ドフラミンゴトリップ
□白熊に出会う
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『…………』
「…………」
目の前に打ち拉がれている熊が居たときの対処方を教えてくれなかった両親と先生を責めても構いませんか
事の始まりは今朝、島に着いたところからだ
初めての島訪問の際のトラウマがあったあたしは、正直言って上陸したくなかった。けどいい加減に鳥とペアルック擬きの服を着るのは嫌だ。限界だ。ピンク色が憎らしくてしょうがない。もはや病みそう。なので恐々とではあったけど、こちらの世界に現れて初めて大地というものに足を着けることになった。いやあたしは自分の足で歩けるなら船の上でも海の上でもいいんだけどね。うん
例のごとく鳥があたしを抱えこともあろうか、そのまま町に行こうとしたのでミドルキックを鳩尾にばっちりキめてなんとか降りたりもしたけど他は特に問題も無く服屋に着いた。やっぱり例のごとく鳥がピンクをごり推ししてきて且つ勝手にレジへ運んでいたけど今更なにも言うまい。かまえば付け上がる。あたしはあたしで好きな服を好きなだけ買わせてもらったから、とりあえず文句は無いかな。パトロン的ポジションに立った鳥に初めて好感触を抱いた。髪の毛三本分くらいね
もちろん試着した服をそのまま着てく。インディゴデニムのスキニーに黒無地のTシャツ。こんなにも“ザ・普通”の格好が最高にイケてると思ったことはない。それから例のごとく嬉々としてあたしを連れまわそうとする鳥(髪の毛三本も勿体なかったくそう)を荷物の雪崩で攻め落として逃げ出すことに成功した
うわ、一人でのんびり散歩出来るとか幸せ過ぎてテンション上がるヤバいヤバい……なんてウキウキで町を練り歩いていたあたしはキャラメルフレーバーのチュロスを買い町の外れにある小さなレンガ造りの橋を見つけた……ら、うん…ね…
『かっこよくなりたい?』
「うん…」
橋のへりに両肘を付いて頭を抱える二足歩行の白いつなぎを着た白熊。白熊のくせに白い服だと?二足歩行とか服着てるとかそういったものはこの世界の基本スペックなので突っ込まない。でも白熊に白い服というカメレオンカラーの着こなしへの突っ込みは外せなかった。でもまさか初対面でしかもあからさまに落ち込んでる動物に辛辣な言葉はかけられない。動物虐待、ダメ、絶対。だからここはまぁ普通に声をかけてチュロスを半分あげてみた…ら、懐かれた…
人間の言葉を喋って驚かれなかった事が嬉しかったらしい。…いや、ここまできたら人間の言葉を喋るとか当たり前だと思うんだけど。むしろ二足歩行で服まで着てて喋ってくれないほうが驚くだろ。まさかのフラグ折りとかあり得ないでしょ
白熊の名前はベポと言って、つなぎは最近加入した海賊団のユニフォーム的なものらしい。そして彼の悩みは自身の海賊の在り方についてだった
初対面で話すにはヘビーなネタだなとか思ってナイヨ
「…ぼくもキャプテンみたいにかっこよくなりたくて」
『キャプテンってどんな感じの人……人間、なの?』
「うん人間。すっごく強くてかっこいいんだ、それにクール!」
『へえ』
「ぼくも、海賊ならクールでかっこよくなくちゃって思うんだ」
『海賊ってそうゆうもの?』
「うん!」
マジか、じゃあアイツは海賊じゃなかったというわけですか。格好良くもなければクールでもないんだけど。それにしても、ベポが格好良くなるってのはアレだけどクールになりたいってのは…どうなんだろう。橋のへりに座って足をぶらぶらさせながら、勿体ないからって少しずつチュロスを噛る子がクールになるのは…どうなんだろう。失っちゃいけない何かを失うことになるんじゃないだろうか
『…あたしにはベポは今のままでも充分だと思うけど……?』
「えっ!ほ、ほんと!?」
『ほんとほんと。そうやってキャプテンを大事に想うとことかが。それにまあ、格好良さにもいろいろあると思うから何もキャプテンと同じ格好良さを求めなくてもいいんじゃない?クールとか言うけどさ、あたし、もう全然まったくこれっぽっちもクールじゃないけど海賊やってる奴知ってるし。しかも手の付けようが無いくらい格好悪い』
「その人ほんとに海賊…?」
『言い張るのは個人の自由だしね』
「そ、そっか…」
『まあその話はどうでもいいんだけど、ベポにはベポのかっこよさがあるからソレを無理せず徐々に極めてけばいいんじゃない?』
「ぼくのかっこよさ…か…!う、うん…!そうだね、キャプテンのまねっこじゃなくてぼくだけのかっこよさがあるよね!」
『あるある』
「へへ!」
『…アドバイスをちょっとするなら…』
「なになに!?なにかあるの!?」
『…うん……その…つなぎ、ね。…それ、つなぎ自体はカッコイイけどでもベポって白熊じゃん?白熊って白いから白熊って言うじゃん?…なのにわざわざ白い服着ちゃうとか……うん。あたしはもっと違う色にするとかっこよさが上がる気がする…けどどうかな…?』
「違う色のがかっこいい?」
『かっこいい』
「でもみんな白いつなぎなんだ」
『ひと…一匹…だけ違う色着てるとかかっこよくない?特別みたいで』
「特別…!……か…かっこいいかも…!」
『でしょー』
「うん…!じゃあじゃあ、他になにかある?」
『他?…うーん…他……あぁー、個人的には今のままが好きだけどでもまぁベポがかっこよくなりたいなら…うん、言い方変えてみるとか』
「言い方?」
『“ぼく”じゃなくて“おれ”』
「…お……おれ…!」
『そうそう』
「そう言えばキャプテンや皆も“おれ”って言うよ。…うん!ぼ…おれも今からおれのことはおれって呼ぶ!」
『いいね、かっこいいよ』
「へへへっ!」
満面の笑みで“おれ”を連呼するベポの愛らしい様子を見てると心が浄化されてくのがわかる。なにこの洗礼。よかった、クール路線を断念させて。それから少しだけお喋りして、ベポはつなぎを新調すると言って去って行った。また会おうねって言って手をぶんぶん振ってバイバイしてくれるベポにあたしも負けじとぶんぶん手を振った
この世界で初めて出来た友達は人間ではないけど、とってもイイコだった。船に戻ったあたしを待ち構えているのが、涙で迎えるボロクソ化したクルー達とかつてない程の欝陶しさを誇る自称海賊兼人間である怪鳥でも、ベポとの出会いは最高だと言える
何度も振り返ってくれたキミとなら、必ずまた逢えるよ
(名前、名前、フフフッ…!さすがに今回はおてんばが過ぎるぜ?なァ名前、おれがどれだけ探したと思う?お仕置きが必要だなァ…フッフッ…そうだな、次の島に着くまでおれの傍を50p以上離れない刑だ…!)(浄化した心が一瞬で濁りきった)
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ドフラミンゴの八つ当たり被害を受けたクルー達
いずれはベラミーを出したいんだ\(^ω^)/
以下おまけ
「キャ、キャプテンンン!!!」
「あァ?なにかあったか?」
「べっ……!ベベベベポが!ベポがっ!!」
「…ベポがどうした」
「そ、それが…っ!」
「アイアイ!キャプテーンただいま!」
「?なんだ?何もねェじゃね…………ベポ…何があった…」
「へへ!これ、どうかな?かっこいい?かっこいい?オレンジにしてみたんだ!おれって白熊だから白いつなぎよりもコッチのがかっこいいよね!?」
「…おれ…だと……!?」
「キャ、キャプテンそれが…散歩から戻ってきたと思ったら既にこうなってて…!おれ達にもわからねェんだ…」
「…そうか…」
「キャプテン?…お、おれ…変…かな……?」
「……いや…いいと思うぜ…」
「!ほ、ほんとっ!?」
「…あァ」
「へへへっ!」
「……どこのどいつだ…ベポを不良にしやがったのは…!」
ベポは箱入り息子