バサラトリップ

□日輪の民と出会う
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元親が安芸に行くと言うので船はその通りに航路を進んだ。はしゃぐ元親と慶次を尻目に、あたしは初めての船旅で酔っていた。安芸に着く頃にはもう最悪で、顔は真っ白になっていたらしく元親と慶次もさすがにはしゃぐのを止めて心配していた。陸に上がれば楽になると言われても、まず陸に上がる元気がない。かと言って船の中に居たらいつまでも具合が悪いままだろうと、半ば強引に元親に担がれて船を降りた。汗くさい。でもそんな失礼なことを言える立場じゃないし、まず声を出すのもキツイ。地面に立ってみたら体がグラついて気持ち悪さが増したのであたしはまた元親に担がれた。自分で歩くのは絶望的だけど、元親の背中に揺られるのも正直ヤバい。何をしても具合悪い。まさに八方塞がり
「名前、顔真っ白。大丈夫か…?」
心配してくれる慶次にゆらゆらと手を振って返事する
「まさか船が苦手だったなんてな」
慶次はそう言うけど、考えてみたら船に乗って長旅なんて今までしたことなかったから知らなかった。あんまり乗り物酔いになったことないけど、船はダメだったみたいだ
「…な、なあ名前、船…嫌いになっちまったか…?」
『……んーん…』
元親の表情はわからないけど、声がとんでもなく弱々しい。明らかに不安がってる船好きに向かってキライになったなんて言えないよ…。そうなのか…?とひたすら弱々しい元親に、これ以上の返事は出来そうにない。喋ったら吐きそう。あと少しで目的地に到着するそうだから、そこで休ませもらってそれからゆっくり今後について話し合いたい。気持ち悪さと闘いながらそんなことを考えてたあたしだったけれど、元親が会おうとしている人物が一国の主だと失念していた。失念していた、と言うよりはまさかあたしを連れてそんな偉い人に会おうとするなんて馬鹿なマネしないと思ってた。グロッキーながらも立派なお城を目の前にしたらぎょっとする

『……え?待って元親、この立派なお城、なに?』
「毛利の城だ」
『いや…え…え?このお城に住んでる人に会いにきたの…?』
「おう」
それがなにか?みたいな空気で返事してくる元親に、あたしは改めてこの人も一国の主なんだと認識した。そうだよね、お殿様の友達はお殿様ですよね。そう言えば毛利って聞いたことあるわ。そうだそうだ毛利様ねはいはい
『ちょっと…降ろして…』
「なんでだ?急にどうした?」
「いややめとけって。まだ顔真っ白だぜ?」
慶次が心配げに言ってくれても、さすがにこれからの事を想像すると元親の背中には乗っていられない
『大丈夫…元親、降ろして』
「け、けどよぉ…」
『だいぶラクになったから』
「…気をつけろよ?」
『うい。……ウッ』
「名前!?」
「ほらみろ!大丈夫か!?」
降りたはいいが未だに目眩が酷くてふらつく。やばいじゃん。一向に良くなる気配が無い。力が入らなくてごつい野郎二人に支えてもらった
『きもちわるい…やば…』
「なあやっぱり背負うって!」
『…い、いい…』
「なんて!?声出てねーよ!?」
『う、うるさ…』
耳もとで叫ぶんじゃねー!…って心の中では大声出してるんだよ。頭がぐわぐわするから大きい声出さないでくれ。と言うかもうあたしを置いて行ってくれ。無理だよ、こんな状態で偉い人に会うなんて無理だよ。あたしのことはそこらの茂みにでも寝かせておいてくれてかまわない。あー…死ぬかも

「喧しいぞ貴様ら」
やいやいしていたあたし達…ってか、元親と慶次に割って入った凛とした声。閉じていた目を開けたら、目の前には細身の綺麗な顔をした男の人が立っていた
「よお毛利!」
「久しぶり!」
えっ…まさかお殿様?元親と慶次がフランクに挨拶したこの相手がまさか毛利様?ええ…自らお出迎えしてくるとは…。そんなにこの人たちと仲が良いのだろうか?ぜんっぜん笑いもしなければなんなら完全に二人を無視してるようにしか見えないけど。というか、なんかあたしのこと見てない?
「…女」
『え、あ、は、はい…!』
「そなたが日輪の遣いか」
『………なんて?』
えっなんて?具合が悪すぎて幻聴が聴こえたのかな?感情を削ぎ落とした顔で電波なこと言うなよ
「あちゃー、毛利にはそんなふうに伝わってんだ」
慶次が言うには、前に話してた各所へ伝わるあたしにまつわる不気味な噂話のひとつが“日輪の遣い”というものらしい。あちゃーじゃねえよ。慶次はなにも悪くないけどさ、なにこれ勘弁してくれ。毛利様があたしから目を離そうとしないんですけど。毛利様が“日輪の遣い”に対してどんな感情を持ってるのかまったく読めないが、こんなぐだぐだな状態の女だったのだから良い印象は与えてないだろう。気持ち悪くて頭も働かないし、いったいどうしたらいいの

「…日輪の遣いよ、顔色が悪いな」
『え』
「鬼と風来坊…貴様ら遣いになにをした」
「え!?な、何もしてねえよ!?」
「名前な、船酔いしちまったんだよ!」
「……」
ぜんっぜん信じてもらえてなくない?毛利様すっごく冷たい顔して二人を見てる。二人がなぜかやたら慌ててるから余計に疑われてるっぽい。いやそれよりも、もしや気を使ってくださったのかな?顔色悪いって、心配してのお言葉って捉えていいのかな
『…あ、あの…』
スッと切れ長の目がこっちを見る。偉い人の雰囲気がムンムン溢れてる。元親と違いすぎ
『…は、話しても…?』
「申せ」
『…二人の言ってることは本当です。初めての船旅で…具合が悪くなってしまって…お恥ずかしい限りです…』
「名前はなにも悪くねえって!」
「そうだぜ!仕方ねぇじゃねーか!」
やめろおい。今そんなフォロー求めてないから。本気で思ってるわけじゃないから。お殿様の前でこんな姿晒してるからへりくだってみたんだよ。わかってよ
「……日輪の遣いよ、休め」
『…え』
「話を聞きたい。体調を整えよ」
「さすが毛利!話がわかる奴だと思ってたぜ〜!」
「……」
ねえ二人嫌われてない?元親と慶次が何か言うとただでさえ冷たい表情がさらに凍るんだけど。なんで二人はそんなに平気そうなの。その大きい身体に心臓入れ忘れてるんじゃないだろうか。三人の関係性が気になるけど、それよりも休ませて頂けるのがありがたくてたまらない
『ありがとうございます助かります…』
お殿様に会うなり倒れ込むとか打ち首モノかなって少しこわいがそこは元親と慶次がどうにかしてくれるはず



「女…貴様が日輪の遣いと言うのなら、なぜ我のもとに降りてこなかったのだ…。よもやそのような下賎な鬼に捕まるとは…!」
小一時間ほど休んで復活したあたしに、開口一番この仕打ち。海坊主だの日輪の遣いだの、あたしは一体何者なのよ?しがない日本人ではなかったの?
『…いや、えっと………はい…すいません…』
それでも毛利様があまりに真剣過ぎたから思わず謝ったよね























彼の神は何処に



(毛利はお天道様が大好きなんだ)(へ、へえ…まあ確かに太陽は無くてはならないものですよね…)(…!そなたやはりまことに日輪の遣いなのだな)(ええ…)




























ーーーーー
これ、6年ぶりの更新です…

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