ドフラミンゴトリップ

□夢主を近くで見守り隊
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※クルー視点(ジェイ)



『エース待った?ごめんね、遅くなっちゃって』
「おう名前、なんにも待ってねェよ」
『もしかして食べないで待っててくれたの?』
「せっかくなんだし名前が来てからと思ってな」
『ありがとう』
男のもとへ駆け寄り申し訳なさそうな顔をする女と、それに笑顔で応える男。カフェテラスでの一幕。どこからどう見てもカップルのソレにおれの隣に居る人物の機嫌が恐ろしいスピードで下降していく

名前さんと火拳が座る席から距離を取った位置におれとドフラミンゴさんは居る。今日はようやく外出許可が降りた名前さんが火拳と会う日だった。もう絶対に名前さんを自分の目の届かない場所に置かないと宣言したドフラミンゴさんの目はマジだったろう。サングラスの奥から透けて見えそうなくらい力強い宣言だった。名前さんとはぐれた挙げ句、ケガをした名前さんを他所の野郎に背負わせたという失態を犯したラークは涙目で名前さんに謝っていた。おれじゃなくてよかったと心から思った。おそらくクルー全員そう思ったはずだ。海賊だからな、同情心は要らないだろ。しかし名前さんは『いつかこんな日が来るんじゃないかって予感はあったから気にしないで』と、悟りを開いた微笑みでラークを許した。その目がどこか遠くを見ていたことには触れない方がいいかもしれない。まあそれだけじゃなく、ドフラミンゴさんが居ても居なくても何かしらのハプニングが起こってきた今までを思い返したら、いっそドフラミンゴさんの前で全ての出来事が発生したほうがマシかもしれない。聞いてはいないが名前さんも同じこと考えていそうだ

そんな状態に陥った名前さんだが火拳と改めて会おうとする気持ちはブレずに持っていて、その場にドフラミンゴさんが立ち合うのを良しとしなかった。当然、まるで聞く耳を持たないドフラミンゴさんだったが名前さんの出した条件をあっさり飲んで引き下がった。名前さんの出した条件とは、隣に居るのはダメだが遠巻きに様子を窺ってて良い。それを守ってくれれば今後しばらくは何処へ行くにも共に行動する、というもの。はっきり言ってドフラミンゴさんにとっては旨味しかない条件だ。おそらくというか絶対に、名前さんの思う“ しばらく”とドフラミンゴさんの思う“ しばらく”には大きな解釈違いが生じている。名前さんは2〜3ヶ月か長くとも半年くらいの気でいるんじゃないかと思うが、ドフラミンゴさんは“ 死ぬまでしばらく”くらいに思っていそうだ。いやマジで。それかドフラミンゴさんが飽きるまで。でもそれっていつだよ。いつ来るかわからねェ飽きる日を待つよりも、死ぬまでしばらくのほうが現実味あるだろう。名前さん迂闊すぎ。疲れが抜けてなかったに違いない。クルーの間で、訂正させたほうがいいんじゃ…?と一瞬ざわめきが起こったが嬉々として了承したドフラミンゴさんを目の前にそれは無理だった。皆まだ元気に生きていたいのだ。そして今日、なぜかドフラミンゴさんに捕まったおれはこうして物陰からこっそり名前さんを覗き見るという変態行為の共犯にさせられた。もしもの時は火拳は任せる。ドフラミンゴさんから飛び出したセリフには、ちっともジッとしてる気が無くて絶望した。名前さん怒りますよと言ったら冗談だと笑ったが、誰が聞いても冗談に聴こえなかっただろう。おれ、元気に生きていたいって心に決めたばかりなんだぜ

「…チッ、いまいち聞き取れねェ」
楽しそうに話する火拳を睨みつけながらドフラミンゴさんが苛立っている
「けどコレ以上近づいたら名前さん嫌がりますよ」
「…わかってる」
ほんとかよ。ついジト目でドフラミンゴさんを見てしまう。名前さんからは、絶対に加わるなと釘を刺されているから多分大丈夫だと思うがこの様子を見てると不安になる。毎日一緒に居るくせになぜこんなに余裕が無いのか。支配欲の塊みてェな人だとは分かってるが名前さんに限っては度を超えている。やっぱ冷たくされ過ぎてるからか?いっそ優しくしてみるとか?…いや、ダメだな。さらにしつこくなりそうだ。…名前さん八方塞がりじゃねェか
「あの野郎…!」
「エ?」
名前さん悲惨だな、なんて考え込んでて全然見てなかったがドフラミンゴさんが青筋立てて怒ってる。何があったんだ。名前さんと火拳に目をやると、なぜかご飯まみれの火拳の顔を名前さんが拭いていた
「…どうなってんスか」
「火拳の野郎、いきなりメシに顔突っ込みやがった」
「エ…?」
なんだそれ。こわ…
「名前さんの気ィ惹く作戦か何かか…?」
「そうに決まってる」
名前さんに顔を拭かれヘラヘラ笑ってる火拳が余程気に入らないらしい。まあそれは分かる。火拳の野郎、自分で拭く気が一切無いもんな。しかも顔突っ込んだと思われる皿に乗った料理を名前さんに食えと言ってるようだ。さすがの名前さんもめっちゃ首を横に振ってる。アイツ何考えてんだドフラミンゴさんだってンなことしねェぞ。わりとしつこくススメてた火拳だが、多分名前さんがはっきり断ったんだろう、しゅんとした顔で引き下がって自分で食い始めた。明らかにホッとした様子の名前さんにこっちもホッとした。火拳め、ウチの名前さんになんてことしやがる
「名前チャンはなんであんな野郎をトモダチだなんて言いやがるんだ」
「迷宮入りッスね」
アナタと行動を共にしてるのも迷宮入りッス、という言葉は飲み込んだ。そして鷹の目と仲良くしてるのも迷宮入りだし。このあと火拳はなんと三回も料理に顔を突っ込むという奇行を繰り返し、名前さんはそのたびに火拳の顔を拭いていたが最後のほうは怯えていて可哀想だった

それでもその後は何事もなく、どうやら白ひげ海賊団は直ぐに船を出すようで、名前さんは見送るというようなことを喋っていたっぽい。火拳と名前さんが歩きだし、当然ドフラミンゴさんとおれは後を追う。ちなみに名前さんは松葉杖で一生懸命歩いている。おそらく火拳が背負うだなんだと言ってたみたいだが、名前さんは断っていた。そりゃそうだ、名前さんの性格からしてもそうだが何より、ドフラミンゴさんが見てるってのに他所の男に背負われるワケにはいかねェ。しかも火拳の野郎、服着てねェし。肌が触れ合うとか、ドフラミンゴさんに殺してくれって言ってるようなもんだろ。ゆっくりと歩いてやっと白ひげの海賊船が停泊してる場所まで着いてからも名前さんと火拳はしばらく立ち話をしていて、一見すると別れを惜しむカップルに見えるのがまたなんとも…。いい加減なところで船から火拳を呼ぶ声が聞こえ、火拳は大手を振って名前さんと別れの挨拶を済ませた

ドフラミンゴさんは火拳が船に乗り込んだ瞬間に名前さんのもとへ飛び出して行った。完璧フライングです。こうなると予想していたのか、名前さんは案外普通だった。けど、おれがくっ付いてのは予想外だったらしく、驚いた後にすごく申し訳なさそうに労われた。いいんです、アナタの苦労に比べたらこれくらい。火拳のデケェ声がいつまでも名前さんを呼ぶから、船が遠のくまで三人で白ひげ海賊団を見送るというとても不思議な状況が生まれた。なんだこれ。ドフラミンゴさんも名前さんも微妙な表情していた

『…帰ろっか』
火拳の声が届かなくなるくらい船が小さくなった頃、名前さんがぽつりと言った
「…アァ」
「…ッスね」
名前さんはもう少し友人を選ぶべきかもしれない。ドフラミンゴさんが過保護なのもほんの少し共感出来てしまう一日だった



























君よさようなら、どうか世界一の幸福を



(ア?名前さんの持ってるソレって…)(あ、うん。エースがくれたの。びぶるカード?だって。なんなのこれ?)(…あの野郎)


























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ちゃっかりしてるエース

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