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□天変地異を引き起こす、荒々しき魂の波動。
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美しくはなかった。血と泥に混じり幾度も幾度も放たれた中の一閃。死物狂いのひと振り。生きたいと。護りたいと。数少ない道理がそこかしこ、溢れんばかりにあったのだ。心を凍えさすような叫喚とそれを溶かす勝ち鬨の声。戦争のおわり。その一瞬―――

聴こえたのは、視えたのは、あぁそれだけは、確かに美しかったのだ―――











そよそよと柔らかな風が頬を撫でれば心が落ち着いていく。小さな町だが国ざかいに近い場所であったのはナマエにとって運が良かった。その運の良さも、現状置かれている立場から見れば露ほどのものにしかならないのだが。この町に流れ着いて七日は過ぎた。自身が装飾品の類を身に付けるのが好きで良かったと、これまたなけなしの幸運に安堵する。なにしろ僅かとは言え持ちあわせていた金子が使えなかったのだ。食事の支払いをする際にナマエと店主、双方初めて見る硬貨に首をひねったのがすでに懐かしい。問屋に売った髪飾りはそれなりの値がついた。見慣れぬ細工がされていてソレがとても美しいから、と言うのが主な理由であったが、主君が亡命して逃れた先の国で手に入れたソレはその土地ではけして珍しい物ではなかったし、辺境の地に近い国とは言え商人達の手により他国へ輸出もされていた。髪を掻き上げ愛想笑いで流すナマエの腕にはめられた銀細工のバングルを見た店主が、ソレはもっと高値で買い取れると教えてくれたが、コレと腰に携えた剣だけは何があっても手放すつもりはない

ナマエが居るのはイーリス聖王国と言い、町はイーリス聖王国の端にあり隣国であるペレジア王国との境に近い場所に位置している。国ざかいにあるおかげで小さな町でも多くの情報が行き交う。世界地図を見たいところだが、港からも遠く、行商人も決まった道しか歩かない此処では手に入りそうもない。ナマエは酒場などで出来るだけ多くの情報を拾い集めた。そうこうしているうちに七日は過ぎ、宿ではすっかり馴染みの存在になっていた
「おやナマエさん、今日もお出かけで?」
『はい。でも夕方には帰るつもりなので夕食はこちらでいただきたいなぁ』
「かしこまりました。それにしても、こんな田舎町でよくもまぁ出歩く場所を見つけられますね。何も無いでしょうに」
『うん?そんなことはない。ただのんびり散歩するだけでもいろいろと発見があるものです』
「ふうむ、騎士様には刺激が足りないようにも思えますが」
『穏やかな場所に身を置いて息抜きするのも悪くないもんです』
「そんなもんですかねぇ」
『そんなもんですよぉ』
では、とナマエは緩やかな足取りで宿を出た。その後ろ姿を見送る宿屋の主人は、馴染みとなった客から視線を外すことなく熱のこもった溜息を吐く。腰まである深いネイビーブルーの髪の毛にそれよりいくらか褐色の入ったマゼランブルーの瞳、肌の色は真っ白とは言わないが質が良い滑らかなものだ。アガット色を基調とした服の上にはシルバーブルーの鎧あてが胸元とブーツにあてがわれている。のんびりしているのか、どことなく気怠げな彼女だが、何故かしゃんとして見えるのは服装ゆえなのだろうか

騎士とはもっと固くて取っ付きにくい人物だと思っていたが、彼女はどうやら違うらしい。少し崩れた敬語が話しやすさと柔らかさを含むのは彼女の持つ雰囲気からくるものだ。町の中で何度か貴族を見たことがあったが、なにせ田舎町だ。騎士などお目にかかった事がない。王都では民衆でも聖王様を拝見出来るらしいが行ったことがないのでよくわからない。この町では主人のように町の外へ出たことがない人間も多いので、ナマエの存在はちょっとした注目の的だ。初日、イーリスの騎士かと訊ねてみても違うと言い、聞いたこともない国の名を口にしたナマエに不信感を持ったが彼女の人柄がそれを薄れさせた。ひとりで何日もこんな所に居座るのだから何か訳アリな事くらい主人にも想像出来たが、宿代はきちんと支払ってくれるし人柄も良いので、悪いことは起きないだろうと今ではすっかり彼女と親しく話せる特権を得たと喜んでいる。ほうっとしていた主人は、女将の声で現実に戻る。女将に返事をしながら、夜は酒場で食事を済ますことの多い彼女が今夜は宿で取ると言ったので、コックに張り切ってもらおうなどと考えた























此処は手招く冥府か楽園か



(おわりとはじまりとひかりとかげ)
















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モブだけ…
 

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