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□必要なだけの感情、必要なだけのやり方。
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クロムとルフレがマルスと名乗る仮面の剣士と対面する。間近に起きる未来を示す仮面の剣士と、自身が望む未来の為に行動を起こすと決めた二人。だが、未来を知る者が現れようと、偶然近くに居合わせたナマエがエメリナの命を救おうと、闇に乗じて大陸全土を巻き込む争いの火種は炎となり燃え上がる。離宮までの道中でペレジア軍の奇襲に合い、撃破したもののイーリスの王都は襲われた。国民を捨て置けぬとエメリナは王都へ戻る決意を固める。エメリナは炎の台座をクロムへ授ける。ナマエの記憶にも新しい、世界を救いも壊しもする可能性を秘めたあの炎の紋章。ペレジアの暗愚王も求めるソレはいまはイーリスの至宝だ

「おそらくナマエさんもご存知ですね」
『はい。これに秘められた力を求め、戦争はさらに苛烈を極めていましたから』
「…私の知る限りでもそうです。この炎の台座をめぐって多くの血が流れました」
悲しげに目を伏せるエメリナ。ナマエは、いまは“炎の台座”と呼ばれている炎の紋章を眺める。コレをめぐり血が流れたとエメリナは言うが、果たしてコレの何がそうまでの争いを生むのか正しく理解しているかはわからない。オーブがひとつしか嵌められていない炎の紋章。エメリナが何も言わないということは、イーリスにはこのひとつしか存在しないのだろう。傷つけ合いながらもすべて揃えたオーブは結局、散り散りになってしまったのか。だから千年前に再び地竜が蘇ったのか。それとも、邪竜と呼ばれ、畏れられ崇められする竜は地竜とは別の存在なのか。ナマエにはわからない。わからなくていい。しかし“覇者の証”とまで称されたことのあるソレは数千の時を経て“どんな願いも叶う”などと伝承されている。だから思うのだ。脈々と受け継がれるファイアーエムブレムをいつの日か地に堕とすのはきっと、竜族ではなく人間なのだろうなと
「ナマエさん…。私はこの炎の台座を、人々を救うために使ってもらいたいのです。歴史に刻まれてきた英雄達がそうしてきたように」
顔をあげればエメリナと視線がかち合う。ナマエの瞳は何もかもを見透かしているように感じる。エメリナの心は一瞬僅かにざわついて、だけどすぐに不思議なほど凪いでいった
「聖王国と呼ばれていても、償いきれないほどのあやまちがあります。けれど私はこの国の民を愛しています…。だから…行きます」
祈りのように、懺悔のように、過去の残骸に告白をする
『…聖王様の御心のままに』
ナマエはやはりこうべを垂れたりはしなかったが、エメリナは満足そうに微笑んだ








エメリナが捕えられ、処刑されるとの報が入る。罠と知りながら姉を助けると勇むクロムに皆ついて行くと言う。慌ただしく戦いの準備を整える者達の中で、ナマエだけが常と変わらぬ面持ちで壁に背を預け皆の様子を見ていた

「ナマエ…」
クロムがやって来る。その顔色は良いと言えない。強い意志を持ってしても、戦争はおそろしいのだ。家族の命と自国が掛かっているのだから尚のこと
「ナマエは…、さすがだな。出会ってからずっと、ナマエはいつも冷静に物事をみてる」
『……』
クロムは今すぐにも駆け出してしまいたい衝動を必死に抑えている。それは当然 姉のもとへであるが、もしもこの場に自分しかいなかったなら果たして何処へ駆けて行くだろうかとも片隅で迷う心があった
「俺が…。俺がもっと強かったならナマエと同じようにいられたかな」
ナマエのように誰も彼もを護れただろうか。ナマエはもっと、自分に寄り添ってくれてただろうか。いま、目的はひとつ。エメリナを奪還することだ。ひとりでは叶えられぬから手を貸してくれる者達がいる。他国の王まで巻き込んで、負けは許されない。誰も彼もを護らなければ。ナマエひとりに気を割いている場合ではないのだ。彼女の肩に預けてはならないのだ。彼女を寄る辺にしてはならない。わかっている。ああ、だけど、

『クロム』
その声にハッとする。ナマエはずっとクロムを見ていた
『戦争の勝利に心底酔いしれる者なんて、僅かしかいないよ。勝ってなお、苦しみや悲しみ、怒りは生まれる。聖戦など有りはしない』
「……それ、は…」
ぎゅう、とファルシオンの柄を握る。ペレジアがイーリスに攻め入るのは、イーリスに蹂躙された過去があるからだ。ギャンレルの声はペレジア国民の声でもある。過去の争いで大切なものを奪われた人々の中にはギャンレルと同じ思想を持つ者が居て当然だ。勝ってなお憔悴する心が癒されぬのなら、敗北した者達はなにを思うのか。この戦争に勝利するということはすなわち、ギャンレルを、ペレジアを、
『だけどまあ、それでも戦争は起こるし、起きたからには勝者にならなければ護りたいものは護れない。そしてその“護りたいもの”から外れたものを、私は斬り捨てる』
「…!そんな…!それでは過去のあやまちを繰り返すことになる!俺はペレジアを壊したいわけじゃないんだ!」
『クロム、あなたはイーリスを護ることさえままならない』
「!!」
瞠目して震えるクロムにナマエは言葉を投げつけるのを止めない
『すべて失わずに護ろうなんて、傲慢にもほどがある』
「…、……」
まるでナマエの美しく研ぎ澄まされた剣に心が切り裂かれたようだ。ドッと汗が吹き出て心臓が激しく鼓動する。感情と勢いだけに任せてきた心が大きく揺れた。なんの覚悟も出来ていなかった

「…、…ナマエ……おれは…」
どうしたらいい。こわい。こわいんだ。姉を失うことが。仲間を失うことが。ペレジア国民を斬り伏せることが。イーリス聖王国が己の肩にのみ乗ることが。弱い自分が。とてもこわい
『…クロムは私を過大評価しているね』
ようやく笑みを浮かべたナマエは、しかし眉を少しだけ下げた
「…なにを言う。おそらく俺が思うよりももっと、ナマエは強い人だ」
こんな短い期間しか共に過ごせぬ自分を呪うくらい、知らない面は多い。どれもこれも知りたいとは、なるほど確かに傲慢だった
『私はクロムが思うほど強くない』
とても落ち着いた声音はクロムの心に染み入る
『自分の手で護れるものなんてたかが知れてると、自分自身よくわかってる。あれもこれもと欲張れば、いちばん手もとに残したいものが護れなくなる』
『だから私はね、自分の手から零れてしまう分は周りの人達に任せてしまったの』
「な…」
ぱちぱちと瞬いたクロムを見てナマエは面白そうに笑う。そう言えばナマエはよく笑う人だなと、ひとつ知った
『考えるとキリがないし、そもそもあまり得意じゃないからね。開き直ることにしたの。私の手から零れるものは近くにいる仲間が護る。私が護ったものが、また別の何かを護る。その逆だってあるかもしれない。そうやって繋いでいくことでより多くを護っていければいいって、そう考えることにした』
それはきっと、主君もそうであったのだ。訊ねたことはないし、声に出したこともない。だけど彼の人の歩む道は、そうして造られた
『そう言ったって誰の手にも収まらないで落ちてしまうものもたくさんあるよ、必ずね。そればかりはどうにもならない』
「……」
『ねえクロム。エメリナ様は御自身でお決めになられた』
「…、…それは、わかってる…」
王都に戻ればこうなるとわかっていたはずだ。おそらくはフィレインも。だからティアモを残した。足りてなかった。わかっていなかった。クロムは聖王に護られた

『クロムもそうでしょう』
「…!」
『クロムも自分自身で決めた。……クロム、目を逸らさないで。どんな結末も見届けて。零れ落ちたものを忘れないで』
深い沼の底から引き上げられる感覚がした
『共に戦う者がいることを、忘れないで』
どこか、心か身体か、芯に火が灯った。焦らなくていいと言ってくれたのもナマエだった。いまは目の前の出来事にのみ集中しよう。先を考えられるほどの強さはまだ持ち合わせていないから、そこへ辿り着く為に全力で戦おう。限られた、護るべきものの為に
「ナマエ…。まだ少し、俺を助けてくれるか」
凛とした声と眼差しは、王たる資質の現れだろうか。それでもナマエの応えは変わらない

『…貴方の友として、私に出来ることをするよ』
それが彼女にとって偽り無く真実であったから、今のクロムには充分だった


























明日をさがして彷徨う刃



(それが絶望を切り裂くものでありますように)






















ーーーーー
覚悟はできた

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