ドフラミンゴトリップ番外編

□片想いに気づけないドフラミンゴ
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動くたびに聞こえるスプリングの音が耳障りで仕方がない。気を惹こうとしてるのかわざとらしく喘ぐ声が耳障りで仕方がない

鳴らしてるのは自分。啼かしてるのも自分。だが吐き気がする。こうなると心の隅で気づいていたような気がしなくもないが、とにかく不愉快だった






上陸した島で、媚びてきた女達の中から適当に一人選んで船に連れ込みセックスをする。昼間から始まるそれは陽が沈むと共に終わりを迎えて、名前が町の散策から帰る頃には情事の欠片も残さず元通りになっている。これが、島に着いた初日の常になってどれほどか

名前が現れてから初めて行きずりの女とそういった行為をしたのは夜も更け雰囲気に火が灯る時間帯だった。ドフラミンゴを置いてさっさと町へ降りた名前が買い物をして戻った時には女の声が部屋の外まで漏れ出ていて、名前は小さい溜め息を吐いてすぐにその場を後にした

外の気配を敏感に感じ取ったドフラミンゴは、嬉々として女を貪ったのちに、余韻に浸らすこともせず女を外へ放り出した。それから船内に残るクルーに名前の場所を聞いて、それまで嬉々とさせていた表情をあっさりと曇らせたのだ

名前は船内のどこかにいると思っていた。それが聞いてみると船を降りたと言うのだ。しかも、今夜は帰らないとふざけたセリフを残して。甲板や食堂ででも時間を潰していると予測していたドフラミンゴはクルーの話に機嫌を悪くした

自分が、名前も素性も知らないその場限りの商売女が相手とは言え、誰かとセックスしていた事実はしかと叩き付けたのに何故。なぜ名前は船から離れたのだろう。あァいやもしかすると、だから離れたのかもしれない。よぎった考えに名前を探すドフラミンゴの足取りは僅かに軽くなった

しかし。町にある宿屋を片っ端から訪ねて回り、名前が泊まっている宿屋を探しあてる。そしてようやっと見つけたそこへ遠慮も気遣いも無く踏み込んで、また機嫌を悪くした

誰か男と居たわけではない。一人だった。船の、いつも眠るベッドよりも段違いに安っぽく硬そうでそれでいて狭いベッドの上で名前は一人だった。名前の性格を考えればまさか行きずりの男と一緒のはずもない。だがドフラミンゴは機嫌を悪くした。名前はベッドの上で上半身を起こし腹までシーツを掛けてサイドボードのランプの灯りだけを頼りに本を読んでいた。それが気に食わなかった

その様子は、ドフラミンゴが毎夜見ている姿と一切違わなかった。豪奢で充足感があるキングサイズのベッドの上で上半身を起こし、肌触りの良いシーツを腹まで掛けて眠くなるまで静かに本を読む。彼が毎夜眺めている光景と一切違わなかったのだ。己れが居ない、こんな小さな宿屋の古びたベッドの上でどうして。己れがあの部屋で、あのベッドの上でなにをしていたのかわかっているくせにどうして。何しに来たのかと、至極面倒くさそうに訊ねてくる名前に苛立ちは増すばかりだった

そこからの行動は早かった。名前が有無を言うより先に抱きかかえ腹いせにベッドを蹴り壊し宿屋を後にした。船に戻りそれまでの出来事が跡形も無く綺麗になっていたいつも二人が眠るベッドの中で、傍若無人なドフラミンゴの態度に怒る名前を意に介さず抱きすくめた。名前が何を言っても朝まで離さなかった

この一件より、ドフラミンゴは上陸した島で昼間に女を見付けて来てはわざわざ船の、二人が使うベッドでセックスをし、名前が戻る前には全て片付ける。これを繰り返すようになった。そしてその晩は決まって名前を抱きしめて眠るのだ。それでも名前とセックスをすることは無かった






「…よォ、おかえり名前チャン」

『あぁうん、ただいま』

「何か買ってきたのか?」

『本だけ』

「そうか」



そうして今日も島に着き名前が居なくなった船室のベッドで女を抱いた。だがそれも早々に終わらせて昼過ぎには部屋の中に居るのはドフラミンゴひとりだった



『…なに』

「もう寝ようぜ」

『は?もう?何言ってんの、ご飯も食べてないけど?』

「いらねェ」

『あたしはいるから離して。眠たいなら勝手に寝てたら』

「無理だな」

『いやなんで』

「女抱いた」



部屋に入りベッドサイドに買ってきた本を置いた名前はそのまま、ベッドに腰掛けていたドフラミンゴに腕を掴まれた。名前が戻ったのは陽が沈み出した頃だった。今日、ドフラミンゴは部屋を出なかった。名前のあとを追いもせず、ずっとひとりで居たのだ。暇に殺されそうだと思ったが変わりの女を連れ込むことはしなかった



『…あのさ、だから何?だったらその女と寝ればいいじゃん。あたし宿とる、』

「やめろ」



遮って、掴んでいる腕を引き寄せ立ったままの名前の胸元に顔を埋める。だから顔は見なかったが、紛れもなくこの女は名前だ。帰って来た姿を確認したからでも声を聞いていたからでもない、本能が、この女が誰なのかを知っていた

髪の色が同じでも触り心地が違う。瞳の色が同じでも眼差しが違う。肌の色が同じでも匂いが違う。声と体温など完全に別人だった。唯一知らない喘ぎ声だけが、脳裏に名前を浮かび上がらせた。気付いたのは今日だった。セックスしてきた女達がみな一様に同じ色をしていたことに気付いたのは今日だった

だがドフラミンゴが気付いたのはそれだけだった

見せつけるように女を抱いたのがなぜなのかも、気にも留めない名前に苛立ったのがなぜなのかも、女とセックスした日の晩は名前をを抱きしめないでいられないのがなぜなのかも、名前とセックスする気にはならないのがなぜなのかも、彼にはわからない

名前の腰にまわした腕に力を込めてよりいっそう顔を埋める。目にみえる隙間はすべて埋め尽くしたかったのかもしれないが、彼にはわからなかった



「寝かせろよ」



ただ、名前のふたつの腕が自分へとまわらないことだけはわかっていた















おやすみ、お前はほんとのお馬鹿さん



(こころまで抱きたいだなんて)(気付けなかった)















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最初は気を惹きたかっただけなのにいつの間にか身代わりに抱いてたドフラミンゴ。遊びで割り切って抱けないのがなぜかにも気付けない



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