ドフラミンゴトリップ

□そしてよくある展開へ
1ページ/1ページ


『寒い…』

上着も持たずに店を飛び出した名前は今、ローの船に向かうべくロー一味らと共に雪降る街を闊歩していた



「名前大丈夫?顔色が良くないよ」

『ん、ありがとうベポ大丈夫……でもあとどれくらいで船に着くかな…?』

「うーん、あと30分くらいかなァ」

『さ、30分……そ、そう…』



真冬の空の下を上着も着ずにあと30分も歩くのは、なんの鍛錬もしていない一般人(しかも異世界での一般人)の名前からしてみたらかなりの苦行だった。カッとなって飛び出してきたはいいけれど、ジェイの言うように確かに自分にしては随分とワガママな行ないだったと思う

寒さにより、肉体的にも精神的にも冷えて落ち着いてきた名前は店に取り残されたジェイ達を思い居た堪れない気持ちになる。ドフラミンゴの様子は頭の隅にもよぎらない。今頃、彼らは残念な船長の八つ当たりの的になっているのかもしれないと思うと胸が痛む。当の船長が息をしていない事など知らないし、知っても心が踊るだけだが



『…みんなに悪いからやっぱり戻ろうかな……』

「エッ!名前帰っちゃうのか!?」

『いや、うーん……だよねえ…せっかくベポに会えたんだもんねえ』

「おれもう少し名前と居たい!」

『ベポはほんとに良い子だなぁ…!』

「だめ?」

『全然だめじゃないよ!なんだかんだウチもログ溜まるまでこの島に居るだろうし』

「なら今夜はハートの海賊団の船に泊まりなよ!」

『えっ!いいの?』

「いいよねキャプテン!」

「お前らナチュラルにイチャつくのをヤメロ」



ハートの海賊団全員の思いをローがツッコミに乗せた。皆一斉に頷く。名前とベポの周りだけ空気の色が違う。完全にバカップルのそれだ。ドフラミンゴが聞いていたらベポは間違いなく死んでいる

それでも、まァ泊まる事に関してはかまわねェよ、と呆れ声で続けたローはきっと面倒見が良いのだろう。ローは、喜ぶベポの隣で申し訳なさそうにしつつも嬉しそうに感謝の意を述べる名前を観察する。ジェイの口ぶりとドフラミンゴの態度。それらを照らし合わせることで浮かび上がるドフラミンゴと名前の関係は、1度はベポが考え出したものと同じに行き着くがそれを否定する時の名前の心底死にたそうな表情を思い出せば、あっ違う、と思い至る

ではなぜ彼女はそこまで嫌だと思う相手と行動を共にしているのだろうか。しかも船上と言う逃げ場の無い場所で。答えは名前が完全無意味にトリップしその行き先が一切理由無くドンキホーテ・ドフラミンゴのベッドだったからだ。つまり、謎。もはや本人達にもわからない。しいて言うなら魔法の言葉、ギャグだから。これが全てである。トラファルガー・ローには永遠に迷宮入りとなるだろう



『ところで…ずっと気になってたんだけど、ローくん達はアイツとどんな関係なの?まさか友達?』



まさか、とはどう言った意味合いだ。友達と口にしたとき一瞬だけ引いた顔になったのをローは見逃さなかった



「…友達では無ェ」

『そうなの』

「…あァ」



否定した途端パッと顔色を良くした名前に、自分の答えが正解と知る。いや、例え万が一にもローが友達を公言したとしてもこれまでの流れを考えれば名前がローを拒む事は無い。多少、心の距離が出来る程度だ



『でも友達じゃないのによくあんなのに付き合ってられるね、大丈夫?』

「それはおれを労ってんのか鼻で笑ってんのかどっちだ」




どちらとも取れそうな名前の“大丈夫?”にすかさずローは突っ込む。ローと言う人物はツッコミ気質らしい。ドフラミンゴの事となると思考が偏る名前の発言は、ローのツッコミの切れ味を良くしている



『え?ちがうちがう、純粋に、大変な思いしてきたんだろうなぁって思っただけだよ』

「それは……まァな…」

『それなのになんで…』

「いやそんな同情めいた顔してやがるがそれはお前にも言えることだからな」

『あたしは……ほらしょうがないから』

「ほう…」

『他に行く所無いしね』

「……そうか」

『なんだかんだそれなりにやってる自覚あるし』

「……」

『でもローくんはちがうじゃん?常に一緒に居なきゃいけないわけでもないんだからさ、縁切れば?』

「お前大胆だな」

『もしお世話になってたとしても、それ以上にくたばれとか思うことのほうが多いしょ?』

「それはほぼお前の気持ちじゃねェか」

『なに、普段顔合わせない人でもローくん気まずくなるのムリ系?言いにくいならあたしが言ってあげようか?』

「そーゆーノリじゃねェだろ」

『うーん…』

「そんなお手軽に済むならいまごろあの男は孤立無縁だ」

『ああ……』

「な」

『だねー…』

「がっかりしすぎだろ…」

『…や、そんなことないけど…。…なんかやっぱりアイツってそれなりの立場持ってるんだって改めて思ったら気分が…』

「……ドフラミンゴの実力は本物だぞ」

『だれかひねり潰してくれないかな』

「お前相当ストレス溜まってるな」

『そうかも……。…心が荒んでるみたいでイヤだな…』

「……」

『あ、ありがとうございます…』



心が荒んでると言った名前の背を無言でさすったのはジャンバールだった。大きくてゴツイ手がひどく優しくて名前の心に染みた。少しして手を離したジャンバールはおもむろに口を開く



「…どんなゲスい野郎にも、ずっと見ていればひとつくらい良いところもあるだろう」

『……………だといいですね…』

「まァ、なんだ……そう気を落とすな」

『…はい、ありがとうございます』



名前は知らないが、ジャンバールはドフラミンゴのヒューマンショップに売られていた元奴隷だ。ヒューマンショップ自体がそもそも非人道的ではあるが、そこに売られたおかげでジャンバールは奴隷を止め再び海賊として海原へ出ることが出来たのだ、超間接的とは言えドフラミンゴに救われたっちゃあ救われた人物でもある。その為、借りを返すではないが一応ドフラミンゴを庇ってみたのだが、果たして名前に響いただろうか



『ハア…。ところで、そろそろ船に着くかな?』

「あァ。見ろ、アレだ」



手に息を吐きガタガタ震えながら問う名前にローがアゴを使って奥に見える船を指す。ちなみに、名前が上着無しで外に飛び出し寒がっているのを見かねたローが自身のコートを差し出そうとしたが、脱げば薄手のヨレヨレパーカー1枚だったので名前が丁重にお断りした。目の下にクマを作りパッと見はどうみても自分より不健康なローから上着を剥ぐ気持ちにはなれなかった

そして他のクルーはもれなくつなぎなので、皆名前を心配しつつもどうにもならないまま船へと到着したのだ。決して、ハートの海賊団が男としての気が利かないわけではない



『わー…。潜水艇なんだ…!』

「あァ。珍しいだろう」

『うん、初めて見た』

「カッコイイだろー!」

『うん、カッコイイ』



得意気に言うベポとドヤ顔するクルー達に潜水艇の中へと促される名前。無人だった船の中は暖かいとは言い難いが、外に比べれば寒さはだいぶ和らぐ



『おじゃまします。……あー、やっと建物の中に入った…』

「すぐに暖めてやるからあと少し待ってろ」

『ありがとう、気を遣わせてごめん』



おれお湯沸かすわ、とペンギンが足早にキッチンへ向かいそのあとを追うように皆で歩く。ベポは名前の寝床の話で盛り上がっている。やはり、と言うか何と言うか、名前の寝床はベポの部屋になりそうだ。女子のお泊り会か、と素早くローが突っ込むものの異論は無い。ドフラミンゴが居ないこの場所ではなんら問題無いことである




『…あったまるー』




そうしてようやく食堂に集まり温かい飲み物と共に落ち着くことが出来た。ミルクと砂糖をたっぷり入れたペンギン特製ミルクティーが冷えた身体を温める

統一されたクルー達の服の色を見て、ウチではみんながみんなファッションテロを起こしているのにこちらは随分と微笑ましい、だなんて考えもしたが、やはり海賊。パッと見は愛嬌すら感じさせるつなぎを着ていても、その手に握られているのはもれなく酒瓶で、名前からすると考えられない量の酒をハイペースで飲んでいる。ベポでさえ酒を飲むほどだ。たぶん海賊とは年齢や性別、はたまた種族までも関係無くどこもこんなものなのだろうな、と名前は思う。その通りだ

芯まで冷えた身体を温めるのに酒の力を借りる気にはなれない名前は、ミルクティーで満足だった。わいわいと騒ぎ出す中、ローが名前の隣に座る。手にはやはり酒瓶がある。こんなに顔色が悪いのに



「だいぶあったまったみてェだな」

『うんありがとう、生き返った』

「これからメシの続きもするみてェだがお前も食うか」

『え、うーん…あたしはもう充分かな』

「そうか。まァ食いたくなったらてきとうに食え」

『ありがと。…てか、お店でちゃんと食べれなかったのってあたしのせいだよね…ほんとゴメン』

「お前のせいでも無ェ、どっちみち早めに席を立って違う店で呑み直すつもりだったからな」

『そう…?』

「アァ。それより、今さらだがお前は本当におれ達について来ちまってよかったのか」

『………うん、まあ…たぶん…』

「…ほんとかよ」

『うーん…………、…………』

「…?オイ」

『あー…ごめん、なんか疲れたのかなぁ。頭働かないわー…』

「お前それ…」

『ん?』

「風邪ひいたんじゃねェのか」

『またまたー、そんなベタな…』



そんなことない、と返す名前の表情と仕草はドフラミンゴ達と食事をしていた時に比べて弱々しく感じる。単純に歩き疲れたにしては随分と辛そうだ。虚ろな眼差しは酒に酔っているものとは違った色をしている。知り合いたてとは言えローは医者だ、見抜けないはずがない

トリップ先の主人を置いてのこの展開



「顔色悪ィぞ」

『ローくんには負けますわー』

「ほっとけ。…つーか、身体ダリィんじゃねェのか」

『…多少、ね…。や、歩き疲れただけなんじゃないかな。寝たら治るよ』

「診察してやる」

『え?や、いいよ。もしもマジで風邪だったら困る…』

「ア?なにが困るだ。薬飲んで寝てりゃいい」

『あたし熱出すと長引く派なんだよー…』

「なら余計にさっさと診察して横になるべきだろ」

『…やだな』

「ワガママ言うな、ガキか」

『いやいやだってさあ、こんなのアイツに知られたら…』

「アイツ?…アァ、ドフラミンゴか」

『動けないのを良いことに何をしてくるかわかったもんじゃない…!』

「いやさすがにそこまでのクソ野郎じゃ……無くもねェが…」

『でしょう!?』

「つーかお前動けないほどダリィのか」

『えっ』

「たったいま言ったろ」

『あー……』

「観念しろ。おれの上着を拒んだお前の自業自得だ」

『…どう見てもローくんのほうが病気持ちに見えるから…』

「失礼なやつだな。人を見た目で判断するんじゃねェ」

『ごめん…ローくんだって伊達に海賊船の船長やってないね…』

「アァ」

『……ごめんローくん』

「なんだ」

『あたし熱あるわこれ』

「バカヤロウ」



こうしてサラリとよくあるヒロイン風邪っぴきターンへと突入するのであった























王道イベントは回避不可



(ベポ!手伝え)(えっ、えっ!?名前!?)(熱出しやがった)(顔色悪っ!キャプテンより悪いよ!)(え…それあたし死ぬの…)(そんな!名前!)(テメェら切り刻むぞ)















ーーーーー

これぞ王道



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ