ドフラミンゴトリップ

□久しぶりにふたり
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本ばかり読んでいる印象の強い名前だが、実のところ元の世界ではさほど読んではいなかった。本を読むこと自体はキライではなかったが1冊読み終えるまでに使う時間を考えると、なかなか手を出せないでいたのだ。元の世界では当然、働く現代人だったのでのんびり本を読む暇があればその時間は他の用事に当てていた為である

それがこちらに来てからは正直、本を読む以外に時間を潰す作業が無い。クルーに混ざり船内掃除や洗濯をしてもまだ余り有る時間。ちょっとそこまで、だなんて気軽にお出掛けも出来ない状況。クルーとのお喋りは好きだが彼らにはやるべき仕事がいろいろあるし、何より割って入ってくるどこかの桃鳥が鬱陶しかった。それはもう堪らなく

だから本を読み漁るようになった。面白い本はごまんとあるので飽きることはないが、やはり他の何かをしてみたくもなる。そんな矢先に、気分で行なったとある作業に最近ハマりつつある。料理だ。鷹の目お墨付きの料理だ。しかしその新たな趣味候補は名前の中で早くも打ち止めされかけていた。理由はいつも通りである



『…何してんの』

「お手伝いだ」



昼前、お菓子ではなく昼食を作ろうと名前はキッチンに向かう。作るときは必ずクルー全員分を作るため、ほとんどの場合はコックやお手伝いをするクルーが居る。が、キッチンに入ってみると居たのはトレードマークの羽毛を脱ぎ捨てエプロン(そこはしっかりピンク)を身に付け仁王立ちしているドフラミンゴだけだった



『……他の子は』

「追い出した」

『なにしてくれてんの』

「おれも名前チャンと共同作業がしてェ」

『言い方が不愉快なんですけど』

「今日はなに作るんだ?まァ名前チャンの作るもんはなんだってうめェがな」

『なら鶏皮の素揚げでも作ろうか』



ギラリと包丁を手に持つ名前の眼は完全に狩人のそれである。しかしそんな脅し(で済むかどうかは定かではない)が通じる相手ではないことくらい、今さら考えるまでもない。それに、キッチンでいつまでもドフラミンゴを相手にしていてはクルー全員が昼食を食べ損ねてしまうのだ。名前は深呼吸にも似た溜め息を吐いて早々に折れることになった



『あんた料理出来るの?』

「女なら」

『出てけ食材が腐る』

「フッフッフ、冗談だ。いやウソじゃねェがな」

『聞いてないしどうでもいい。てゆうかそんな気はしてたけど、料理出来ないとか邪魔くさいだけなんだけど』

「名前チャンが教えてくれりゃいい」

『そんなことしてたらお昼終わるわ』

「いいじゃねェか」

『いいわけあるか。…はぁ、じゃあ野菜の皮剥いて。簡単にチャーハンと野菜スープ作るから』

「名前チャンは何すんだ」

『まずスープ作る』

「おれもそれがいい」

『は?あんたスープの味付け出来るの?』

「教えろよ」

『時間ないって言ってんの聞いてなかった?』

「なら一緒に野菜の皮剥こうぜ」

『いやひとりで剥けよ。なにそのお誘い』



手渡されたピーラーを弄びながら、鍋に水を入れコンロの前に立った名前の隣に擦り寄るドフラミンゴの奇行とウザ発言を、名前は当然ながら冷たくあしらう。ドフラミンゴが皮剥きをしている間にスープのベースを作りチャーハン用に卵を溶いてお皿を準備してそれから剥かれた野菜を切って。ほぼひとりで料理しなければならない名前は忙しかった。やることが山積みだ。それを隣のデカ物はなんだってんだ



『ねえなにも出来ないなら出てって誰か代わりの人連れてきてよ』

「ムリだ」

『じゃあ早く剥け』

「一緒にやろうぜ」

『だからなんなのそのお誘い。あたし他にやることあるんだってば』

「じゃあおれもそれやる」

『チッ!…わかったじゃあ溶き卵作っといて。野菜はあたしが剥くから』

「ア?なんで」

『なんでってあんたがやらないからでしょうが』

「名前チャンがやるならおれもやる」

『だからっ!』



ガンッ!とシンクを叩き過去にこいつと会話が成立したのは何回あるだろうかとこめかみをピクピクさせる名前に素知らぬ顔を決め込み尚も貼り付くドフラミンゴ

名前がキッチンに入って20分、行なった作業と言えば水の入った鍋に火をかけお湯にしただけだ。ゆとりも大概にしろ。たったそれだけの作業になぜ20分も使わなければならないのか。なぜそれだけの作業の中でこんなにもストレスが生まれるのか



『もーうざい!ちょっともう!誰かこいつ連れ出して!!』

「フッフッ、ンなこと出来るヤツが居るはずねェなァ」

『船長辞めちまえ!』



名前は気づいていないが扉の向こうではいつの間にか、コックと手空きのクルーが数人ハラハラと聞き耳を立てている。それにしっかりと気づいているドフラミンゴはサングラス越しに扉を一瞥し牽制した。ハラハラがあっという間にブルブルに変わる。皆がみな名前を助けることが出来なくなくなった瞬間だ

入ったら剥かれる…!ピーラーを持ち笑う我らが船長を想像し、心の中で名前に謝った。彼らに出来るのは、一刻も早く名前がドフラミンゴの行動の意図に気づくよう念じるだけなのだ



「お、ピーラーもうひとつあったぜ」

『お誘いがしつこい!どんだけ!?野菜剥くくらい教えなくても出来るでしょうが!てゆーかそれすらひとりで出来ないならキッチン来んな!なんで来た!』

「名前チャンのお手伝いだって言ったじゃねェか」

『まだそんなこと言えるとはね…!』

「早くしようぜ、時間無ェんだろ」

『おま…!……チッ…………もういい、わかった。ピーラー一個ちょうだい…』

「フフフフッ、あァ」



例えばこれが自分の為だけに作る料理なら名前はご飯なんかもういらないと叫んでキッチンを出ただろう。しかし、船に乗る全員の分を作らなければならないのだ。今日の昼食は自分が作ると(扉の向こうでいつでも交代出来るよう構えてる)コックに言ってしまってるのだ。他のクルーもお腹を空かせて(扉の向こうでオロオロしながら)待ってるのだ

今さら自分勝手に投げ出すわけにはいかないと、青筋を増やしつつもやっぱり折れた名前を隣に並べ念願だった一緒に野菜剥きを始めるドフラミンゴは最終的にこうなることを予想していたに違いない。それが簡単に想像つくことにまた苛立ちを覚えつつ、名前は高速で黙々と皮剥きをする



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