ドフラミンゴトリップ

□脱出する
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『ちょっともうまじありえない大気圏までふっ飛とんでくれなちかな』



あり得ない。どれくらいあり得ないかと言うとあたしが、いま目の前で正座してる(させてる)気違い怪鳥に猫なで声を出すくらいあり得ない。いまとか自分でもちょっとどうかと思うくらい渋くて低い声出したからね



「フッフッフ…ンな怒るなよ」

『怒る以外の感情は逃亡したね。ほんと何考えてんの』

「見せびらかしたかったんじゃねェか」

『じゃねェか、じゃないからマジメに答えないとその羽むしるよ?』

「おれ以外にゃ触らせてねェから心配すんな」

『それが心配だっつーの』

「…なんだよ名前、お前ほかの野郎に触られたかったってのか」

『人をアバズレみたいに言ってんなよ』

「フッフ…だよなァ…フフフッ」

『きもいんだよっ!』

「…ひとまずそれくらいにしておやり」



へらへら笑い続ける鳥にモンゴリアンチョップをくり出したところで、おつるさんが止めに入った

だいぶ割愛してるけど実はあたしは既に小一時間は鳥を正座させていたりするわけで、そうさせるまでの経緯を知るには鳥野郎のちゃらんぽらんな説明だけじゃ役立たず過ぎるわけで、同情と哀れみの眼差しを持ってして丁寧な説明をしてくれたのがセンゴクさんとおつるさん&七武海と呼ばれる方々なわけで



「紅茶を淹れたからお飲み」

『…ありがとうございます…』

「名前チャンが淹れたやつが飲みてェなァ」

『だれが淹れるか。てか、どさくさ紛れに席につこうとしないで。アンタはそこで当分正座だバカヤロウ』



ひでェなと言いつつも笑って喜んでる(ようにしか見えない)ドM野郎はシカトで皆さんお揃いの広いテーブルへ向かう。鳥に救いの手を差し伸べるクレイジーな人はこの場に居ない。よかった、(たぶん)良識的な人達ばっかりだ



「あのドフラミンゴが素直に言うことを聞いてる…だと…?」

「こりゃたまげたのう」



頭の天辺に乗っかるカモメがキュートだけど胃潰瘍で悩まされてそうな雰囲気を惜し気も無く晒すセンゴクさんとシーサーの化身のようなジンベエさんがやたら驚いてて、たったこれだけのことで鳥が普段からどんだけ余所様に迷惑を撒き散らしてるのかがわかる



「ふむ。ならばドフラミンゴの分の菓子はおれがいただこう」

「……」



天然マイペースが大噴火なラテン系オヤジなミホーク(呼び捨てが許される気持ちになるのはなんでだろう)へ、残念そうなものを見るように苦い顔を向けるマフィアン海賊なクロコダイルさんとはとっても仲良くなれそうで気分が上がってしまうのは仕方ない


「ここ最近のヤツの動向が妙に落ち着いているとは気づいていたが、こういう事だったのか」

「こりゃいい拾いものをしてくれたもんだ」



名前の可愛さと見た目のギャップが激しいかと思いきやあんまり動かない姿が結局可愛いくまさんと、おばあちゃん子だったあたしには堪らないクールキューティーおつるさん。…まぁおつるさんの呟きには触れんがな。聞いてない、あたしは何も聞いてないよ

それにしても、話を聞けばどうやらこのピンクの塊はひとえに海賊と言ってもなんだか変わった地位に就いてるらしい。政府公認て…おいおい、世界があの変態の存在を認めちゃったってことなの?ありなの?バカなの?そうなの?だいぶ理解に苦しむけどあたしの知っていい領域じゃないし、迂闊なこと言って面倒に巻き込まれたら迷惑だから黙ってよう



「味はどうだい」

『はい、美味しいです。…すいません、あたしなんか場違いなのに…この紅茶を頂いたらすぐにあたしは帰りますんで、そこのピンクいヤツは煮るなり焼くなりどうぞご自由に扱って下さい』

「なに言ってやがンだ、名前チャンひとりじゃ心配で帰せねェよおれも一緒に帰るぜ」

『だれが喋っていいって言ったの、黙って』

「紅茶だって船に置いてあるヤツのほうが良い茶葉なんだぜ?そんな安モン飲む必要ねェ」

『平気でそういう失礼なこと言うなバカ…っておいこら』



テーブルから離れた場所で正座したままピーチク喚いていたと思えば、いつの間にか真後ろに立っていてあろうことかあたしが手にしていたティーカップを奪いやがった



『返して』

「そうだなァ、帰るか」

『確かにそっちの“かえして”も大事だけど違うからね。どこまでも都合の良い耳だね』

「そこそこ美味いメシ屋があるからそこ寄って帰ろうぜ」

『寄らないしアンタと一緒に帰る気はない。残って怒られてて』

「フッフッフ…名前チャン、帰り道知らねェだろ?」

『お前…誰のせいだと…つーか勝ち誇った顔すんなムカつく!』



確かにそうなのだ。怒りとこの場から早く立ち去りたい一心からあえて触れないでいたけど、寝てる間に拉致られたあたしは船の停泊場所どころかこの建物の出口すらわからない。正直、コイツと帰る以外に選べる選択肢は無かったりする。…ね、こういうとこもいちいちムカつくでしょ



「フッフッフッ…!というわけで、行こうか名前チャン」



鳥が猫背をさらに丸めて近付いてきて、椅子に座るあたしを抱きかかえようとする。…くそう…あーもう面倒くさいな…でも、とにかく今すぐ帰れるなら、諦めてコイツの成すがままでいようかな。考えることに疲れた。迫る鳥に遠い目を送り抵抗をやめたあたしだったが、抱えられるより先に椅子ごと反対側に引き寄せられた。これには鳥も驚いたらしい



「…あァ?」

『ひえっ!?』

「女、お困りならおれが送ってやろう」

『えっええぇ…?クロコダイル…さん…?』

「………はァ?」



あたしはどうやら椅子ごとクロコダイルさんの真横に引き寄せられたらしい。ええー…?いま椅子ふわって浮いたよね、ふわって。着地もすごい軽やかだったんだけど何コレ七武海クオリティ?それとも海賊イコールでっかくて怪力なの?この世界に来てから成人男性の平均身長に疑問しか湧かない。くまさんとかまさかマジで熊さんなんじゃないだろうな。ベポなんじゃないだろうな

ところで、ザ☆マフィアな悪どいお顔からこれまた悪どい笑みを造りながら言うクロコダイルさんは鳥をアウトオブ眼中にしてるようだ。いいですねその調子です

うん、というわけですので



『ご迷惑じゃなければ是非』

「クハハ、決まりだな」


マフィア…じゃなかった、海賊のくせに優雅な紳士みたいに手を差しのばして立ち上がらせてくれるクロコダイルさんにお礼を言う。それから他の方々にも挨拶をした。今度日を改めて菓子折でも送ろう。そしてあたしは、よく見たら固まったまま動かないでいる鳥の前を颯爽と通り過ぎた















珍しく呆けていたらしい鳥が喚き出す頃には、あたしとクロコダイルさんは建物から脱出を果たしていたのだった。ざまぁ




















並んで歩く後ろ姿がお似合いだなんて思ってないよ

(フッフッフッ…ワニ野郎…愉しませやがるぜ…!)(ドフラミンゴ、負け惜しみはいいから早く正座し直しな。説教はこれからだよ)(そりゃあ聞けねェよおつるさん、早く名前チャンを連れ戻さねェと怖がってるだろうからなァ)(笑って去って行ったように見えたのはおれだけか?)(いいや、おれも見たぞ)(…わしも見た)(ドフラミンゴ、さっさと正座せんか!)















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わざとなクロコダイルとそれに乗るヒロイン



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