ドフラミンゴトリップ

□ガチギレヒロイン
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こんにちは、ドフラミンゴさんの船でコックやってますストークです

ウチはそんなに人数が多い船ではないからこれまで食事の支度はおれ一人ですべてやってきてたわけですが、名前さんが船に乗ってからは名前さんが手伝ってくれたり、時には全部作ってくれたりとかなり助かってます。多くはないと言っても一人一人の食事量がハンパじゃないのでキッチンは常にフル稼働状態

なかなかゆっくり休めなかったりもしてたので適度に休める今が素晴らしい。しかも名前さんは女性らしく甘い物が好きだし可愛らしい物も好きなので、お菓子作りには気合いの入り方が違う。タルト生地をハート型にしてみたりシンプルな生クリームケーキに色とりどりのマカロンを飾り付けてみたりと、味だけではなく見た目もこだわる。甘いもんなんてパンケーキでも出しておけばみんな喜んで食ってたから、こうやってスイーツをこだわって作る今は楽しくてしょうがない

最近では“キャラ弁”と言うものを教わり、二人で作るのにハマっていて食材でクルーの顔を作っては完成度の高さに手を取り合って喜んだりもしています。ウチのヤツらって身なりはわりと気を遣ってるからそういった部分には敏感だけど、食事に関しては旨けりゃいいってとこがあるから今がほんっっとうに楽しくてしょうがない…!

まあ、巨大なピンクの塊…もといドフラミンゴさんが必ず付属としてついてくるのにはなんとも言えない気持ちにさせられますが。余談を言えば名前さんの居ないとこでおれにこっそり名前さんのキャラ弁を作るよう注文してくるのにも、なんとも言えない気持ちにさせられる。そしてこっそり作らせたはずのソレを名前さんの前でわざとらしく旨い旨いと言いながら食べる痛ましさを披露してくれるのにはもう……

それ以外のときは調理してる名前さんの背後におとなしく佇むドフラミンゴさんですが(それも巨大な背後霊みたいで少しこわい)、口だけはひたすら忙しなく動いているので名前さんの苛立ちが頂点に達してキッチンを追い出されることもしばしば。そう言うわけで名前さんがキッチンを頻繁に出入りするようになって、名前さんとドフラミンゴさんと間近で過ごすのはおれが一番長くなりました

二人セットのとき(ほぼそうだが)は、用事があるとき以外は遠巻きで眺めることのほうが多いおれ達だったのでおれは他のヤツらにけっこう羨ましがられています。役得。そんな二人を間近で見られるようになって改めて考えてしまうのはドフラミンゴさんの鬱陶しさについてだ

自分とこのトップに対してなんつーことを思うんだ、と自己嫌悪しなくもないがそれも微々たるものだ。遠巻きに見ていても気づいていたが至近距離で見ると確信せざるを得ない。だって本当に常に名前さんを構い倒している

名前さんが来る前からテンションの上がったドフラミンゴさんは鬱陶しいよなとみんなで話してたこともある。だって突然、サー・クロコダイルの顔の傷は何針縫ってあると思う?とか全員に聞いてまわられたらそりゃ鬱陶しいと思っても仕方ないでしょう。知らんがな。それ以前に興味が湧かないです。なのに真面目に答えないと機嫌悪くして、鷹の目の帽子に付いてる羽むしってこなきゃ殺すとか言い出す始末。いや鷹の目のとこ行ったって死んじゃうんですけど

そんなかんじで、この船に居る限り慣れるしかないドフラミンゴさんからの不条理に鬱陶しさが生まれるおれ達。しかし名前さんに対するドフラミンゴさんの鬱陶しさは桁違いだった

話題に困らない人だから黙るということを知らないようだ。そして名前さんをよく見ている。髪型や服装などのおれ達でも気がつく部分は当然のこと、メイクが違う香水変えたネイル可愛いに続き挙げ句は肌荒れしてるニキビできた手にささくれがある足がむくんでる云々……

しかもそこにいちいち自分の好みや感想を交えてくる。アイシャドウの色は前のほうが良いだの夜更かししたからニキビが出来るだの。これは名前さんも氷の化身になる。構われすぎたペットがノイローゼになったり思春期の子供が口煩い親に反抗する気持ちが今ならよくわかる

そしてそんな鬱陶しいドフラミンゴさんをいなしたり怒ったり無視したりしながらも切り捨てないでいる名前さんは本当に尊敬する。昔偶然見つけたバラティエとかいう海上レストランで食った飯が上手くてここのシェフすげえなと密かに尊敬したことがあったが、その比ではない。崇め奉るレベルでの尊敬だ。名前さんはすごい















だがついに来てしまったのだ、この日が。いつかは来るだろうなと予感は抱いていたがそれがまさか今、ここでおれの目の前でとは不意打ちもいいところだ



「…名前……?」

『……』



初めて聴いたかもしれない超貴重なドフラミンゴさんの若干焦った声音に驚いてる暇は無い。おれは無言を貫く名前さんを息を止めて見つめるので精一杯だった。昼過ぎにドフラミンゴさんを引き連れてキッチンに現れた名前さん(なんて口が裂けても本人には言えないが)。キッチンに常備されてる料理本(デコスイーツ特集)を手に取りページを捲る。おれが卵が大量にあると告げれば、じゃあ今日はプリンかなと名前さんは冷蔵庫から卵を取り出す

プリンか。生クリームを乗せてもいいしソースをいくつか作るのもいいなと、おれもプリンについて考えながら名前さんとその後ろに貼り付くドフラミンゴさんを眺めてた(実際はドフラミンゴさんの背しか見えない)。ドフラミンゴさんが黙ってるおかげで和やかな空気が流れていると思ったのに。海賊なんかにゃ和やかな空気は要らねェと言わんばかりにドフラミンゴさんがキッチンの空気をぶち壊したのだ

その瞬間、手にしていた卵をぐしゃりと潰した名前さんにおれは血の気が引いた。そしてその状態のまま無言を貫くものだから、ドフラミンゴさんも流石に気になったらしい。そうして、呼び掛けにも無視を決め込む名前さんの肩にドフラミンゴさんが手をかけようとしたがパシュンッ!と風を切るかのごとく素早く厳しく乾いた音を持ってして拒絶されていた

ドフラミンゴさんの手を叩き落とした名前さんはやはり無言でキッチンを後にする。ドフラミンゴさんは突然の名前さんの今までにない本気のキレっぷりに茫然と立ち尽くしている。…おれコレ、正気に戻ったドフラミンゴさんに八つ当たりで殺されないだろうか。イヤだ、早く出よう



「…でもドフラミンゴさん、不用意にあんなこと言ったらダメだわ」



小声で言ってからおれは急ぎ足でキッチンを出た















――名前ちゃん最近太ったよなァ。特に顔と腹。ほっぺたは柔らかくて気持ちいいし次は冬島だから脂肪蓄えんのもまァ悪かねェけどよ

この日から五日間、ドフラミンゴさんは名前さんから完全空気扱いを受けることになる




















口は災いのもと



(えっ名前さん食堂で寝る気ですか?ドフラミンゴさんは、)(は?ダレそいつ)(……なんでもアリマセン)















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普段からイライラさせられる人に図星つかれるとうっかりキレちゃうよねって話

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