ドフラミンゴトリップ
□ご飯ですよ
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※クロコダイル視点
「よう鰐野郎。ご馳走になるぜ、フッフッフ!」
『家畜同伴で本当にごめんなさい』
「……かまわねェ」
鳥野郎にがっちりと握られているのとは反対の手で、鳥野郎に正拳突きを喰らわした名前の虚ろな瞳を見れば他に返事の仕様がなかった
「名前チャン、膝の上こいよ」
『膝の皿砕いていいなら』
「椅子もっと寄せろよ」
『ちょ、やめて…ってちょ、なに太もも撫で擦ってんだコラ』
「フッフ、名前チャンの小声エロくてイイな」
『きめぇ。ていうかねアンタ声大きすぎ、場所考えて喋って』
「ンな畏まったレストラン、おれの趣味じゃねェ」
『なら帰って。そもそもアンタはお呼びじゃないからね。無理矢理ついてきたクセにうざ過ぎる…!』
「そうはいかねェなァ。名前チャンが鰐の餌になるのを止められるのはおれしかいねェだろ」
『アンタじゃあるまいしほんと失礼なこと言わないで』
しっとりと落ち着いた雰囲気を出す三ツ星レストランもこの男の存在ひとつで大衆食堂へと様変わりさせられる。ワインをボトルのまま飲みだした鳥野郎を見て、おれと名前が青筋を立てたのは同時だった
椅子の背にだらしなく身体を預けながら、隣に座る名前を(言葉でも身体でも)弄る鳥野郎はご機嫌そうでそれがおれの機嫌を著しく下げている。なぜこんな(声も見た目も)煩い野郎を正面に置いて飯を食わなきゃならねェんだ気分悪ィ
食事でも連れてってやる。昨日今日出会った相手にンなこと言うなんざ我ながら奇跡に近く思えた。だが、周囲を苛立たせるという一点では天才的な才能を持つ鳥野郎と24時間を共にしているらしい女…名前を前に、僅かながらに親近感と同情心が芽生えたのは避けては通れない自然現象みてェなモンだろう
ちなみにおれは、もとより興味の欠片も無かったが噂ならまあ聞いていた鳥野郎に定例会議で初めて会った時、ハンバーガーとポテトを持ち込んで食っていた野郎がおれのコートで脂ぎった指を拭った瞬間から殺したい対象トップ3の中に位置している
だから、食い方も存在も汚なくだらしねェこの野郎と向かい合っての食事など本来なら堪えられるはずがないのだ。そしてさらに今は、サングラスの奥の野郎の目がおれを見ているだろうことにも腹が立つ。汚ねェドヤ顔をおれに向けるんじゃねェ
「めんどくせェから手掴みで食っちまうか」
『はぁ!?船の中じゃないんだからそんな恥ずかしい真似やめてよ。一緒の席にいるあたし達の身にもなって』
「お坊っちゃんじゃねェんだからよ、ちまちまとナイフとフォークなんざ使ってらんねェ」
『なにその偏見うざい。………チッ…あーもう、お皿貸して、ほぐすから』
「あーんしてくれんのか」
『するか気持ち悪い。あとおっさんがあーんとか言うな、尚気持ち悪い』
「おれがしてやってもいいぜ」
『はい、ほぐしたからちゃんとフォーク使って食べて』
「つれねェなァ」
『ねえちょっと、肘付きながら食べないでみっともない』
「たいしたことねェ味」
『だから声大きいんだってば!しかもボロボロこぼしてるし!食べ方汚なすぎる。心に比例してるのそれ?』
「なんだよ、酒はワインしかねェのか」
『ねぇだからソース服についてる、ほんっとうに帰ったら覚えてろよ…!』
「フッフッフ…!」
眉を潜めイライラとした口調ながらも甲斐甲斐しく世話をし、今もナフキンで鳥野郎の服についたソースを拭き取る名前とご満悦でされるがままな鳥野郎。…極限にうぜェ。何がって、名前にかまわれるたびおれへとドヤ顔を向けてくるクソ野郎がだ
てめェそりゃ全部わざとだろうが。バレバレなんだよ鬱陶しい。かまわれてるんじゃねェ、かまわせてるんだろ、それで独占してるつもりか。どうでもいいがまずはその顔ヤメロ
「…枯らすぞ」
『えっ!?』
「おいおい、名前チャンの前で物騒なこと言ってくれんなァ」
「てめェにしか言ってねェよクソ鳥」
「フッフッフッ…嫉妬か?」
「あ゙ァ゙?」
「おれと名前チャンが仲良しだからって嫉妬してんだろ」
「ついにイカれ、」
『イカれたこと言わないで薄気味悪い』
………。おれの発言を遮っての全力拒否。…イイ目してやがる…。どうやら相当ストレスが溜まってきているらしい名前。まあそうだろう、野郎抜きで飯が食えることを心の底から楽しみにしていたはずなのに蓋を開けてみればこれだ。ペット…いや家畜とか言ってたか、そいつの餌やりで終わってしまいそうだなんてあり得ねェだろ
名前の怒気で些か自分の分が削がれた為、とにかくもう飯を食っちまうことにする。名前にゃ悪ィが早くこの場を去らせてもらう。…にしても、本当にめんどくせェ奴に気に入られたもんだぜ。不憫でならねェ
名前がなんだってこんなしょうもねェ野郎と居るのかはわからねェが、気に入られちまったが最後だということはわかる。本当に不憫でならねェ…が、悪ィな名前、鳥の分際でおれに噛み付きやがった代償はしっかり払ってもらわなきゃならねェんだ
「…チッ、てめェひとりでワイン空けやがって……おい、そこの。ワインを頼む」
「さっきのはイマイチだったからなァ、次はもっと良いもん頼むぜ」
「てめェは黙っとけ」
近くに居たウェイターにワインを注文する。クソ鳥のさえずりは放置だ。泥水でもすすってやがれ
「お待たせ致しました」
「あァ。注ぐのは自分でやるからいい、下がれ」
「はい畏まりました、失礼致します」
「名前」
『はい?』
「グラスを寄越せ、注いでやる」
『わ、ありがとうございます…あ、じゃあクロコダイルさんのはあたしが注ぎますよ』
「そうか」
ウェイターからボトルを取り下がらせ、自らの手で名前のグラスに注いでやる。自分もと言って名前がおれのグラスにワインを注ぎ、二人同時に味わう
「…まァこんなもんか」
『えー、飲みやすくて美味しいですよ』
「気に入ったか」
『はいすごく』
「今度これより美味いの飲ませてやる」
『本当に?』
「あァ」
『うわぁ、楽しみ』
「クハハ…期待してろ」
目を輝かせておれへと笑顔を向ける名前にひとつ笑みを落としてから、鳥野郎へ渾身のドヤ顔をくれてやった
「…!…フッフッフ…やってくれるぜ鰐野郎…!」
数分前までとは違う種類の笑みを張り付けた野郎が、手にしていた空ボトルを握り砕き名前を担いで店を出るまであと30秒
アニマル食事会
(クハハハ、おれの勝ちだ)(フフフッ…寝顔も見たこと無ェくせに調子づきやがって…!)
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船の中ならフルシカトだけどさすがに外ではそうもいかないヒロインとヒロインに笑顔を向けられたことのない鳥と大人げない鰐
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