ドフラミンゴトリップ

□ようやく治りました
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「あっ!見て名前、アッチに屋台が並んでる!」
『へえ、ほんとだ。何か食べたいね、行ってみよっか』
「おう!」

無事に風邪が治ってから二日、ローくんとガルちゃんからの外出許可が降りたあたしはベポと一緒に島を散歩している。一人と一匹、目的も無くぷらぷらしているだけなのだが楽しい。冬島だけど雪の積もる地域ではないらしく、晴天の今日は寒くても過ごしやすい。ベポと出掛ける旨を伝えたとき、やはりと言うべきかあの鳥男がやかましかった。何を思い違いしていたのか、しきりにローくんの船に移るのは許さないと言っていたのが意味不明だった。誘われてもいないし、誘われたとしても穀潰しのあたしがホイホイと移れるわけがない。今だって食事を作ったり船内の掃除をするけど基本的にはクルーのみんながやるし、あたしが動くことによって彼らのボスも船内をちょろちょろする事になるので返って気を遣わせてしまうのだ。全然、もうまったく本意ではないけど、あたしはなぜかあのバカに気に入られてしまってるようなので、船長のお気に入りにやたらと掃除だなんだをさせたくないとも思われているようだ。ローくんの所へ行けばこんな申し訳なさを感じずに済むのかも、と一瞬考えた。でも冷静に考えたら、あたしがローくんと居ることによってバカがローくんに粘着して死ぬほどうざそうなので絶対にダメだった。今回の風邪の件ですでに多大な迷惑を被ったローくんに、これ以上ストレスを与えたくない。アイツのせいでたった数人しかいない友人を失いたくない

「名前、これすごく美味そう!」
『ほんと、良い匂い!買っちゃう?』
「うん!おじさん、コレ2個!」
『あ いいよベポ、自分の分は出せるよ』
「ダメッ!キャプテンから教わったんだ、メスとふたりっきりの時はオスがお金を出すもんだって」
『メ、メス…。で、でもありがとう、それならベポに甘えてご馳走になろうかな』
「まかせろ!」
キリリとした顔でふたり分のお金を差し出すベポは男前だ。これを指南したキャプテンであるローくんも同じように男前なのだろう。確かに彼は目の下の隈が不安を煽るが、おおむね格好良い顔立ちをしてるのでモテてそうだ。風邪のときの甲斐甲斐しさも好感度が上がるし、海賊というリスキーな職業を差し引いてもお近づきになりたい女性はたくさんいるに違いない
「はいコレは名前の分」
『ありがとう』
渡されたのはケバブのような、肉や野菜を生地でくるんだ物で、温かくて良い匂いがする。飲み物も買って、調度良く見つけたベンチでランチタイムだ
「うまいね!」
『ほんとうにね!』
お粥やうどんなんかの消化に良い薄味の食事が続いてたあたしにはなおさら濃い味が美味しく感じられる。しかも隣には友達が居る。体の調子が良くなったのも手伝って、本当に幸せな気分だ
『ベポ、いまさらだけどまた会えて本当に嬉しいな』
「おれも!ドフラミンゴの船に乗ってたことも、風邪で倒れたのもビックリしたけど、会えて嬉しい!」
良い友達を持ったなあと、ベポの笑顔を見ると染み染み思える

『あたし、(この世界では)友達と出掛けるの初めてなんだ』
「そうなのか?…アッ!でもおれも、友達って初めてかも…キャプテンや船のみんなは、仲間だから」
『えーそうなの?じゃあこうやって友達と出掛けるのはベポも初めて?』
「はじめて!」
ふふふ、と顔を見合わせて笑い合う。和むなあ
『ベポ、と言うかローくんはいつまでこの島にいる予定なの?』
「ううーん…。名前の風邪が治ったし、たぶんもうすぐ出航すると思う」
『そっかあ。わざわざ出発遅らせてまで看病してくれてたんだね、本当にありがとう』
「ううん、おれは名前と長く居れて嬉しかった!キャプテンだって楽しそうだった!」
『そうかな…?迷惑しか掛けてないけど、仲良くなれたなら嬉しいな』
「キャプテン優しいから大丈夫!…ただ、キャプテンはドフラミンゴが苦手なんだ」
『ああうんそれね』
「一緒に居たらなにかと面倒事が起きるって言ってたし、だから少しでも早く離れたいんだと思う」
『わかりすぎる』
むしろアイツのこと得意なんて人居るの?居たとしたらその人どっかおかしいよ
『じゃあ明日にでもお別れかなぁ』
「それは……寂しいな」
『寂しいね』
「でもさ、おれ達海賊だし、別れは盛大に宴するもんだよ!」
『(あたしは海賊じゃないけど)そうなんだ。それはそれで楽しみだね』
「うん!それに、名前がドフラミンゴの船に乗ってるってわかったから次からはいつでも会いに行けるし!」
『そうだね、あたしからも連絡していい?』
「当たり前!」
これからはちょこちょこベポと連絡取り合おう。電伝虫もいいけど手紙を送るのもいい。そう考えたらこれから先の航海への楽しさが生まれる。それとあの男への愚痴ばかりにならないように気を付けないと。この後あたし達は町をのんびり歩いて回った。ただ歩いてるだけでもすごく楽しくて友達って偉大だなと思った。うたげがあっても明日にはバイバイしなくちゃならないのはやっぱり寂しい。こっそりしんみりしたけど、ローくんを早くあの男のもとから離さないとと思えばアッサリ切り替えられた。感謝はしない

「あっという間だったなあ」
『ねー』
夕暮れが迫り帰り道を行く。まだ遠いけど視界には船が見える
『ん…あれ?あの小舟なんだろう?ウチの船のじゃないと思うんだけど』
「え。うーん?本当だ。おれのとこの船でもないなァ」
特徴的なローくんの船の隣には、熱にうなされてる間に横付けされたウチの船がある。そしてウチの船の反対隣に、見たことの無い小舟が。港を避けてわざわざ少し奥まった入り江に停めてある船の近くで釣りをする危機感のない人間なんて多分そうは居ないと思う。それにココから見るぶんに、小舟に人は乗ってなさそうだ
『もしかして、敵船…?』
「えっ!?…い、いや、それにしてもあの小舟で?」
『確かに…』
「とにかく近づこう。名前は念の為おれの後ろを歩いて」
『わかった、ありがとう』
小舟とは言え状況がわからないので少し警戒して近付く。小舟に気を取られていたけど、よく見るとウチの船の甲板に何人か居るようだ。カラフルなのはウチのクルーで間違いないけど、どうやら違う色味の人も混ざってる。まさか本当に敵か何かで、戦ってるとかじゃないよね…
「なんだろう、騒いでる?」
『敵かな…』
「キャプテンは強いから心配ないと思うけど、名前の船に集まってるみたいだ」
『ウチの人達もたぶん強いと思うけど大丈夫かな』
「賞金稼ぎかなあ」
『うそ、こわい…。あたしに懸賞金なんてないのに』
「…!こっちに気づいた!」
『!』
賞金稼ぎだなんて、あたしには1ベリーの価値も無いのにやめて欲しい。特に隠れる場所もないので気づかれて当然だけど、一斉にこちらを見てこられるとこわい。しかもあたし達を見つけてか、騒がしさが増したように感じる。特にピンクの塊がわさわさ揺れている
「誰かこっちに来る!」
『ええっ』
わさわさ揺れるピンクの塊の横をすり抜けて黒っぽい人が甲板を飛び降りこっちへ歩いてくる。ベポの背に隠れるあたしからは全体像が見えないけど、立ち止まってしまったベポが警戒を強めていてあたしも緊張してしまう
『べ、ベポ…』
「名前、大丈夫落ち着いて。相手から殺気や敵意は感じられない。…でもアイツ、どこかで見たような」

あっという間に近くまで迫って来たようで、ざくざくと地面を踏みしめる音が聞こえる。ドキドキしながらベポの背からちらりと顔を覗かせた
『えっ』
「名前、久しいな」
「えっ」
『えっやだうそ、ミホーク!?』
「いかにも」
「ええっ!?鷹の目の!?」
「いかにも」
なにこれびっくり。散々あたしを怖がらせていた人物の正体はミホークだった。明るい声であたしの名前を呼んで手を振ってくれればよかったものを、黙ったまま静かにこちらへ来られたんじゃ敵にしか思えない。まあでも、キャラじゃないんだろうな、明るく振舞うミホークなんて
『偶然だね、ミホークもこの島に来てたんだ。…えっもしかしてあの小舟って』
「うむ、おれのものだ」
『そっか』
あんな小さな舟でどうやってこの広い海を旅してるのかものすごく疑問だけど、そう言うのはあまり気にしてはいけないんだろうな
「…名前って鷹の目と知り合いなの?」
『ああうん、ほら、七武海の会議に連れて行かれたことがあって』
「あ、そういうことか」
『そう、そのとき仲良くなったわけ』
「…うむ」
「へェー!名前はスゴイな!大物の知り合いばっかりだ!」
『そうなのかな?じゃあベポもその中のひとりだね』
「えっ!」
『でもベポはただの知り合いじゃないよね、友達だもの』
「友達…!ヘヘッ!そう、そうだ、友達だもの!」
やだ可愛い。ベポの言う大物とはウチの鳥男とミホークのことを指しているのか。…大物だったのか。いやまあ、そうだよね、少し勉強したけど七武海ってすごい人達の集まりみたいだし。騒がしいバカと惚けた甘党なだけじゃないよね。クロコダイルさんなんかは大物の風格がすごいもの、あれぞまさに七武海の一角って感じ。ああいう人が居てくれると七武海の名前も仰々しく知れ渡るよなぁ。一部おかしいのが混じっても
『ところでミホーク…って何、どうしたの』
あなたはなぜ此処に?と聞こうとしたけど止まってしまった。何、なんなの、ミホークは表情を変えることなく、けれどじいっとあたしを凝視していた
『ミホーク?』
「…」
『何?え、どうしたの』
「…」
『ごめん、ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ』
じいっとあたしを見続けるミホークにベポも不思議そうだ。ミホークは表情の変化に乏しすぎるので何を訴えたいのかさっぱりわからない。ウチの船の船長ならなんとなくわかる(ようになってしまった)けど

「…約束通り菓子を食いに来た」
『え?あ、うん。…え?』
それはいいんだけど、まさかその為だけに来たの?広い海の上で簡単に見つけられるの?偶然じゃなくて?
『よくこの島に居るってわかったね』
「同じ七武海だからな」
なんだその七武海ネットワーク。初めて聞いた
「冗談だ。偶然に過ぎん」
『冗談が難しいよ』
顔が一定だから判断出来ないよ。そりゃあベポも不思議顔が止まらないよ
『あー、じゃあひとまず船に戻ろうか』
「うむ」
「そうだよ、みんなコッチ見てるし」
ベポの言葉に反応して船を見たら、わさわさ揺れるピンクを取り巻く色とりどりの集団がいる。多分、貴方が行くとややこしくなるからヤメテ下さいとでも言われてるのだろう。ありがたい。戻りたくないけど早く戻ろう
「…名前、菓子を食いに来た」
歩きながらミホークは同じことを言い出す。横を見れば彼は正面を向いていた
『…?うん、聞いたよ。これから作ることになるけどいい?』
「かまわん」
『うん、ならよかった』
「……菓子を食いに来た。以前に名前が誘ったからだ」
『う、うん…』
ちょっとしつこいな。わかってるよ、作るよ、作るってば
「…そしておれは招かれた。こうなるとこれは知り合いなどと言う他人行儀な関係では成立しないと思わぬか」
『えっ』
「お前はどう思う」
『ど、どうって…』
やだなにこの人、随分様子がおかしいと思ったら。うわあ、そう、そうだったの
「この関係は……そうだな、例えば俗に言う、ともだちと呼ばれるものに近いのかもしれん」
『かもじゃないよ!友達だよ!』

ひどいギャップに不覚にもときめいた。あたしの友達って、可愛いタイプばっかりだなあ




















瞳に映らない印が欲しいよ



(鷹の目ェ…!名前チャンから離れろ…!)(なぜ貴様に指示されねばならん)(フフフ…!名前チャンはおれのモンだ)(おれは名前の友ゆえ、隣に居てもかまわんのだ)(!?)













ーーーーー
ぼっち拗らせナンバーワンの登場です

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