バサラトリップ

□ふたりの力の差が凄すぎる
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「ほんっっ…とうにすまねぇ!!」

『うん、いやだから大丈夫だって。仕方ないよ、事故みたいなもんでしょ』

「いやこれは俺のせいだ!俺が悪ィ!謝って済む問題とは思っちゃいねえが、すまねぇ!悪かった!」

生まれて初めて土下座してる人を生で見ただけでなく、生まれて初めて土下座されました






事の起こりは数時間前、すっかりパイレーツオブ西海の一員になったあたしは船首ギリギリの所で船の外に足を投げ出すようにして座り釣りをしていて、元親は座るあたしの真後ろにつっ立っていた。とは言っても航海には出てなくて港に停泊してる船の上での話だけど。わざわざ座りづらい船首に居るのはあたしが何事も形から入るタイプで、海賊イコール常に船首に居る、みたいな妄想に浸りたかったから

元親は普段、海の男らしく明け透けしてて豪快で好奇心旺盛でたいていの事なら笑い飛ばせる大きな器を持っていて、でも一国を束ねるに相応しい思慮深さも兼ね備えるなかなかに良い男だ。しかもあたしと出会ってからはきちんとお風呂にも入るようになったから、最近じゃ石鹸の香りというオプションまで装備してる

聞いた話だと、元親とその野郎共は今まで航海の間は船にお風呂が無いから手拭いで体を拭く程度だったらしい…って、えぇえぇぇー…。それだって毎日キレイに拭いてたかどうかは彼等の性格を知る限りだいぶ疑わしい。かと言って、国に戻って来て毎日お風呂に入るかってなるとぶっちゃけ帰国した初日に入るだけで、後は思い出した時にって感じだったらしい

…いやいや有り得ないだろ。お風呂に入る事って思い出す思い出さないの次元の話なの?普通にドン引き。リアルばい菌まんか。そりゃ臭いわ。つーか元親お前そんなんでよく平気で握手求めてきたな。ふざけてたのか。初対面で抱き止められた時に反射的に息を止めたあたしよくやった。てゆうか、船自体が臭い気がしてたのはあながち間違いじゃなかったんだね。この船は汚物製造船かなにかですか

だいたい、元親なんて半裸がデフォのくせに(野郎共もそれに憧れて半裸が多いとかきもい)ちゃんと体洗ってないってどうゆうこと?臭くて不潔なくせに剥き出しってお前。汗の匂いが男らしくて素敵!なんて言うのは、清潔っていう基盤があってこそだからね。不潔な男の汗なんてただ汚ないだけだからね。それとも何か、匂いすら武器にして戦うつもりか(妖しい意味ではなく)まあさすがに本人にはここまで言ってないけど。拗ねそう

そんな元親と野郎共だったけど、四国に着いてからあたしが毎日お風呂に入れ清潔にしろついでに船もキレイにしろって言い続けた甲斐あって、今じゃ皆さん風に乗せて汗と石鹸の香りを撒き散らす爽やか体育会系男子に生まれ変わりつつある。まあこれは、あくまでも匂いの話であって外見の話じゃないけど。外見は相変わらず悪いままだ。ガラがって意味でね、うん

(こんな昔に毎日お風呂に入ってしかも石鹸まで使えるのかって疑問は、バサラだから、とギャグだから、で納得してほしい)

…あれ?なんの話してたんだっけあたし。…ああそうだそんな感じで中身の良さが、不潔って一言でプラマイゼロってかむしろマイナスになっちゃうような元親なんだけど、彼はわりと心配性な面がある。これを言う為だけにこんなにも彼(とその仲間達)を貶したのはご愛嬌でお願いします。だってあたしの苦悩…いや苦鼻…?の話を聞いてほしかったんだもん

そんな心配性な元親だから、船首で釣りとかすごい勢いで拒否られた。危ないってもっともな事を言われて拒否られた…がしかし、海賊になったからには船首とは切っても切れない絆で結ばれる運命なわけだから、あたしだって譲れない。駄々こねまくって大騒ぎした結果、動いてない船でかつ元親が側に居る時を条件に見事、船首を勝ち取ったのだ。船の縁に座る事にも大反対だっけど、これも後ろに元親が居ればいいよってことで話がついた(心配性のくせに甘い男でもある)

そんなわけで、なんとか釣りを始めたんだけど正直釣りなんて小さい頃に釣り堀で経験した程度しかなかったから、ほぼ初体験だった。初めてだし浅瀬だし、大きい魚は期待出来ないと言われたけどこういうのは気分が大事だから全然構わなかった

暫くまったりお喋りしてたら、竿がピクピクと反応しはじめた(性的な意味ではなく)。慌てるあたしに元親が落ち着けと言い聞かせ、多少もたついたけど元親のアドバイス通りに竿を引くと見事お魚が釣れたのだ。言われてた通りの小魚だったけど、ほぼ初体験の、しかも海釣りで食べられる魚を釣った(釣り堀では確か、釣った魚を池にリバースしたはず)あたしのテンションは当然上がる

元親もそんなあたしにつられたらしく、良かったな!と笑顔で言ってくれてそのままの勢いで二人、ハイタッチをかました。やってやったぜイェーイ!的な雰囲気で(元親がハイタッチを理解したのは多分ノリだ)。そこでついに事件は起こった



『元親!やった!釣れた!』

「おぉ!やったな!(小っさ!)」

『食べれる!?これ食べれる!?』

「おう!食える食える!(むしろ丸飲み!)」

『うわー!やったぁ!ちょ、元親これ半分こして食べよう!』

「!おおおう!(かっわ!でもンな小せぇのをどうやって!?)」

『Hey!元親、hey!』

「へ、へい!、?…?(なんか聞いたことあんぞコレ)」

ーーゴキッ

『……』

「……」

『……』

「…っ…ぎ、ぎゃあぁあぁぁ!?」

『〜〜っ〜、…っ!?』

「名前ー!?」



…うん、いっそ清々しい音と共に、腕に指つくんじゃね?ってくらい反り返ったわけだ。あたしの手が反り返ってはいけない所まで反り返ったわけだ

いやね、手首が柔らかい人で当たり前にそれをやってのける人もいるよ。でもね、あたしはそんなん出来た試しがないわけですよ。元親の絶叫が響く船の上で、あたしは激痛に膝から崩れ落ちた

で、元親に抱えられてお城に戻り手当てを受け、ようやく冒頭のやり取りに戻るわけだ



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