ドフラミンゴトリップ番外編

□とうらぶトリップその6
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「おや」
鶯丸は思わず目をしばたいた

審神者室を出てすぐの縁側にドフラミンゴと名前の姿が見えたので、自室から急須やら茶菓子やらを手にして近付いた。しかし、遠目からでは気づかなかったが珍しいことに名前はドフラミンゴに抱えられるかたちのままうたた寝していたのだ。ほんの少しだけどうしようか悩んだ鶯丸だったが、結局はそのまま近づいた

「なんだ、なにか用か」
「…うむ。茶を、と思ったのだがな…」
「あとにしろ」
「そうしよう」
声を潜めて話すドフラミンゴに合わせて鶯丸も小さな声で応える。どうやらドフラミンゴはこの場を動く気はないようで、名前を抱えたままぼんやりと庭を眺めているようだった
「座ってもいいか」
「名前チャンはまだ起こさねェぞ」
「かまわん」
「好きにしろ」
「ああ」
盆を静かに床に起き、わずかに距離を空けて座った。そよ風が肌を撫ぜる。今日はずいぶんと穏やかな天気で、鶯丸はそんな天気に合わせてのんびりと過ごしていた。鶯丸は前任の審神者によって鍛え上げられており、ドフラミンゴ達がこの本丸に訪れた時には本丸内で上位に入る強さを持っていた。だから、と言う理由ひとつだけでは無いが鶯丸は現在 出陣回数が少なく、今日のように何もせず過ごす日が他の刀剣男士よりも多いのだ。前任者から言わせると鶯丸は希少価値が高い刀剣男士であり、それゆえに彼は折れることなく、しかしその寸前まで追い詰められる出陣を繰り返してきた。希少価値が高い刀が強くあるのは前任者の矜恃をたいそう満たしていたことを鶯丸は知っている。しかし彼は前任の審神者に対して多くを思ったことがない。この人間はこういう性質であり、そこに顕現した自身はその人間のやりように命じられるまま刀として淡々と日々を過ごす。それだけ。顕現されては折れていく仲間達にはさすがに考えることもあったが、鶯丸がどうこう出来る事柄では無かった。押さえつけられていたのか諦めていたのかは自分自身でも分からないが、刀に限らず道具とは持ち主の気性でどうとでもなると、漠然とそう理解していた。“鶯丸”という刀は元来 道具としての性質が色濃く、人としての質を掴みにくいとされる。それには鶯丸自身も気付いていて、人に心を寄せやすい刀を見て己の持つ感覚とは違うのだなと遠巻きに感じることも多かった。そうであったのに、降って湧いて出たこの人間達に彼はとても興味をもったのだ

「名前様は疲れているのか?」
「ン?アァ、単なる寝不足だ。明け方まで起きて本を読んでたからな」
す、とドフラミンゴが名前の閉じた目蓋をなぞった。その指先があまりにも繊細に動くものだから、鶯丸にはドフラミンゴの指先が名前に触れたのか触れずにいたのか判別出来ない
「朝餉のときは普段通りに見えたが」
「賑やかな奴らに囲まれて眠気も吹っ飛んでたろうよ」
「なるほど」
少し前から、時間を合わせられる者は二人と共に食事を摂るようになった。鶯丸の出席率は刀剣男士の中でも断トツだったが、いつも二人から離れた席に着いていた。二人の近くに座りたいのだと大っぴらに主張する者達を差し置いてまでその座を奪う気にはならなかったからだ。もとより饒舌なほうではないし少々離れた場所から眺めているのが性に合ってもいたが、だからと言って今みたいな機会を逃すほど愚鈍ではない。少しだけ身を乗り出して名前の顔を見る。顔色は悪くなく、おそらく起きた時にはスッキリしているのだろう。ドフラミンゴはもとより名前の寝顔だっていま初めて見た。きっと他の刀剣男士達だって彼女の寝顔を見たことないはずだ。そもそも、人間の寝顔を“寝顔”だと認識して見たことのある者はいるだろうか。少なくともこの本丸に顕現されてからは一振りだってそんな場面に出会していない。ただの刀だった歴史を振り返っても記憶に刻まれてるかどうかわからない、おぼろのものだ
「不思議だ」
「アン?」
「人間の寝顔は初めて見た」
「ほう」
初めて見た。顕現してからは間違いなく。それなのに、どうして体の内側がざわつくのだろう
「不思議だ」

マジマジと名前を見る鶯丸に、ドフラミンゴは目を細める。この刀が常に自分と名前を観察していることは最初から気づいていた。何か言いたげなわけでもなく、ただ見詰めてくるだけ。それは景色を眺める様に似ていたからドフラミンゴは訝しげに思いながらも好きなようにさせていた。今だって不躾に名前の顔を覗く行為を咎めない。鶯丸につられてドフラミンゴも名前の顔を見る。刀剣たちの前はおろか、こうしてドフラミンゴに体を預けて眠るのだって珍しいからこの場を動かずにいたのだ。ここに居れば短刀辺りに見つかり、静かな時間は早々に終わるだろうと予想していたがまさか鶯丸がやって来るとは内心驚いたが
「…儚いな」
鶯丸がぽそりと囁いてドフラミンゴは視線を彼へ向けハッとする。胸の内を明かさぬ眼差しは なりを潜めそこに在るのは形は違うものの、ドフラミンゴが名前に対して抱くソレと変わらなかった
「…主よ」
久しぶりに名前から目を離した鶯丸はその視線をドフラミンゴに向けた。ドフラミンゴは目を合わせ、黙ったままで先を促す
「主たちはいずれ元の世界とやらに帰るのだな」
「アァ」
「なあそこに、俺も連れて行ってくれ」
このとき、鶯丸が隣に座ってからはじめてドフラミンゴは口もとに笑みを造った
「主にはずっと劣るが俺とて弱いつもりはないからな」

ドフラミンゴから見た付喪神とは、人間の姿をしているのに人間ではなく、人間よりも人間くさい部分を持ちつつも刀という道具であることに強烈なプライドを持っているなんともアンバランスな存在だ。それが面白いと同時に“主”と判断したものに対しての抗えぬ忠誠心がずいぶんと都合良く、好ましかった。そういった存在に対して前任の審神者ような扱いはありえない。顔も思い出せないが愚かな男だったとドフラミンゴは嘲笑う。目の前の、掴み所のないはずの“刀”でさえもこうであるのだから尚更だ
「守りたいって思うんだ。不思議だなぁ」
固い誓いを立ててなお、無垢な子供のように、ガラス玉にも似た瞳を丸くさせて名前を見る鶯丸に対してそれはもう満足そうにドフラミンゴは笑う

「フッフッフッ!アァいいさ、好きにしたらいい…!」












この胸が焦がれるので



(たったそれだけだったけど)(きみのために折れる存在であればいい)(そう思えた)




















ーーーーー
鶯丸は感覚で行動しそう。ろくに話したこと無いのにピンチの時は味方になってくれる美味しいとこ取りキャラだと思う。
この世界観で言えば刀に意識が寄り気味だから主であるドフラミンゴの感情にある意味素直に影響されてる、みたいな。
そしてサラッと抜け駆けしそうだなと思ったらこんな話になった。

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