ドフラミンゴトリップ
□注※ただの風邪です
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ハートの海賊団の船の中、医療室にて
『…ローくんごめんね、ありがとう…』
「いちいち気にするようなことじゃねェ。それより具合はどうだ」
『正直かなりダルい…』
「熱が高いからな。まァただの風邪だ、しっかり休めばすぐに良くなる」
身体がずっしりと重くて節々が痛い。体の芯が冷えている気がするのになぜか体温が高い。ローくんの診断がなくてもわかる、明らかに風邪の症状。この世界に来てからは初めてひいた。原因は間違いなく真冬に上着も着ないでほっつき歩いてたからだ
まあもしかしたら、これまでの精神疲労が蓄積されてたのも少しは影響してるのかもしれないけど。と言うか、考えてみたら今日まで倒れなかったのが奇跡なんじゃないか…。よく胃とか傷めなかったなあたし…いや、痛くないわけではなかったはずだ。無意識のうちに胃をさすってた事だってあるはずだ
どのみち近いうちに倒れてたんじゃないかコレは。すでに2、3回倒れてたほうが健全だったかもしれないような毎日なのに、今日が初めてとかあたし凄い。そして倒れるならいま倒れて良かった。ここはローくんの船であの鳥はいない。ゆっくりしっかり療養に集中出来る。この船に居るうちに是非とも完全回復したいのだけど…
『あたし…風邪とかわりと長引くほうなんだよね…』
「さっきも言ってたな。お前身体が弱いのか」
『いや、そんなことは無いと思うけど1度ダウンしちゃうとね…』
「そうか…。なら熱の引きも遅いかもな」
『頓服薬とかないかな?』
「ついさっき飲んだ薬がそうだ」
『あ、そうなんだ…。じゃああとは汗かいて熱引かすしかないか…』
「やっぱり汗かくと楽になれるか?」
『うーん…まあ、汗かいてるときはすごい体ダルくなるけどね、治る早さは多少は違うかな』
「そうか」
『うん』
「……」
『……』
「…布団、足してやる」
『え?いや、ありがとうでも、』
「たくさん汗かいたほうがいいだろ」
『うん、まあ…』
「よし」
そう言って部屋を出て布団を取りに行ってくれるローくんの背を見送って、深い深呼吸のあと目を閉じた。あたしに掛けられている布団はふかふかで素材が良さそうなもので、わざわざ気を遣ってもらわなくてもコレだけで充分な気もするんだけど、医者をうたうローくんが必要だと言うなら従おう。それにしてもダルいな…。そう言えば熱を計ってない。触診してくれた結果が風邪だそうだから、風邪に間違いはないだろうけど熱が何度出てるかによっては寝込む日数が変わってくる。微熱程度なら2日もあれば治りそうだけど、ダルさ具合からすると高そうだな。4日5日かかったらイヤだ。というか、世界が変わっても風邪菌は同じなの?あたしの体でもちゃんと免疫付いてるの?免疫無くて治らないとかないよね…?
なんか考えはじめたら怖くなってきた…。や、薬がちゃんと効くなら大丈夫かな。飲んだばっかりだからまだ効いてこないだけで、寝て起きたら楽になってることを祈る
「持ってきたぞ」
『あ、ありが……えっ』
「掛けるぞ」
『いや待ってちょっと…重っ!』
どうだあったけェだろとドヤって見せるが、あたし待てって言ったよね。どこからともなく戻ってきたローくんは厚みのあるしっかりした掛け布団を何枚も積み上げて持ってきた。そしてそれを全部寝てるあたしに被せはじめた。いやおかしいでしょ
『……ナニコレ』
「清潔なやつはそれだけしかなったんだ」
『いやそうじゃない、足りないアピールじゃないから。あたしコレどうやっても寝返りうてないんだけど』
「寒気あるんだろ」
『あるけど今は心配するより会話して』
「なんだよ、あったまらねェと汗出ねェだろ」
『最初の一枚だけで充分だよ、それかせめてあと一枚追加してくれたらそれでいいって。ただでさえしんどいのに重さでますますダルくなるから…』
「そんなもんなのか。一気にあっためりゃ汗噴き出て治り早くなるんじゃねェのか」
『えっそうなの?』
「いやなにも考えずに言っただけだ」
『完治したらその隈白く塗りつぶそうか?』
「まァ待て悪い、悪かった。違うんだ、実はな…風邪ひいたヤツ初めて見たんだ」
『………ローくん…そんな無理しないで…』
「哀れんでんじゃねェよ」
下手くそな冗談は痛いからやめたほうがいいと思って指摘したのに、聞けば本気で言ってるらしい。風邪ひいたヤツ見たことない?…なに言ってんだこいつ。こわいなと引いてみたらローくんにすごく怒られた。本当に本気で見たことない説明を受けた。ローくんの言い分によると、自分を含めクルー達はみんな外傷こそ日常茶飯事だけど、基本的に風邪などの内科的な病にはかかったことがないそうだ。だから知識としてしか知らない“風邪”を生で見れて興味津々らしい
いやだからさ待って、よく考えてみて?そんなことってあり得る?何年この船でみんなが海賊やってるのか知らないけど、その間にただのひとりも風邪ひいたことがないって?やだもうなにこの世界、意味わかんない。え?この世界ではそもそも風邪自体が珍しいの?世の中で一番オーソドックスな病気だと思ってたあたしの常識がおかしいの?この世界では難しい病気だったりするとか?なにそれあたし死ぬの?いくら海賊とは言え不健康の塊みたいな見た目のローくんですら風邪にかかったことないなんて、あたし死ぬの?
そんなこと思うと輪をかけて具合が悪くなってきた…。それにさっきから普通に受け答えしてるけど、実際かなりキツイ。今すぐにでも眠ってしまいたい。喋る作業が苦痛に感じる。それをなのにあたしをゆっくり休ませてくれないローくんは医者として患者への配慮が無さ過ぎてどうかと思う。自分が風邪にかかったことないからイマイチ辛さがわからないのかもしれない
「ちなみにおれの専門は外科だ」
『いまそーゆーこと言うのも含めてほんとに配慮無いって』
不安を煽るんじゃない
「心配すんな、本で読んでるから知識はしっかりある」
『……』
「触診した感じだと喉風邪だな。喉、いてェだろ?いまはあまり変わらねェがそのうち声が枯れるかもな」
『……』
「なんだってドフラミンゴの船に乗ってるかは聞かねェが、お前みてェなヤツがあの男と居るなんてな。どうせ振り回されてるんだろ?こんないきなりくたばるなんて、精神的に疲れてたのもあるんじゃねェか」
『……』
「おい、寝たのか?」
『……』
「おい返事しろ、寝たのか?」
『…寝てないけど寝たい気持ちでいっぱいかな』
「なんだよ、寝るならそう言え。こっちが心配になるだろうが」
『……』
た、溜息吐いたなコノヤロウ…。心配されてるのに腹が立つのはなんでだろう。て言うかこの人よく喋るな。普通さ、寝たのか聞いて返事なかったら寝たと思わない?しつこく返事求めるのはおかしいでしょ。仮に寝てても起こされてるだろ。しかも喉風邪って言っておきながら会話させようとするとか鬼か。あとベッドサイドに椅子持ってきて座ってるのはなぜ?まさかずっと居座る気?
それは本当にやめてほしい。具合悪いだけでもヒドイ顔になってるのに、寝てる姿見られるとか絶対イヤ。お世話になってるのは承知だけどあたしだって女だから。ローくんは男としての配慮も足りてないようだ。寝るから付き添ってくれなくても大丈夫だよと言おうとしたら、ノックの音と同時に扉が開いた。なんだろう、この世界においてのノックの意義って
「名前!キャプテン!氷枕持ってきたよ」
ベポか。許そう
「おう。言った通りに作ったか」
「アイアイ!ジャンバールに氷詰めすぎって言われたから少し減らしたけど」
「そうか。名前、頭上げろ」
『うん、ありがとうベポ。ジャンバールさんにもよろしく』
「苦しくない?早く治るといいな!」
ベポはもちろん、この船の人達はみんな優しい。例えいまはまだ全身に悪寒が走っていて頭部を冷やしてる場合じゃなくても、心遣いが嬉しいので黙ってる。寝てるうちに熱くなるだろうし、その頃にはきっと調度良いはず。これでもう万全だ、よし出てってもらおう
「キャプテン、名前は熱どれくらいある?」
「そういや計ってなかったな。ベポ、そこの引き出しに体温計あるから取ってくれ」
「アイアイ!これだね」
「おう」
『……』
体温計と共になぜか椅子まで引っ張ってきたベポ。…あれ?ローくんはもう座ってるけどな。ああなるほど、自分が座るのかそっかそっかいつまで居るつもりかな?おいこらローくん、勝手に布団めくって脇に体温計突っ込もうとしないで。医者だし下心を感じないからセクハラとは言わないけどあんた手、冷たすぎ。鳥肌止まらないからやめてお願いだから。なんだろう、横になってるのに目眩がする。いよいよ声を出すのもダルいあたしは、気を失うように寝てしまったらしい。だからふたりがあたしの体温が40℃あって慌てふためく様子も知らなければ、そのせいで心配したクルーがひっきりなしに部屋にやって来たことも知らない
その後、あたしを引き取りに来たジェイくん達が寝込んでいるあたしを見て悲鳴を上げたのはさすがに気づいた
ただの風邪だって言ってんじゃん
(ロー!名前さん大丈夫なんだろうな!?)(命に別状は無ェ)(もし名前さんに何かありゃドフラミンゴさん心中しかねねェぞ)(……それはそれで)
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ベポは無罪