氷帝学園で過ごす

□5月、図書室にて
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※忍足視点




氷帝では試験1週間前から部活動が停止する。中学のときはそれでも自主トレする生徒が多かったが、高校ともなれば授業の幅も広がりしっかり勉強しなければテストで点数が取れない為、自主トレする者は少ない。かく言う俺も出来ればこの期間はきっちり勉強に当てたいので、放課後のいま図書室に来ていた。試験前でしかも場所が図書室だとさすがに声をかけてくる女子はあまりいない。挨拶程度でも立て続けに何人もとなると気が散ってしまうのでこれはありがたい。それでもつい隅の席に収まるのはクセみたいなものだ。落ち着けそうな場所を見つけ、数学の授業で配られたプリントを広げた
「隣座るぞ」
「…なんや跡部か……とジローもか」
顔を上げれば可愛い女子、な少女漫画展開ではなく跡部。まあ声でわかってはいたし、セリフ的にも跡部様だ。それにしても跡部はなにもわかってない。ここはせめて、隣いいか?くらい謙虚に言えなければ恋は始まらない。跡部はスタートラインにすら立ててない。心の声をインサイトで見抜かれたのか怪訝な顔をしてきたので即座に心を閉ざした。俺の隣に跡部が座り、跡部の正面にジローが座る。座るっちゅーか突っ伏してる。試験前にこの組み合わせはよく見る光景で、跡部先生によるジローの為の特別授業だ。中学のときは微笑ましく思っていたけれど、高校ともなるとジローの将来がすごく不安に思えてならない。起きろと言う跡部の声にモニョモニョと返すジローはヨダレを垂らしていた。この寝太郎、あかんわ。それでもジローを起き上がらせ教科書を開かせる跡部の面倒見の良さに感心しながら、自分もさっさと終わらせなければいつ岳人が泣きついてくるかわからないのでプリントに意識を戻した

『跡部』
しばらく経った頃、誰かが跡部を呼んだ。反射的に顔を上げればそこには苗字さんが居た
『これ、ありがとうほんと助かった』
「ああ…気にするな」
『あとコレ、忍足も居ると思わなかったから少ないかもだけどみんなで食べて』
「あっポッキー!」
跡部に借りてたらしきノートと共に苗字さんはポッキーの箱を差し出す。それに反応したのはもちろんジローだ
「いちいち気を遣うんじゃねえよ…おいジロー、てめぇにくれたんじゃねー。開けようとすんな」
『ああいいよ別に。自分の買うついでだったし、芥川と同じクラスの友達から芥川いっつもポッキー食べてるって聞いてたから。跡部の好きな物知らないし知っても買えなさそうだからさ』
笑う苗字さんに複雑な顔をする跡部は、じっとジローの手にあるポッキーを見ている。ジローと同じクラスの友達とはきっと関口さんだろう。ありがとうと嬉しそうにお礼を言うジローに対し苗字さんは、跡部にあげたものだから食べるなら跡部にお礼を言うようにと返事した
「跡部サンキュー!」
「おい、やるなんて一言も言ってねぇだろ」
「えー!?くれないの!?」
「……そうじゃねえよ…」
「…ジロー、なんにしても図書室で食うたらあかんで」
「あっそっか。…ちぇ、帰りまでダメかぁ」
『じゃああたし帰るね。じゃあね跡部忍足、あと芥川も』
「おんおおきに。気ぃつけてな」
「サンキューな!…ええと…」
「苗字さんや」
「苗字!じゃあね!」
『うんバイバイ』
「…苗字」
『ん?』
「…いや…わざわざすまねえな。ありがたく食わせてもらう」
『そんなありがたがられる物でもないからなんか申し訳ないけど。あたしこそありがとねー』
苗字さんはもう一度バイバイと言って、図書室から出て行った。跡部はその姿を視線で送ってから再度ポッキーを見た

「此処でジローに勉強教えてる言うたん?」
「ああ…ドイツ語のノートで書き漏れがあったらしいから貸してたんだ」
「アレやで、跡部面倒見ええから貰ったもんみんなで食う思ったんちゃう?」
「アーン?なんの話だ…」
「いや別に…」
「えっ跡部って苗字のこと好きなの?」
「えっ!」
思わず大声をだしてしまった俺はとっさに口を抑えると、ジローがきょとんとして俺を見た。まじかジロー、まじか。たまに見せるジローの鋭さがかなわんわ。ちゅーか直球。ド直球。これ大丈夫なん?え?もしかして俺のせい?隣の気配が気になってどうしようもない。黙ったままの跡部がこわい。ジローもそれに気づいたらしく、視線を俺から跡部に移して、そして、
「ひえっ!?あ、跡部…?」
肩をビクつかせ青褪めるジローを見てきっと俺も青いだろう。ちらりと跡部を見ると、これでもかと言うくらい眉間にシワを寄せてジローにメンチ切っていた。こらあかんわ
「あ、跡部…なんやジローも俺もちょっとふざけただけやで、そんな怒らんでも…なあ?」
「そう!そうそう!なんとなーく言ってみただけだC〜!でも、変な噂立ったら大変だもんな!ごめん!」
「……そうじゃねえ…」
「え…?なにが?」
「………」
何が違うのか、ジローの疑問に返事せず依然としてむっつりしたまま跡部は黙りこくってしまった。跡部のくせに随分とハッキリしない態度だ。そんなんだからジローに鋭い指摘を受けるのだ。…ん?まてよ、……なんや、まさかこれは…
「…跡部…照れとる…?」
「えっ」
「うるせぇ今日はもう終わりだ俺は帰る」
「えっ」
ジローの手にあったポッキーをひったくり荒々しく席を立つ跡部に、俺とジローは口を開けて見入ってしまった。なんせあの天下の跡部様が照れるだなんて誰が想像出来る。少なくとも氷帝生は無理だ。そしてあのキレ顔が実はテレ顔だったなんて。確かに俺らが恋バナした事なんてほぼ無いから反応の予測はつかないけども、でも

「…跡部……本気で好きみたい」
そうなのだ。中学の時から氷帝の王様をやっていて、様々な好意を持って群がる女子達を跡部流に受け流してきたのを俺達は見続けてきたからわかる
「いつからなんだろ」
「どうやろ…クラス一緒になったんは今年が初めてやけど」
ここ最近、もしかしたらと思ってはいたけれど、だからといって跡部の片思いが始まったのも最近かどうかは別の話だ。ずっと温めていた物が、クラスが一緒になったことで表に現れはじめたのかもしれない。岳人が仲良いから、俺と岳人の会話には何度かポツポツ話題に出ているし、生徒会長の跡部なら苗字くらい以前から耳にしていたかもしれない。いずれにせよ今現在好きな気持ちは確かだろう
「跡部が好きになるヤツなら間違いなさそーだし、うまくいってほC!」
「…せやな」
にこにこするジローに同意したところで、俺達も帰ることにした。帰り道、ポッキーを分けてもらってないことに気づいたジローが落ち込んだのを宥めながら俺は、オススメの恋愛小説をいくつか跡部に貸すことを考えていた
























おとぎ話は聴き飽きた



(ちょお!?なんで床に叩きつけるん!?そない照れんでもええやんもう!)(うるせー!)

















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ジローむずかしいのう

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