バサラトリップ
□あまりの勘違いにお手上げなヒロイン
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ミラクルな事情により腕(と手のひら)を負傷してから三日、あたしは元親と会っていない。なんせもの凄く怒っているのだ。そりゃあもう怒髪天突き抜けましたってくらいに
……あたしではなく、女中の皆様が…
「名前様、どちらへ行かれるおつもりで?」
『!…お菊さん……いえ、ちょっとお散歩に…』
「…………そんなに元親様のお側にいらっしゃりたいのですか…」
『え?や、え〜っと…』
「いえ、みなまで言わずともこの菊めには分かっておりまする。恋とはそういうもので御座いますもの」
『は?』
「恋は盲目とはよく言ったものですね。怪我を負わされても尚、会いたいだなんて…」
『え?い、いえ…あの、』
「ですが許しませんよ、この菊、鬼と言われようとも名前様をお一人で元親様のもとへは行かせられませぬ!斯様な細いお体に怪我を負わせるだなんて!元親様はいったい何を考えておられるのか…!」
『お菊さん、何度も何度も言いましたがこれは本当に事故でして元親は悪くな、』
「あぁこの菊、元親様が幼少の頃よりお仕え致しておりましたが好いたお方に手を上げるようなそんなろくでなしに育っていただなんてあまりの衝撃にもはや涙も流れません!」
『いえいえだから…』
「しかも!おにぎりをたんと召し上がって頂いても治らないほど酷い怪我だなんて!」
『……』
この三日、ずっとこの繰り返しでさすがにうんざりしてきた…。それもこれも、怪我した私をまるで重傷患者を扱うかのように血相変えて城まで抱えてきた元親が悪い(あれ、結局は元親が悪いんじゃん)
当然そんなバタバタしてれば城に居る皆様に筒抜けなわけで、手当て(ただ包帯で手を固定されただけ)が終わったあたしの様子を心配して見にきた女中頭のお菊さんをはじめ女中の皆様が、怪我した理由を聞いてブチ切れたのだ
男が女に怪我を負わせるなんて!ひどーい!サイテー!元親様サイテー!って感じで一瞬にして城中の女性陣から避難を浴びせられてしまった半泣きの元親を慰めつつ、元親は悪くないと弁解をしたあたしの何を勘違いしたのか。女中の皆様はあたしが元親の事が好きだから庇ってると勘違いしてさらに元親を責めた
見損ないました元親様!名前さんのお気持ちを考えた事がお有りで!?怪我してなお元親様を庇われてらっしゃるのに元親様ときたら!ひどーい!サイテー!元親様サイテー!………これぞ悪循環。そしてこの日から今日まであたしと元親は一切の接触を禁じられている
ちなみに野郎共はと言うと、こういった場面では全くの役立たずっぷりを発揮して遠巻きにおろおろと成り行きを見守るだけだった。なんてゆうかうん、大将が大将なら部下も部下で、この国の男は尻に敷かれるタイプが多いとみた
あと気になったのが、怪我をしてから今日までのあたしの食事メニューがおにぎり一択という事だ。食って力つけときゃ治る!って気持ちはわからなくもないけど、何故おにぎりオンリー?しかも、あたしがおにぎりを食べるごとに怪我した手を確認しては、まだ治らない何故治らないと言われる始末
いやいや、おにぎりにどんな潜在能力が秘められてるんですか。仙豆か。仙豆なのか。女中の皆様の話を聞けば、あたしが毎食おにぎりを食べているのになかなか怪我が治らない(いや普通だろそれ)って事で元親がさらに落ち込んでいるらしい。えぇー…ンな落ち込まれても…
『あのう…お菊さん、あたし別に元親の事をそういう目で見てるわけじゃ……ってゆうか、今だってただ暇だなぁと思ったから散歩にでもと……元親に会いに行こうとは…いえ、会いたいは会いたいんですけれど。やっぱり元親と居るのが一番楽しいですから、でも今は無理強いしてまでとは考えていませんし(慰めんのめんどいし)』
「名前様…!あなたって人は最後まで元親様を庇われて…!」
『いえだから、決して庇ってるわけじゃ…』
「いいんです最後まで仰らなくとも!お辛いでしょう!大名の出でなければ正室はおろか側室ですら難しい時世ですものね!消極的になってしまうその心中、お察し致しております!」
『……は?』
「ですが!わたくしや女中をはじめ城の者、延いてはこの国の多くの民は名前様を応援致しております!それに名前様は天女様とも海の化身とも噂され、近隣諸国にその名を轟かせておりますもの!武家の後ろ盾が無くとも反対など誰が致しましょう!」
『……………は?』
………………………は?
なにこれ、は?以外の言葉が出ないんですけど。は?え?なんて?この人いまなんて?正室?側室?てかなに、天女様?海の化身?…………………はぁ!?
な に そ れ こ わ い
なにそのキモい話の数々。つーか、お菊さんや女中をはじめ城の者、国の多くの民達、暴走しすぎだろ。こわいよ、こわい。もはや貴方達が怪我しちゃってるよ。やばいって、お菊さんガチだもの。目がガチだもの!たぎってるもの!
えぇえぇぇー…やだもう勘弁してよ。あたしただの一般ピーポーですから。天女とかあり得ませんから。どこの世にコンビニ通いの天女がいるってよ。海の化身とかもあり得ませんから。そもそもあたし泳げないからね。浮き輪に命預けまくってるからね。こえー戦国時代こえーってかこの世界こえー!
あぁもう、なんであたしばっかりこんなめに遭わなきゃならんの!つーかあたしは渋好みだからもっとダンディーな人がいいしね!?それもこれも、全部元親の野郎のせいだ。きっとそうだ。くそう、腹立ってきた
『………………あの……あたし、今すぐ元親のもとへ行かないと…………』
「名前さん!……………いえ……わかりました…。わたくしも二人の仲を裂こうとは露ほども考えておりません、ただ元親様に己の愚行を振り返り反省して頂きたかっただけのこと…ご案内致します…」
『オネガイシマス』
あたしたち、もう戻れないところまで来ているね
(元親ー!!)(!名前!お前、怪我は、)(うるあぁぁー!!)(ぐふぉっ!?)(てめー!変な噂流れまくってんのなんで教えてくんなかった!)(う、噂……?)(あぁ名前様、元親様にお会いしてあんなにもイキイキと…!)
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まさかのモブキャラオンリーww
噂の内容を知らないのは当人だけ(^ω^)
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