむりが先ほどよりさらに鬼の形相をして怒鳴り出した。声の主はおっさんだ。どうやら電話の相手らしい。かたつむりが怒ってるのは電話の相手が怒ってるからなのか。今まで散々寝てたのに起きた瞬間から鬼ギレしてこのかたつむりの血圧的なものは大丈夫なのか心配になるあたしをよそに、鳥と電話越しの方は話を進めている



「センゴクさんよォ、俺がいつも暇してるみてェな言い方だなおい」

〈ふん、海賊なんぞそういう生き物だろう〉

「言ってくれるなァ」

〈ドフラミンゴ…それよりも、今回の召集は蹴ることは許さんぞ!必ず来い!〉

「あァ?そりゃあおれの勝手だろう」

〈ふざけるな!貴様の傘下と名乗る海賊共が数ヶ月前に暴れたのを知らんとは言わせんぞ!〉

「フッフッフ…どうだっかな…弱ェやつにゃ直ぐに興味が無くなるもんでね」

〈つべこべ言わずに必ず来い!せいぜい我らの気を引く弁明を考えておけ!〉



がっちゃん!と始終般若だったかたつむりが口にしたかと思ったら、またいつものように眠りだした。通話終了か…いやそれにしても…



『…今のって……』

「あ?あー…ビビらせちまったか?あいつはいつでもこんなもんさ」



それにしても面倒くせェなとぶちぶち言いながら鳥は机から降りてまたソファへ戻った(あたしは…まあうん…察してくれ)。とにかく、何やら電話の向こうのおっさんの所へ行かないといけないらしい

あたしとしては是非とも行ってほしい。会話の内容的に鳥が怒られるのは必須だし。ざまぁ。そしてそのまま半年は戻らなくていいよ



「せっかく名前チャンと夏島でバカンスに洒落込もうと思ってたのによ」

『アンタの頭はいつでもバカンス常態でしょうが』

「まァ愉しみは後に残すのも悪かねェか」

『人の髪の匂い嗅いでんなよ変態オヤジ』

「フッフッ…!いいこと思いついたぜ名前チャン…!」

『鼻フックされてるのにそこまでナチュラルでいられるってあアンタ…』

「アイツらに見せびらかしに行こう…!」

『あたしを、って続ける気ならこのまま鼻ちぎるけど?』

「不安になるこた無ェ、おれがずっと付いてるからなァ」

『アンタがずっと付いてる以上に不安を覚えることって何かわからない』

「決まりだ、フフフッ!そうとなりゃ愉しみになってきたぜ」

『アンタのスルースキルがチートすぎる』



ちょっと何、どういう事?瞬く間にあたしが被害の中心に置かれたんですけど。30秒前までの、ざまぁとか思ってた自分はどうやら幻だったらしい。既にあたしには沸き上がる苛立ちしかない。本当に人語が理解出来ない鳥なわけねコイツは

…オーケーわかった、わかったよあたしはこういう星の下に生まれたってわけね。諦めろってことね、受け容れろってことね。コイツに出会ったのが運の尽きなわけねうんそうね

こうなったら、意地でも誰か一人くらいはあたしを可哀想とか思ってくれる人と出会ってやる







人知れず誓ったあたしはとりあえず、鼻フックしてた指を殺菌消毒しなければと深いため息を吐いた















出鼻を挫かれたってこういう事を言う



(銜えてやろうか)(そのまま奥歯がたがた言わせてやろうか)














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ニアミスしかしないヒロイン



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