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□ただそこに在り続けること。それが偽りの魂の役目である。
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巡察にと町へ訪れて早々、悲鳴と助けを求める声がクロム達の耳に届く
「なんだ!?」
「クロム様、もしかすると先の町で話に聞いた賊では!?」
「何にせよ只事じゃない、早く行こう!」
「わわっ、待ってよー!」
休むことも許されぬまま、四人は慌ただしげに声のした方へ走った

彼らはここ最近、国境周辺で賊が横行していると情報が入った事で自警団として動いていた。前イーリス聖王が仕掛けたペレジア王国との戦争の爪痕を未だ深く残すこの国は、現聖王の指針により軍事力を縮小した昨今、非常に不安定な状況であった。その為に賊が増え村々を襲う事案が跡を絶たない。しかし国が所有する軍事力を端々の町や村にまで割く事が難しい中で、イーリス聖王国の王子に当たるクロムが自らを筆頭とした自警団を設立し、正規軍ではまかないきれない部分を補うべく奮闘している。町の様子を見廻りつつ集めた情報によると、賊は王都から遠く、且つ国ざかいと言う政治の介入が慎重にならざるを得ない地域を荒らして回っているとのことだった。厄介なのはそれだけじゃない。賊は町を潰して回るのではなく、人々が生活出来るギリギリまで財産を巻き上げながら町から町へと徘徊している点だ。一度襲われた町も、時期を見計らい再び襲う算段なのだろう。先に訪ねた町もつい先日襲撃に合ったばかりで、人々に暗い影を落としていた。支援物資の配給を思案しつつやって来たこの町で、計ったかのように賊が現れたのだ
「逆らうヤツは殺せ!命が惜しけりゃおとなしく出すモン出しやがれ!」
賊達は民家へ押し入り欲しい物を奪い尽くす。悲鳴と怒号が入り混じり、辺りは混乱に満ちている

「リズは賊に気づかれないように怪我人の手当てを。僕とクロムとフレデリクで賊の討伐にあたる」
喧騒の少し手前で立ち止まり、一行に指示をだすルフレ。ルフレの言葉を聞き、三人は賊達に険しい視線を向けたまま頷く
「よし、行こう」
ルフレのひと声と共にクロムとフレデリクが賊目掛け駆け出す。リズも言われた通りに賊の目を掻い潜り、傷を負って倒れている人へ駆け寄った
「な、なんだ貴様ら!」
勢いをつけたクロム達の突然の出現で、賊達に動揺が走る。そこを逃さず素早く相手をノしていく
「みんな、巻き込まれないように出来るだけ離れるんだ!」
剣を振るいながらクロムが町の人々へ声を上げる。その声で我に返った人々は、固まっていた足を必死に動かしこの場を離れはじめた。此処で賊を全員捕らえられたら暫くはこの辺りも落ち着けるだろう。避難する人々を視界の端に入れてクロムはそう思ったのだが
「クロム様!」
「どうし、なっ!?お前!その子を離せ!」
焦りを含んだフレデリクの声に呼ばれて見ると賊のひとりがまだ十もいっていないであろう少年を人質にしていた
「あ……た、たすけて……」
「貴様ら武器を捨てろ、じゃねぇと…わかるな?」
少年の喉元にナイフを宛てがい、形勢逆転だと言わんばかりにニタリと余裕の笑みを見せる。まだ倒されていなかった数人の賊も笑い声を上げた
「オラさっさと武器を捨てねぇとガキの命が失くなるぜ?アイツはガキ相手でも加減しねぇからなぁ!」
「…っくそ!」

ギリリと歯噛みして賊を睨むクロム達だが、分が悪い
「早くしろ!ガキを殺すぞ!」
「アーサー!や、やめてくれ!ソイツは俺の息子なんだ!」
賊の言葉に弾かれるように、クロム達と賊の間に躍り出た男が真っ青な顔で少年の名を呼んだ。ナイフを突き付けられ目に涙をためて震えている少年の口が小さく動く。声は届かないが、父を呼んだのだろう
「か、金も食料も、みんなやるから!息子の命だけはどうか!この通りだ!」
跪き祈るように懇願する男を下卑た笑みを浮かべて一瞥した賊は、すぐにクロム達に向き直して言う
「そっちの三人が言うこと聞かねぇとその要件は飲めねぇなぁ」
「…っ……ルフレ、フレデリク…武器を離せ…」
クロムの言葉にルフレとフレデリクは無言で武器を離す。あと少しだったのに。不甲斐なさに剣を離して握りしめた拳に力が入った
「はっはっはっ!良く出来ました!テメェらあれだろ、賊退治だなんだと言って王都から来た連中だろ、噂にゃ聞いてたがたいした事ねぇな!」
「…武器は捨てた。少年を離せ」
「ああいいぜ、テメェらをぶっ殺した後で気が向いたらな!!」
「なっ!?」
「やれ!!」
怒鳴るような号令を受け賊達がクロム達に襲いかかった。降ってきた斧を紙一重で交わしたルフレに追い打ちをかけるようにサーベルを振り回す賊が迫る
「ルフレ!!」
「ルフレさん!!」
「っ、しま…!」
躱しきれない、とルフレが顔を歪めるのとほぼ同時だった
「がアッ…!?」
今しがたルフレを斬りつけようとしていたはずの賊が吹き飛ばされたのだ。賊が居たはずの場所には、片足を上げたひとりの女が居た
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