ドフラミンゴトリップ番外編

□愛してたジュラキュール・ミホーク
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※死ネタ


「今日は聞かせておきてェことがあってな」

七武海の定例会議の終わりにこう切り出したドフラミンゴがやけに愉しそうで、後に続いた台詞に吐き気を覚えた。それだけは記憶してる



ミホークの世界は狭い。それは自分自身よくわかっているし、望んでもいた。剣と強者とそれ以外に時々 退屈を埋めてくれる何か。それだけあれば充分で、あとは根城で静かに過ごすか気まぐれに旅に出た。だが、多くを求めない代わりに必要としたものへの貪欲さは凄まじく、手に入れる為なら今の地位も置かれた状況もあっさり投げ捨てる危うさを秘めていた。容易に悟らせない表情の内側ではいつも情炎が灯っているのだ

出逢った頃はミホークの退屈を埋める女ではなかった。誰かに守られていなければ到底 海の上でなど生きられない女。そんな存在に興味は無いがそれでも幾度も顔を合わせたのはただの気まぐれと、この女に構えばもしかしたらドフラミンゴとやり合えるかもしれないと言う僅かな期待だったが後者は無意味だと早々に気づく。そのうちに、退屈を埋めることは出来ないままでも共に過ごすことに違和感を感じなくなった。それがいつ頃からかは定かではない。言葉数が少ない彼を無理に喋らせる真似はせず、前触れ無く訪れて去っていこうとも嫌な顔ひとつ見せない名前はミホークを不快にしたことが一度も無く、あまりにも密やかに馴染んでしまったせいだ

秋が好きだと名前が言うからミホークは何となしに秋島を巡る。名前が喜んだから立ち寄る島々で絵葉書を買うようになる。名前が心配するから城の裏に野菜を植えて食べる。会うたびに増えていくそれらはどれも興味無いもの達だったが長い月日をかけて習慣へと変わっていき、気づかぬうちにミホークの一部となった。だけどこれ以上を望んではいなかった。不思議とドフラミンゴのもとから連れ出してしまおうと考えたことはない。このままでいてくれたなら、それでよかったのに



音を立て激しく燃えさかる情炎がミホークと、名前を囲う。奪われた、などと思うのは莫迦げていて話にもならないがミホークにとっては確かに奪われたのだ。他者のものになるだなんて考えもしていない。だってとうの昔にミホークの世界のひとつだった。己れの世界に根をはり じわじわと勝手に育っていったくせに奪われた先でどうして笑っていられるのかと、彼以外には理解できない道理を振りかざす。名前の怯える表情と拒絶の心がミホークを逆撫でる。初めて向けられたそれらに怒りと、他にいくつかの感情が生まれたが圧倒的な憤怒に全て呑まれていく

どうしてなの。音に出なかったが名前の唇が形をつくる。ミホークは応えなかった。言葉にする必要がない。だって今までもそうだった。わかっているくせになぜそんなことを問うのかと、そんなことさえ思った。だがこの問いこそが二人を隔てる境界線なのだ。同じ場所にいて目と目が合っていても、同じ世界を生きてはいなかった。ミホークにはわからぬままだとしても

ミホークが黒刀を名前へ向けると彼女は震えた声でひとりの男の名を口にした。今度はきちんと音になったソレを聴いたミホークは冷ややかな視線を名前にぶつける。口にした男へ不満を募らせていた頃があっただろう。名前の顔を曇らせるのはいつだってその男だったろう。なのにどうしてそいつに縋る。どうしてドフラミンゴと生きる道を選んだ。どうして罪だとわからない
「なに、心配いらん。痛みも無く、綺麗なまま死なせてやる」
静かな終わりの合図だった

名前が悲鳴を上げるよりもずっと早く、ミホークが名前の心臓を貫く。口から血がこぼれ出て舌を打った。崩れる名前の身体を抱きとめて、たった今彼女を貫いた手で優しく口もとの血を拭う。温かな名前の体温と匂いを知るのは初めてに等しい。やはり弱い。溜め息が出そうなほどの脆弱さだ。しかし、例えば名前がこの世界で最弱だったとしても今となってはかまわなかった。血を拭き取り目蓋を下ろしてやればそれは、ミホークの腕に抱かれ穏やかに眠るただひとりの女だ

ほどなく、名前を探してやってきた男が二人の姿を見とめて絶叫か悲鳴かはたまた獣の咆哮にも似た声を上げるが、もはやミホークの心は揺らがない。生きるも死ぬもよし。殻になった瞳がまだ輝きを残していた最期にみたのは自分だ。名前はもう何処へも行かせない。この腕から離れても彼だけのものだ

「死して尚 おれの世界に居るお前を赦そう」
吐き気も失せてミホークは、心からの微笑みを名前へ向けた


















終末論



(ぼくの世界の中でだけ生きていて)


















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七武海の中ではミホークが一番サイコパス傾向にあれば良いのに。実は誰よりも執着心が強くて潔癖のくせに言葉にしないし放置する。だってそれは言わなくても通じてるもん!と思い込んでるヤベェやつだったら良い。

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