ドフラミンゴトリップ

□心の風邪はひきたくないね
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体調なんて悪くするものじゃない。名前は今回の件で嫌というほど痛感した

「はい、あーん」
『……』
「なんだ…?食欲無ェのか?熱はもう下がったらしいが、もしかしたら熱以外に何か悪い症状が残ってンじゃないだろうな?ちょっと待ってろ、すぐにローを呼んでやる」
『いやいいから待って、大丈夫だから。呼ばなくていい、やめて』
「飯、食えねェんだろう?きっと身体がおかしくなってる」
『違う、違うから。食欲無いだけ』
「食わねェとダメだ。いつまでも治らねェ」
こいつに正論で諭されるともの凄く理不尽な苛立ちが沸く。名前はそう思いつつも、滅多にお目にかかれないピンクの塊の真剣な表情を無碍には出来なくて困っていた






緩やかに浮上する意識と共にうっすら目を開けた。頭がぼんやりしていて意味も無く無性にイライラする。これは寝起きの悪い名前の常だ。どれだけ気分良く眠りに入っても、目覚めるときにはどうしてもイライラとするのは子供の頃からで、直そうと試みても湧き上がる苛立ちはどうにもできずに大人になった。何かストレスでも抱えているのかと悩んだ時期もあったが、これはもはや体質なのだと思うことで解決した。ただ、起きてしばらくジッと静かにしていればそれだけでイライラは消えていくので、目が覚めたら誰も来ない場所でひとりジッとすることにしていた。それが無理なら、人より早くに起きて対処する。風邪に倒れローの船に寝かされていた名前は頭痛と気だるさの中、いつもと同じく寝起きが悪かった。見方を変えれば、いつもと同じと言う事は調子が回復してきたと言う事だ。近くに人の気配を感じつつも、目を閉じたままジッとイライラが消え去るのを待った。ようやく落ち着いて静かに目を開ければ、待ってましたと言わんばかりに声をかけられる。誰か、なんて言うまでもない。具合はどうだ寒くないか痛いところは無いか腹は減ってないかずっと寝てたんだぞ。起き抜けに、止まらない言葉のシャワーを浴びせられさっそく辟易した名前だが、こちらが起きていることに気づきつつも黙って待っていてくれたことを思えば悪い気にはならない。そういった気遣いが出来る人間だと思っていなかったからだ。とりあえず返事だけでもと口を開きかけた…が、それさえも押し退けてドフラミンゴが言った言葉に驚いた

もう起きねェのかとか、考えた。そのしおらしく、しょんぼりした言い方と態度にただ驚いた。…え?ただの風邪でしょう?熱が出てベッドに寝かされてから何度か思った疑問がまた沸いた。ぱちぱちと瞬きをしてドフラミンゴを見る。相変わらず目元は隠されていてわからないが、口がへの字になっていて本心からの言葉だとわかる。目を合わせた途端に黙り込んだドフラミンゴに名前はどうしてよいかわからなかった
『…えっと…、ご、ごめん……?』
ので、とりあえず謝った。名前の人種特有のつい謝るクセが出た。ちなみに彼女が彼に対して謝罪を口にしたのは片手も余るほどである。そうこうして現在、お粥をドフラミンゴの手ずから食べさせられそうになるのを必死に抵抗していたのだった
『…こんなことしてくれなくても自分で食べれるし、そのほうが食べやすいからやめてくれる?ちゃんと食べるからそれ貸して』
「……」
『どうも』
思いのほか素直に器とレンゲを渡され名前はホッとする。しかし、まじまじと凝視してくるドフラミンゴに口元が引きつる。どっか行ってくんないかなぁとは言わない。心配かけてしまったのはこちらだし、いちいち突っ掛かる元気はまだない。仕方ないので凝視されながらお粥をひとくち食べた
「それ、おれが作った」
『ぶふぉっ!』

衝撃的な発言のせいで思わず吹き出す。ゲホゲホとむせる名前を見て、何を勘違いしたのか目に見えて狼狽えだしたドフラミンゴは水を差し出してすぐにローを呼びに行くと騒ぎ、止める間もなく部屋を飛び出して行った。取り残された名前は咳が落ち着いてから水を飲み、お粥と、開けっ放しにされた扉を交互に見た
(うわ…どうしよう。ごめんローくん…)
困惑する名前はいま一度お粥をじっくり見てみる。シンプルな卵粥で、ところどころ卵がダマになっている。たしかにぎこちない仕上がりだった。ドフラミンゴが料理はまったくダメだと知っているが、これくらいなら教われば彼とて作れると思う。たぶん。改めてひとくち食べた
じゃりっ
『…』
卵の殻が入ってた。けれどまあこれくらい予想つく。殻ごと握り潰してしまい、まともに殻を割ることも出来ない男なのは承知だ。肝心の味は問題無い。ごくごくシンプルな塩ベースのお粥だった。凝ったことをさせず、止めに入ってくれた誰かが居たことだろう。ウチの船のコックであるストークかもしれない。内心でお礼を言いつつ名前はお粥を食べた。バタバタと煩い足音は聞こえないフリだ

「名前!吐血したらしいな!?」
『してないよ!?』
駆け込んできたローの発言を聞こえないフリは無理だった。血相変えて名前を見るローの気迫にぎょっとする
「本当か!?名前が血を吐いて苦しんでるってドフラミンゴが…!」
『いやいやいや!?むせて咳が出ただけだし、血なんて在り得ないから!ほら見て、どこにも血が付いてたりしないでしょ!?』
「…本当か?ウソ、じゃねェんだな?」
『あたしはね』
それを聞いて、ほうと息を吐いたローは念の為だと言って名前を触診する。されるがままの名前はお粥の入った器をベッド脇のテーブルに置いてじっとしていた
「…熱は引いたな。血も出てねェ。具合はどうだ?」
『起きてすぐは少し頭痛くて体も重かったけど、今は平気』
それどころじゃなかった、と心の中で付け足す
「そうか。これなら今日明日と薬飲んで安静にしてりゃ治りそうだな」
『うん、迷惑かけてごめん。本当にありがとうね』
「かまわねェ」
言い切るローにもう一度感謝の言葉を述べてから、残りを食べてしまおうとお粥の器を手にする
「…それ、食ったか」
『あ、うん。これさ、あの人が作ったんだって?食べようとしたらそう言われて、ビックリしてむせたんだよね』
「ああなるほどな」
『それをなんか勘違いしたみたいで、止める前に飛び出してったの。…そう言えばどこ行った?』
「名前が名前がと喚いてうるせェからバラしてきた」
『!?』
「心配するな、死んじゃいない。おれの能力だ」
『あ、そ、そう…』
能力。そうだ、この世界には悪魔の実とか言うものがあった。これまであまり関わることが無かったので失念していた。いつも一緒のドフラミンゴの能力でさえ、知っているのは空を歩ける事と動きを封じられたり操られたりすることくらいだ。空中散歩に連れられた時は感動した。しかし如何せん、ドフラミンゴに体を委ねなければならないので頻繁にお願いするのは気が進まないのだ。ここぞとばかりにあちこち触って来るのが許せない。それにしてもバラすことの出来る能力とはすごいな、と名前は関心する

『あっ。ところでさ、このお粥…まさか一人で作ったわけないよね…?』
「そんなわけあるか」
『ですよね』
恐る恐る訊ねた名前は、ローのクールな物言いにホッとした
『料理がまったく出来ないのは知ってたから、誰かに教わりながらだろうなとは思ってたんだけど。ストークくんかな?』
「おれだ」
『えっ!?』
吐いたばかりの安堵の息を思いっきり吸い込んだ
『うそ…!?やだごめん、大変だったんじゃ…?』
「玉子を3つムダにしたのと精神的疲労を被ったくらいだ」
『本当にごめんなさい』
「名前が謝る必要は無ェ。そもそも、おれが先に作ろうとしてたのを見つかっちまったんだ」
『ローくん料理するんだ?』
「しねェが、粥くらいなら簡単だからな。ただまあ、おれがおれがと煩いのが居たが」
『それで一緒に作ってくれたんだ…ありがとう』
「何も知らねェくせにアレコレぶち込もうとしやがるかな。色がキレイになると言ってワインとタバスコを手にした時はぶん殴っといた」
『ありがとうありがとう』
もう彼に足を向けては寝られない。名前は拝むように頭を下げた

「それ食ったら薬飲んで、シャワー浴びてもっかい寝とけ。ドフラミンゴが連れて帰るとうるせェが今日はまだダメだ」
『うん、ローくん達には申し訳ないけどそうさせてもらう』
「…さて、そろそろドフラミンゴの相手をしねェと後がこわいからな。おれは行く。バスルームはこの部屋の隣だ。替えの服は…まあ…なんだ、ドフラミンゴが持ってきたから置いて有る…」
『……』
瞬時に死んだ目になる名前の背を、ローは優しくさすった。状況が状況なので怒るに怒れないが、あれほどタンスは触るなと言ってあったのにきっと躊躇いなく服を漁ったのだろうと想像すると死んだ目にもなる
「風呂…沸いてるからな。ゆっくりしたらいい」
『…うん』
哀れみの眼差しを向けたままローは部屋を出て行く。名前は治まっていたはずの頭痛がぶり返しつつあった

それから少ししてお風呂にゆっくり浸かり気分良くなった名前が着替えようとしたところ、下着が、捨てたはずのドフラミンゴセレクトの真っ赤なサテンにラメ入りレースの刺繍が施された際どいTバックだったので、やっぱりキレた
『病人相手にクズかよ』
そうして結局、風邪と言う病がこの世界でどれほどの位置付けなのかはよくわからないままだった


















風邪は万病のもと



(ベポ、ベポ、あのさベポって新品のトランクス持ってたりしない?)(おれパンツ履かないよ?)(あ、うんごめん…)














ーーーーー
いやたぶん履いてるんだろうけどね!

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