バサラトリップ

□ようやく飛び出す
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元親が謎の鬱陶しさを見せた挙げ句に不貞腐れたもんだから急遽、あたし達は直ぐにでも四国を出て日ノ本巡りをするべく準備をすることになった

ろくでもない噂が出回ってると聞いた後に四国を出るなんて暴挙でしかないけどでも、これ以上元親がめんどくさいことになるのは勘弁してほしいし前々から約束してたしこの世界をもっと知りたいと思わなくもない。そんなわけで船はいつでも出航出来るそうなので、後は元親が四国を空けられるレベルの執務を終わらすこととあたしの準備次第のようだ



『って言ってもあたしの準備もそんなたいしたもんじゃないからなぁ。問題は元親だよね』

「そんなに掛かりそうなのかい?」

『うーん…さっき元親の部屋チラ見したらウチのピー助と見知らぬ小猿に煽られながら机の前で唸ってた』



ついさっき頑張ってるかどうか声を掛けようかと元親の部屋を覗いてみたら、机の前に座る元親の後ろ姿と机の上に山積みになってる書簡?らしきものをバッサバサ仰ぐ我が家のオウム様と元親の手に筆を握らせてキーキー騒ぐ小猿様がいらっしゃった。そんなアニマル達に、うるせぇなお前ェら!俺だって頑張ってんだよ見てわかれよ!と本気で張り合う元親に掛ける言葉が浮かばなかったのでそのまま引き返したんだけど



「あっそれ夢吉だ絶対!」

『ゆめきち…って小猿の名前?』

「そう俺の友達!すーぐどっか行っちゃうんだよ!」

『……そう…(なにこの子人間の友達居ないの?てゆーか友達にすぐ撒かれるの?)』

「名前なんでそんな憐れむような目で俺を見る!?またヒデェこと考えてるだろ!」

『考えてないよ、夢吉はきっと慶次がめんどくさいんだろうな考えてた』

「ヒデェ!!」



夢吉はそんなヤツじゃない!と騒ぐ慶次は当然のようにあたしの部屋で寛いでいる。客間とか多分あるはずなのに、準備をするって言うあたしに着いてきてそのままだ。その様子を、お菊さんをはじめ侍女さん達が昼ドラを観るかのよう食い入って見つめてきたことは触れないでおいた

あの人達また勘違いしてる。あの顔はあたしと元親と慶次の泥沼トライアングルを期待してる顔だった。事実、あたしは元親様派とか慶次様派だとかヒソヒソ言ってんの聞こえたからね。まさかの派閥?ていうか、なんだそれあたしどんな悪女だ。けど否定したところで聞く耳持たないのは既に確認済みなので放置するしかないのが悲しい



「今日の出発は無理かなー」

『かもねー…てゆーか慶次ほんきで着いてくる気?』

「えっなんだよ、ダメ?」

『まあどちらかと言えば』

「なんで!?俺行く気満々なのに!」

『いやー、あたしはイイんだけど慶次の体裁的に…ねえ…?(ニートのくせに旅行行くのかよ)』

「だからー!俺その“にーと”ってやつじゃねぇよ!」

『はいはい恋の伝道師なんでしょはいはい』

「だから違…わないか…。むしろなんかそれ格好良くねぇ?」

『格好良く無え』

「よし!俺これからは恋の伝道師として日ノ本をまわるよ!」

『ぶっ!本気!?』

「本気本気!日ノ本中の恋を応援したいんだ!」

『スケールでか!』

「そしたらまつ姉ちゃんに見つかった時も怒られないで済みそうだし!」

『そっちが本音っぽいな!…ん?“まつ姉ちゃん”?』

「俺の叔父の嫁さんでさ、普段はまあまあ優しいほうだけど怒るとおっかねーんだよ」

『その口振りだと現在進行形で怒らせてるよね。いやそもそも、普段はまあまあ優しい人をなんで怒らしたの』

「それがさー、別になんもしてないんだけど俺が家を出ようとするとすぐ怒りながら止めてきて、振り切って家を出たら出たで探して見つけに来ては怒るんだよな」

『え…』

「今回は家出る時はバレずに上手くいったけど、もう俺が居ないことに気づいてるだろうから見つかったらまた怒られちまうんだろうなー」

『……』

「でもさ、最近はずっと家出たらまず親友ンとこ行ってたけど今回は元親ンとこだろ?しばらくは見つからないと思うんだ」

『……慶次…』

「んー?」

『今すぐ帰れこの親不孝者が!』

「いきなりヒデェ!つーかまつ姉ちゃんは親じゃねぇよ!まあ似たようなもんだけど!」

『酷くない!そりゃまつ姉ちゃんも怒るって!働けよ!“別になんもしてない”じゃない!むしろなんかしろこのニート!』

「またにーとって言った!だ、だからこれからは恋の伝道師として…!」

『日ノ本軟派行脚を仕事だって言い張る気か!』

「な、軟派じゃ、」

『言い訳しない!』

「ごめんなさい!(名前の背後にまつ姉ちゃんが見える!)」

『わかったら早く帰って謝りなさい。そして働け』

「う…そ、それは……」

『(どんだけ恐ろしいの“まつ姉ちゃん”)ひとりで怒られるのが恐いならあたしもついてくから』

「ほんとかい!?」

『その代わりこれまでのニート人生に関してもきちんと謝って今後の職について話し合いなよ?あたし達についてくるのはその時にまつ姉ちゃんの許可を貰ってからね』

「わかった!」



……あたしなんで今日知り合ったばっかりの大の大人の人生の世話してんだろ…。“まつ姉ちゃん”の苦労がありありと浮かんでしまって思わずやらかした感満載だ。というか、あたしだってぶっちゃけお手伝いさん的な簡単な仕事しか日々やってないんだけどね。まあ慶次が気づいてないからいいや

それにしても、“まつ姉ちゃん”ってどんな人だろ。意味も無く一緒に怒られる身としては、出来れば視覚に優しい方であってほしい。見るからにおっかないオーラを振り撒くオバサンだったらマジビビるから無理だ。あたし達との日ノ本巡りの許可を貰うべく張り切り出した慶次を横目に、あたしは早くも自分の発言に後悔してる

けれど、それから数時間後に両肩に鳥と猿を乗せて現れた桃太郎気取りな若干やつれた四国のトップが安芸に行く手筈を整えたと言ったことで、あたしと慶次のまつ姉ちゃんごめんなさい計画は先伸ばしになってしまったのだった。喜ぶ慶次に呆れつつも、ちょっとほっとしたのは内緒だ















城を出る直前、お菊さん達に興奮気味でマメに手紙を書くよう言われた。それも元親と慶次の動向メインで。うん楽しそうでなによりです。でもあたしにだって選ぶ権利はあると思うので、今回の日ノ本巡りでステキな人に出会って連れ帰れたらいいなとか密かに企んでたりする




















どうか世界とは目が眩むほど美しいものでありますように



(俺動物キライになりそうだ…)(動物にしごかれて仕事する一国の主って…)















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お菊さんは元親派



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