ハイスコア×ワンピース
□イキイキしてるさよ
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『帰れ!!』
京介が来た時ですら言ったことのないセリフを開口一番に吐き捨てたあたしに、モビーの船内はにわかにどよめいた
「偶然にもようやく会えたっていうのにひどいこと言うのね」
『確かに会えたこと自体は超嬉しいけど、さよが此処に来たこと自体は偶然じゃないよね絶対』
マルコさん達が見慣れぬ船が近付いてくると言ったのは約10分前。甲板に居たあたしは、念の為と言ってサッチさんに手を引かれ船内へ退散させられ…る、はずだったけど。潜水艇であるその船のハッチから、見覚えある人影が頭を出してるのをうっかり見てしまいそれどころじゃなくなった
慌てて迫り来る船のできるだけ近くまで走り寄るあたしは、周囲の制止の声に被せて冒頭のセリフを叫んだ。そして一瞬ののちにどよめく船内。でもそんな体裁気にしてられない。だってそうでしょ、なんてったって全ての原因、諸悪の根源がやって来たんだから
「そんな、偶々よ」
『……ねぇ…じゃあ、さよが手にしてる、めぐみがメガネ君狩りで使ってた悪魔のアイテムみたいなやつはなんなの。何に使う気なの。さよが持つとめぐみ以上に冷や汗しか出ないんだけど』
「これ?これはウチのキャプテンさんが危ないから持って行けって、」
「言ってねェ」
さよのセリフを遮ったのはハットにパーカー、ジーンズというラフな格好をした目の下にゴツい隈をつくったお兄さんだった。どうやらさよ以外の人達も、モビーへの乗船を許可されたらしい。お兄さんを警戒しつつもあたし達に気を遣ってくれてるらしいマルコさん達は、やや遠巻きにこの状況を眺めている
その中でうちのクルーの大部分が頬を染めてさよを見ていた。あ、ハルタくん今さよを見ながら「可愛いなァ」って言ったな。口の動きがそうだった。周りにいる人達が高速で頷いてる。さすが首高3大美少女の一人、隊長をも虜にさせるとは。喋らせなければ無敵だな
「ンなもんどっから持ってきた、船内には無かったと思うが?」
「これはこの前の魔方陣から出て来た子のをブン取っ…貰ったの」
「………いまのテメェの発言について長く話し合いたいが…ひとまず簡潔に聞く、ブン取った云々もだがまず第一に船内での魔方陣使用は禁止してるのを忘れたわけじゃねェよな」
「見慣れない魔方陣だったからつい…」
「…見慣れた魔方陣とかあんのかてめェ…」
…うん、喋らせたほうが無敵だったよねそうだよね。というか、この話の流れ的には彼がさよがお世話になってる船の船長さんなのかな。さよの発言に引きまくってるっぽいけどそりゃそうだよね。しかも、
『おいこら、さよアンタなに嘘吐いてんの』
「チッ」
『舌打ち!?』
「キャプテンさん、私あれほど名前の前で余計なこと言わないでってお願いしたのに」
「そうか、やっぱりコイツが名前か」
さよのコメントを丸ごとスルー…だと…?この人…出来る…。じろりと睨めつけるようにあたしを見た“キャプテンさん”は完全にさよをフレームアウトしてる。…さよってば日頃どんだけ“キャプテンさん”に迷惑撒き散らしてんの?もしかして魔方陣だけじゃないのかよ。ていうか、基本的にウチの人達は(京介とミッキーを除いて)そう簡単にスルー出来るようなレベルの子たちじゃないんだけど。それをスルーしちゃうとか、もう限界感じちゃってる証拠じゃないの?ねぇちょっと
…まさかあの目の下の隈はさよに悩まされたせいで作られた隈じゃないよね…?あり得そうでこわいんですけど!ひー!だとしたら申し訳なさしか湧かないよ、どうしよう!訊けない!
「…おい、名前…」
『はっはいキャプテン!』
「……トラファルガー・ローだ、ローでいい」
『はっ!す、すいません!ローさん…ですね』
「あァ…ところで名前」
『は、はい……なんでしょう…?』
「この解剖屋を引き取ってくれ」
『そんな名前の知人はおりませんので了承しかねます』
だけどこれはまた別の話だと思うんだ。あたし、ノーと言える日本人目指してるし
「悪魔の実を食ったヤツに出会うたびにソイツの体の中身をねだってくるんだが」
『なんでも欲しがるお年頃なんです』
「ダメだと言ったらうちのクルーの毛皮を剥ごうとしたんだが」
『(…毛皮?)……興味が湧いたモノには人よりちょっと強引に出ちゃう子なんです』
「医療室の薬がオリジナルブランドにすり替えられていたんだが」
『(さよチンキ…)……役に………立ちたかったんです……』
「怪我したやつを見ると真っ先に迷わずメスを掴み取るんだが」
『………』
「いつの間にか得たいの知れねェ物体のホルマリン漬けが船内の至るところにディスプレイされてるんだが」
『……………』
どうしよう、思ってた以上にはしゃいでるぞさよのヤツ。海賊より欲望に忠実じゃないか。謝っても謝っても足りない気がする…が、だがしかし。白ひげ海賊団にさよなんて招いたらパニック必須だ絶対無理だ。ごちそうしか居ない。さよにとってごちそうしか居ないよ。……ローさんには悪いけど、さよの身元引き受け人はまだ当分ローさんのままで居てもらわないと
『人の道から外れないよう、ウチのさよを宜しくお願いします』
「ここまで言わせてその返しとはお前もなかなかだな…だいたい海賊に言うセリフじゃねェよ」
『手に負えない時は呼んでください、すぐ駆け付けますから』
「駆け付けるくらいなら最初から手元に置いといてくれ…………いや、いい…わかった、お前が苦労してんのはコイツの話から察しがついていたからな…」
何を聞いてたのかかなり気になりどころだけど敢えて訊かない。というか訊かなくても身に染みてる。さよチンキの餌食になる人が現れるとなぜかあたしまでボスから怒られたり心霊スポット(強制)巡りで(無理矢理)呪われたり不気味なホルマリン漬けについて延々熱く語られたり…。…さよのヤツただの悪党じゃないか…マジか、海賊だってもっと爽やかだよ…
「…しょっちゅう会いに来ることになるかもしれんがまァその時は頼む」
『…あ、はい……すいません、ありがとうございます…あ、あたしのビブルカード渡しておきますね。好きなときに来てくださって大丈夫ですので』
「あァわかった」
「まあ、それがビブルカード?初めて見たわ、もっとよく見せ、」
『さよには触れさせないでください』
「あァわかってる」
やべぇ、恋する乙女のようにキラッキラ輝いてるさよの瞳が怖すぎる。なにする気だよ…。まあ、ローさんに渡しておけば安全だとは思うけど。なんかローさんはボスっぽい安心感があるしな。テンション全然違うけど。でもとりあえずは、ローさんが居てくれたらさよとも会いやすいかも!
『そう言えば、結局さよは何しに来たの?』
「えぇ、不死鳥の生き肝をちょっと」
『二度と来るな』
そんなこともなさそうだ
あなたの笑顔が眩しくて、あたしはいつも泣きたくなるの
(じゃあ羽をむしり取るだけでいいわ)(じゃあ、じゃないから!させないよ!?)(そういや最近“不死鳥マルコ”についてやたら訊いてきてたな…)
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さよこわい
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