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□そこに行けば必ず見つかる。必要なのはめぐり合う幸運。
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人が歩む道、それは偶然を辿るのか必然を辿るのか自ら切り拓くのか。答えは様々であろうが、時として全ての事象が仕組まれたかのごとく連鎖するのは避けられない
















小さな虫の音に鳥の音、火の粉が弾ける音が夜の森の中で響いている

王都へ向かう道程は長く、一晩の野営を行うことになった。不寝番を買って出たナマエは時折り木の枝を焚き火に投げ込み、静かに森の音を聴いている。この世界に来てから夜には賑やかな酒場に居た時間が多かったので、純粋な夜の静けさを味わうのが懐かしく感じた
「……、」
『…寝付けない?』
「…いや、ちゃんと寝かせもらった。すまない、ひとりで任せてしまって」
『自分から言い出したの、気にしないで』
少しして、クロムが目を覚ました。体を起こしたので、このまま起きているつもりなのだろう。焚き火に目をやり黙っているので、ナマエも無言で炎を見詰めた
「ナマエは野営に慣れているんだな。夕飯も美味かった」
『行軍やら遠征やらが多かったからね。食事に関しては、うーん…人並みかそれ以下だと思うよ。凝った料理はてんでダメだから』
「そうなのか?でもリズが熊肉をあんなに美味そうに食うところは初めて見たな」
『丁寧な血抜きと素早く捌くことが出来たらだいたいあんなもんだよ。でも喜んでくれてたみたいでよかった』
「ああ。俺も、嫌いなわけではなかったが今日食べたのは本当に美味いと思った」
『ありがとう』
ほんの少し照れて、はにかむナマエ。クロムはそれをぼんやりと眺め、小さく咳払いをして焚き火に視線を戻した

「…町の人達の見送り、凄かったな」
『ああ、うん、確かに』
見送りの様子を思い出しナマエは苦笑する。出発直前、本当に行ってしまうのか、もう少し滞在してはどうか、とナマエは町の人達に詰め寄られた。山賊に襲われたばかりで不安もあったのだろう、けれど隣国に近く行商人も出入りする町でこれまでに大きな事件が無かったのなら、これからも今回のような事はそうそう起きないはずだ。ナマエは町の人達の不安を消すように諭し、自分もいつまでも此処に留まっているわけにはいかないと説明した。クロム達も自警団として、王都から離れた地域にも出来る限り足を運ぶようにすると言った。そうして惜しまれつつも一行は町を後にしたのだ
「昨日助けた子供が騎士になりたいと言ってたな」
『うん、頑張ってほしいね』
昨日助けた子供、アーサーが別れの間際、ナマエに向かって自分もナマエと同じように騎士になりたいと言った。その目は真剣で、ナマエはなれるよと頷いてみせた
『とは言っても、入隊を決めるのはクロムやフレデリクなんだけどね』
「それはそうだが、あの子があのまま大きくなればきっと入隊出来るだろ」
『うん、意志の強そうな子だったしなぁ。…私と同じ、って言うわけにはいかないけれどコレばっかりはね』
「……」
クロムは、ナマエが町の人達に王都から来た騎士だったのかと問われ、否と答えた姿を思い返す。この時代にナマエの祖国の名を知る人間など居ないに等しい。王国の歴史を学んできたクロムでさえ、英雄王マルスの本当の祖国の名を知らなかった。長い長い時間の中で伝承されていく歴史はどうしたって姿を変えてしまう。真実は、その時代その時を生きた者にしかわからない。アリティア騎士だとナマエはアーサーに言った。今は亡き大昔に在った、小さい国だ。自分がアリティア騎士で在ること、それがナマエの真実なのだ
「…早く」
『ん?』
「…早く、帰りたいか?」
『…うーん、そりゃあね』
「…そうか」
『あの後どうなったんだろうとか、今頃どうなってるんだろうとか、まあ考えちゃうよね』
「…そうか…そうだよな」
『……でも、私がいま生きている場所は此処だから』
「…!」
『同じような体験をした人に出会えればいいけど、それは難しそうだからねぇ。あれこれ悩み過ぎも体に悪いからさ、まあ気長にやるよ』
「……アンタは、……」
『?なあに?』
「…ん……お兄ちゃん…?ナマエさん……?」
『あ、リズ。ごめん起こしちゃったかな』
「ん〜ん、やっぱり外は寝づらくて…いっつも途中で起きちゃうの」
『あはは、明日の夜にはベッドで寝れるよ』
クロムが何かを口にするより先にリズが目を覚ました。しかめっ面のリズは言葉通り寝心地が悪かったらしく、寝ていたはずなのに疲れたような溜め息を吐く。まだ眠っているルフレとフレデリクが起きないよう、顔を寄せ合い小声で会話するナマエとリズを尻目に、クロムはナマエの言葉とそれに対する自分の応えを頭の中で反復させていた。気長にやるよ、とからりと笑って言ってみせたナマエ。夢物語の中に身を置いているようなこの状況で、抱える不安は計り知れない。それなのに笑って、この世界で生きていると胸を張っている。アンタは強いな。口の中に残った想いは胸の内で昇華されていった

穏やかだった夜が姿を変えたのは、それからほんの数分の後だった
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