氷帝学園で過ごす

□5月、部活にて
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※宍戸視点




「……はあ…」
制服から部活のジャージに着替えながら俺は重たくため息を吐いた
「暗いで自分」
「おお、忍足…。お前のクラスもコレ貰っただろ?」
「ん?あー、遠足のお知らせな。もろたで」
俺の手には帰りのSHRで配られたプリント。そこには“遠足のお知らせ”と書いてある。何を隠そうこれこそが俺を暗くさせてる原因だ
「なんや、行きたないんか?」
「いや、行きたくないわけでは……あー、ちょっとあるか」
「なんやそれ」
「ドバイなんて行ったことねぇし、この先行く予定が出来る気もしねぇからよ」
行き先はドバイ。去年はラスベガスだったな。遠足のくせに3泊5日する。なかなかハードスケジュールだが、毎年楽しんでいた。でも今年は不安のほうがデカイ
「今年はジローと同じクラスだ」
「……ご愁傷さま」
合点がいったとばかりに同情の眼差しを向ける忍足。ジローは過去に何度も寝過ごして飛行機に乗り遅れたり失踪して捜索されたりと、よく平気な顔して学校来てるなって疑問に思うくらい周囲に迷惑をかけている。去年の遠足でも例に漏れずみんなとはぐれ、跡部がヘリで捜索していた

そんなジローを危惧した先生から白羽の矢が立ったのは、俺。最初から俺一択。まっすぐ俺めがけて飛んできた。ジローと同じグループになって、四六時中行動を共にして欲しいと頼まれた。さすがに先生とおはようからおやすみまで一緒は可哀想だからと。いやなんつーかもう、どうせ寝てるだけならそれでよくね?とは言えず小さく頷くしかない俺。そんなやりとりの最中でもジローは眠っていた
「しかもそのせいで4人のグループ作んなきゃなんねぇのに、誰も組んでくんねーからな…」
「うわあ…」
「参ったぜ…。なんかジローのヤツ“眠りの慈郎”とか“寝太郎くん”とか呼ばれはじめてるしよ…激ダサだぜ…」
「……」
俺があまりに真剣だから忍足は笑いを堪えるが、マジで俺からしたら笑い事じゃねえ。樺地みてーに担いで動き回れりゃいいが、さすがにそれはムリだ。授業中とは違うから起きてる時間もそこそこあるだろうが、それでも一度寝たらなかなか起きないのはクラスの誰よりも俺が身に沁みて理解してるだけに悩みが尽きない。ジローの唯一にして最大の欠点だぜ…。いつまでも俯いて笑いを堪える忍足に肘打ちして、一緒に考えろと促す
「………ふう…。あー、せやったら跡部と行動したらええんちゃう?」
「…クラス違うじゃねえか」
「いやそんなんええやろ。市内散策言うてもほぼ遊びと変わらんし、先生に話せば案外アッサリええって言われんで。たぶん」
「たぶんかよ。……でもそうだよな、確かにクラスの奴らも他のクラスの友達とも行動するっぽいこと言ってたのが何人か居たな」
「宍戸と跡部のふたり居ればジローもなんとかなるやろ」
「…つーかよ、それなら忍足でもいいじゃねーか」
「や、俺はもう広瀬と行動するんが決まってん」
「…激ダサだぜ」
広瀬とはテニス部の準レギュラーで、忍足と同じクラスだ。くそ、気楽でいいなコイツは。でも俺も跡部と行動出来たらかなり楽になる。あの規格外の行動力がありゃもしもジローを見失ってもなんとかなるだろう。早く跡部来ねえかなと、とっくにジャージに着替え終えていたが部室に留まってたらタイミングよく跡部が来た。しかもジローと岳人が一緒だ

「アーン?宍戸がまだコートに行ってねぇとは珍しいな」
「お前を待ってたんだよ」
「?なにかあったか?」
「ああ、大アリだぜ。ジローのせいでな」
「え〜?俺ぇ?なんかしたっけー?」
「なんもしてねーから問題なんだよ」
疑問符を浮かべるジローを置いて跡部に事情を説明すると、跡部だけじゃなく岳人も呆れた顔をした。まあそうなるよな
「ったく、先生にいらねー心労かけさせてんじゃねえよ。そう言う事なら俺はかまわねえぜ」
「まじか、助かるぜ!サンキューな!」
「えっ跡部ともまわれんの!?やったー楽しみー!」
「楽しみー!じゃねぇよ。亮も苦労すんな、ジローと同じクラスなんてよ」
「ほんまやな」
えー?と不満顔なジローにはもう苦笑するしかない。跡部によると、A組は具体的なグループ分けなどはまだ話していないがきっとほぼ自由に組むことになるとのことだ。A組にも他のクラスのヤツと行動したいと言ってるヤツが居るらしく、名目は遠足なので課題さえこなせば後は好きに楽しんでいいと先生が言ってたらしい。それを聞いて、俺のところもまったく決まってないと岳人が着替えながら話す
「そういやさ、去年は俺のクラス男女混合のグループにしなくちゃなんなくてよ」
「うわそれめんどくさいC〜」
「な、俺もそのときそう思ったんだけどよ、ほらジロー達のクラスに関口っているだろ?関口達と同じグループになれたからスゲー楽しめたぜ」
「関口?いたっけ?」
「ジローお前なぁ…お前の後ろにすわってるぞ」
「え〜?まじ?」
「アイツ話しやすいから今度喋ってみろよ」
「ジローが迷惑かけるかもしんねぇしな」
「かけないC〜!」
「どうやろな」
「関口怒らせるとけっこうこえーから気をつけろよ。…まあ俺はどっちかっつーと苗字のほうが恐かったけど…」
「ああ、せやったなぁ。岳人、苗字さんのこと怒らしとったな」
「厳密には俺じゃねーよ!」
「まず苗字って誰だよ…」
「俺も知らなーい」
「あ?だから苗字も去年、」
「…おらテメエら、いつまでも喋ってねーでさっさと着替えろやがれ。周回増やすぞ」

岳人を遮り跡部に声をかけられたので俺は慌てて部室を出た。苗字が誰だかわからずじまいだが、岳人のことだからそのうち思い出したように続きを話すだろう。それよりも俺はクラスメイトをまだ把握しきれてないジローに呆れた。まあいい、ともかくこれで遠足は安心して行ける。晴々しい気持ちで、今日も全力でテニスに打ち込めるのだ
























心がきみを掠める瞬間



(なんだよ跡部今日機嫌悪くね?)(…おん。今日っちゅーか今やな)















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うーん、がっくん出張るなぁ

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