ドフラミンゴトリップ番外編
□往生際の悪いドフラミンゴ
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挑戦的な瞳に挑発的な唇。身体は誘惑的で髪の毛一本までもがおれを捉えようとしているみてェだ。これまで何度となく繰り返した行為。相手が誰であろうが関係無ェ。身体の造りなんざみな同じだろう。そう、これはただの処理。欲求不満なだけだった
そうしてはじまっただけの、ただの、処理
「名前チャン、もう一回だ」
『無理。バカじゃないの』
「全然足りねェ」
『ひとりでヤッてれば』
キツイ口調はいつもと変わり無ェがそれ以外はまるきり違う。指一本も動かしたくないとでも言うようにぐったりとベッドに沈む身体と閉じた瞳。もう三度目だ、名前チャンの体力を考えりゃ当然か
ただ本を読んでただけだった。ベッドに潜り眠くなるまで本を読む名前チャンのお決まりの行動を、横でじっと見ていた。伏し目がちの目元から伸びた睫毛の影、丁寧にページを捲る細い指先が時折くちびるを撫ぞる仕草。もう無理だな、思考によぎった頃には既に組み敷いていて、本がベッドから滑り落ちる音がした
これが初めてではない。ひとつ屋根の下に住む男女が清く正しくお手て繋いで眠るだけなんざあり得ねェ。それくらい名前もわかっていたようで、最初に押し倒した時には気持ちばかりの抵抗をみせたものの、実際はほとんどなし崩しに行為に及んだ
一度きりで終わるはずのない行為は名前が不快に思うラインに触れさえしなければ必要以上に拒まれることはなかった。二回が限界だとか中出しは無理だとか気に入ってる作家以外の本を読んでる時だとか。しかし今日に限ってはそのラインをことごとく踏み越えてやったのは、ただの気分、それだけ
「あァ、中出しはまだか」
『したらコロス』
「つれねェな」
『当たり前だ。ってかそれ以前にヤらないから』
「おさまらねェもん」
『きンも…っておい何押し付けてんの潰すぞ』
「イれてェ」
『…ちょっと…擦りつけるのやめろ』
「なァ」
『いやだから無理、一人でヤッてってば。なんなの今日ウザすぎる』
「……」
『無言で胸揉むなこら』
「イれてェ」
『振り出しに戻してんじゃねーぞ』
「なァ」
『…だからさ……』
不機嫌に歪んだ眉が快楽に歪む瞬間に一気に気分が高揚する。おれ以外を映すばかりの瞳におれだけが映る時間の長さに言い様のない感情が胸に湧く。果てる直前、滅多に呼ばないおれの名を必ず声にする。直後、息することも忘れるくれェの堪らねェ絶頂を迎えることができる
だからもう、
「他の女じゃ勃たねェ」
まァそんなもんはウソっぱちだが。誘われりゃそれなりに勃つにきまってる。名前チャンしか抱けなくなっちまった、なんてバカなことは言わねェ。が、いつしか名前チャン以外はつまらねェと知った。他の誰でもダメだった。とびきり顔が良い女でもダメ、とびきり色気のある女でもダメ、銜えられた日にゃ興醒めだ。おれからしたらこの世にこれ以上の笑えねェ話も無ェもんだ
他の誰とヤッていても名前と比べてる、だなんて
半分程しか開いてなかった名前の目がばちっと音がでそうなくれェに見開かれた。半端に開いた口は赤い舌を覗かせていて、突っ込んでしゃぶらせてェなと思えばまた少し下半身が反応した
『……なにその気持ち悪い嘘』
「フッフッ…ウソじゃねェさ」
『ヤりたい為に必死か』
呆れ果てた溜め息も今は力無く弱い。二回ヤッただけでも体力が底をつく名前に三回目を乞うたのはおれが溜まってたからなだけで、それ以外に理由は無かった。ふざけるなと言って、迫るおれを押し退けようとした拒絶の手にムカッ腹立って無理強いしたのは、ただ溜まっていたからなだけ、それだけ、
『…っ、ん…っ……あ……っあ…』
「もっと声、出せよ」
ひたすら強請れば結局折れる。余程身体がツライらしく、全身の力が抜けた名前チャンはただおれのいいように揺さぶられている。なのに支配欲は満たされない
「なァ、」
『……は…っ…』
「なァ、」
『…な、に……っ、やぁ…!』
「フッフッフ…なんでもねェ」
伏せられていた瞳が呼び掛けに応じてゆるりと開かれおれを捉える。それを確認してからいっそう強く腰を打ち付けて、ひときわ高くなる喘ぎ声に自然と笑みが深くなる。上り詰めていく感覚は確かなのに、なにかが留まりを知らねェ。興奮、している
「そろそろ、か…?」
『ン……ふ、あ…あっ………ら、…っ、や……どふ、ら…っはぁ……どふら、』
「…あァ」
イく寸前はいつも、シーツを掴むだけでは心許ないとでも言いたげに、縋るように手を延ばしてくる名前だが今はそれすら無理だと潤んだ眼差しが訴える。こんなことは初めてだ。いつだって直前まで頑なにシーツ以外には触れない名前の手がおれへと延ばされたとしても、それは苦肉の策とでも謂わんばかりの躊躇いを見せる。手を取ってやっても、それだけ。手のひらをギュッと握るだけ、絡めたりはしないし抱きしめたりもしない。身体中異様に熱いのに、そこだけ最後は冷めた気がしていた
『…ン…、はぁっ…』
「……、っ……」
痺れを切らした名前がもう一度口を開こうとするより先に身体ごと引き寄せて抱きしめてやれば、甘い溜め息にも似た吐息が耳元をくすぐった
腰だけじゃなく頭の天辺から足の先まで粟立つほどの快感が突き抜ける
「…名前……イかせてやるから…おれを、見ろよ」
『……どふら、どふ、ら……っ、ンッ…!…んぅ、っ、…っ……!』
おれにしなだれ掛かる名前に顔を上げさせ、食い荒らすように唇を犯す。冷たい部分なんざひとつも在りはしねェ、全身溶かされそうなくれェな熱を纏ったままイッたこのセックスはこれまでのセックスの中でも間違いなく一番に気持ちが良かった
欲求の捌け口、ただの、処理、
満たされたのが支配欲だけではないとしても、きっと、
直後、疲労と睡魔で半分意識をトばしかけてた名前チャンがおれの額にキスをして、優しく笑ってくれたとしても、これはきっと、
恋とはどんなものかしら
(なァマジで名前チャンしか抱けなくなっちまった)(きもい、寄るな触るなあっち行け)(だから溜まってんだよ)(アンタあの日から絶対四回以上ヤろうとするから無理なんなの、うざい)(……フフフッ…知らねェなァ…)
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恋だと認めたがらない馬鹿
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